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7.チームリーダーの受難

 ざまぁ職人の夜は長い。

 全く何もなく平穏なまま終わることもあれば、今日のように急遽仕事が舞い込むこともある。リットーゲイルは耳をピクリと動かすと立ち上がり、音もなく歩きはじめた。


 彼の瞳は世闇の中でも光りながら周囲を昼間のように映している。これはざまぁ職人の技術……ではなく、ウマの能力がユニコーンとして拡張されたことで現れた力だ。

 その瞳は、冒険者チームの1つを捉えた。そこでは早くも不穏な空気が立ち込めようとしている。


「リーダーさんよぉ、ほとほとアンタには愛想が尽きたよ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、僕が……」

「アンタは、人を率いるような器じゃねーんだよ!」


 どうやら、ざまぁ職人の見立ては正しかったようだ。

 パーティーリーダーは、何かと追放に携わることの多い立場であるが、決して安全とは言えないポジションである。

 世の多くのパーティーリーダーが定期的に有能な部下を追放するのは、自分の先を行きそうな後輩を、弱いうちに潰しておくという意味もあるのだろう。

「くたばれ!」

「うわあ!」

 そういう行動ができないリーダーというモノは、下剋上を起こされて命を落とすことも多い。冒険者の中には悪人、場合によっては犯罪者も混じっているからだ。


「お前のような童貞お人よしなら、天国とやらにでも行けるだろうよ」

「せいぜい、天使のねーちゃんにでも可愛がってもらうんだな。クソリーダー!」

 斬りつけられたリーダーは気を失ったらしく、下剋上を起こした新リーダーたちはいびつな笑みを浮かべながら、リーダーの持っていた武器や金品を奪っていった。



 ざまぁ職人ことリットーゲイルは、ならず者が立ち去ったのを確認すると、置き去りにされた革袋を一瞥した後で、倒れているリーダーに近づいた。

『……まだ、息があるな』

 彼はまず、傷口をユニコーンホーンの光で消毒すると、続いて止血の魔法をかけてから、一気にヒーリングで回復してみせた。その間は治療開始から終了まで10秒ほどである。

「ん……あれ? 僕は……確かに斬りつけられたはず……!」


 その冒険者の元リーダーは、ポカンとした様子でリットーゲイルを眺めていた。

 冒険者にとってユニコーンは未確認生物と言えるほど珍しく、そんな存在が目の前にいるのだから思考停止することも十分にあり得る。

 なのでリットーゲイルは、ゲスコーンの顔をした。

『美しい処女かと思ったら……なんだ男か』


 そう伝えると、元リーダーもクスッと笑った。

「そうだ男だよ……悪いかい?」

『悪い、ツーノッパで一番悪い、ついでに世界で一番悪い!』

「おお、僕は何て大物なんだ!」

 おお、やはり冒険者パーティーを率いていただけのことはあり、この元リーダーは打てば響くようだ。ゲスコーンも、見込んだ通りだ。コイツを使い走りにしたい。と言いたそうなゲス顔をしている。


『ところで、さっきの男たち……こっちに戻ってきているよ?』

「え……?」

 実はゲスコーンは、先ほどの冒険者一行が戻って来ることに気が付いていた。

 元リーダーの青年の側には袋がひとつ置かれており、それを取りに戻って来ると感じていたからだ。


 その直後に、ガチャガチャという金属音と共に、先ほどの男たちが戻ってきた。

「いけねいけね、忘れ物しちまった……!?」

 男たちは驚いた様子で元リーダーと、リットーゲイルを眺めていた。

 まさか、自分たちが下剋上を果たした相手が、ユニコーンに認められるような存在だったなど、夢にも思わなかっただろう。

 特に新リーダーとなった男は、顔を真っ赤にしてリットーゲイルを睨んでいた。


「こ、こんな奴を真のユニコーンが認めるはずがねえ。コイツはバイコーンだ!」

 その言葉を聞いた子分たちも声を上げた。

「そうですね、クソ童貞ともどもぶっ潰しましょう!!」

「くたばれウマカス!」

「角は有難く売っ払ってやるよぉ!」

 リットーゲイルは、角や目を緑色に光らせたまま迎撃の体勢を取った。


 カンカンボコッ、カンボカ、ヒュンボコン、カンボコドカッ!


 手下の4人が襲い掛かってきたものの、近接系の3人は軽く叩きのめされた。

 弓をヒュンと放ってきた冒険者も、大地系の投射魔法で簡単に撃退されたのである。というか耐久力の高い奴が1人いたな。問題なくやられたけど……。


 さて、残った敵の新リーダーだが、手下が軽くいなされたので大慌てで土下座していた。

「わ、悪かった……俺が悪かった。この通りだ、許してくれ。この通り! どうか、後生だからご容赦ください!」

『…………』

 リットーゲイルは必死な男の顔を見ると、視線を逸らして男に背を向けた。すると……

「とぉ……見せかけてぇ!」

 男が剣を構えて襲い掛かってきたとき、リットーゲイルはゲスコーンの顔をしていた。


 ボカドカッ……バコーン!!


 ええーと、これは解説が必要なので補足しよう。

 新リーダーの得意技であるだまし討ちにより、後ろを取られたはずのゲスコーンだったが、ウマの後ろ脚キックは、人間を即死させることもあるほど強力なものだ。

 一角獣ブーストのかかったリットーゲイルの後ろ両脚キックは、左が男の顔面、右が胸にぶつかり、そのまま衝撃で弾き飛ばされて背面の樹木に激突。歯が数本飛び、白目を剥いたヤバい表情で崩れ落ちたという訳である。


 ちなみに、よくキンキンの後に聞こえてくるボカとかドカという音は、基本的に前脚蹴りやヒザ鉄砲のカウンターなので、食らった冒険者は3日ほど食事が喉を通らなくなる程度の威力である。


 真っ青な表情で立ち尽くしている元リーダーに、リットーゲイルは言った。

『お兄さん、こいつらから武器やアイテムを残らず引っぺがしておいて』

「は、はい!」


 こうして前の密猟者チームに加えて、新たにパンツ1丁パーティーがめでたく誕生したというわけである。


リットーゲイルの救済者 5人(?)目:パンツ1丁になった下剋上冒険者たち

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