5.見捨てられたオッサン冒険者
2番目のお客さんは、女神官を送り届けた3日後に現れた。
その日、ユニコーンのざまぁ職人リットーゲイルは野草を食べていたが、こんな時でも不意に仕事が入り込むことが、ざまぁ職人のつらいところである。
彼は耳をピクリと動かすと、食事を中断してゆっくりと歩き出した。
そして目的地へと急行すると、そこではやはり冒険者たちが揉めていた。
「そんなこと言わないでくれ。俺はまだローンが残ってるんだよ」
そう言ったのは中年男性の戦士だった。他のメンバーは若者ばかりだったから、一人だけ中年の男がいるととても目立つ。
『嫌に低姿勢だな……この年齢差ならリーダーとかやってそうなのに』
「うるせーんだよ荷物持ち! 他に行き場のないゴミだから、うちで特別に使ってやってるってのに!」
「鈍いしすぐにへばるし、全く使い物にならねーやつだ!」
「クビにしようぜクビ!」
その言葉を聞いた、リーダー風の戦士は笑った。
「そうだな。オッサン……てめえはクビだ。それから迷惑料として荷物は全部おいてけ!」
オッサン荷物持ちは、真っ青になって言った。
「ま、待ってください。家にはハラを減らした子供が3人もいます……どうか、それだけは……!」
「うるせークズ! ガキともどもとっとと〇ね!」
荷物持ちは、仲間だった冒険者から足蹴にされたり殴られたりしたうえに、金目のものを根こそぎ奪われてしまった。
それだけでなく、オッサンは顔中体中がアザだらけで痛々しい姿のまま転がっており、さすがのリットーゲイルも気の毒そうな顔をしながら角を現して近づいていく。
そのオッサンは弱っていたと見え、リットーゲイルが1メートル以内に近づいてゆっくりと腰を下ろさないと、その存在に気づかないほどだった。
「あ、あなたは!?」
『ずいぶんと手ひどくやられていたね。痛み止めくらいはできるから……少しじっとしていて』
とか言いながらリットーゲイルは、ヒールで荷物持ちオッサンの傷を見事に癒やして見せた。
ゲスコーンらしからぬ行いに見えるが、元々リットーゲイルは荷運びウマであり、オッサンの姿がかつての自分のように見えて哀れに思ったのだろう。
「……? ……!? 傷が、嘘のように!?」
『君は一家の大黒柱で、その身体は大事な資本なんだ』
そこまで言うと、コイツはゲスコーンの顔をした。
『だからこれで……君も明日からも馬車ウマのように働きながら、家族から粗大ごみ扱いをしてもらえるようになるよ!』
そう伝えると、荷物持ちのオッサンは「ははははは……」と力なく笑った。
「ありがとう。確かに君の言う通り……僕は本当に粗大ゴミだよ」
リットーゲイルが首を傾げると、オッサンは言った。
「さっき奪われた服は、死んだ妻が夜なべをして作ってくれた代物なんだ。せめて流行り病でも生き残った子供たちだけでも飢えさせないようにって……慣れない冒険者家業にきたけれど、上手くいくものじゃない」
リットーゲイルは真剣な表情で言った。
『ねえ、足クサ粗大ごみのオッサン!』
「な、なんだい!?」
『どう生きようが、それは君の人生さ……だけどね、子供たちがお腹を空かせて待っているのなら、もっとたくましく生きないといけない!』
オッサンがごくりと唾を呑むと、リットーゲイルは更に言った。
『冒険者の荷物持ちで稼げないのなら、別の方法で稼げばいい』
「い、一体……何で稼げばいいのです!?」
『決まってるじゃないか! 僕のボロを掴む……そして乾燥させて売る!』
その突拍子もない一言に、人の好いオッサンも真顔になっていた。
それはそうだ。ボロってウ〇コのことだ。まあ、この世界にはユニコーンのボロは薬になるっていうトンデモ療法が流行っているから、リットーゲイルの言っていることも的外れではなかったりする。
衛生的に良くないから、ファンタジー世界に行けたとしても、くれぐれも触ったり傷口に塗ったりしないように(そんなことする人はいないと思うけど……)
「わ、わかりました……家族のためなら、その程度のこと……喜んでやります!」
そう言って、この人の好いオッサンは両手を差し出したので、さすがのリットーゲイルも困惑した表情をしていた。
『ごめん。よく考えてみれば今は便秘気味だった……別の方法を試そう』
彼はそういうと、近くにあった葉っぱに角を近づけた。
『こうするとね……』
「こうすると?」
『あら不思議……草から種が出てきたぞ?』
豆を受け取ったオッサンは、感謝した様子で言った。
「おお、これだけあれば……今晩くらいはお腹いっぱいに食べさせてやることができます」
『うん、この種はいいよ。本来は家畜のエサとして売られているモノだけど』
さらりと嫌なことを言うおウマさんである。
しかし、人の好いオッサンはとても感謝した様子で言った。
「とんでもない。食べられるものが手に入るのは、とてもありがたいことです……ケガまで治して下さり、感謝の言葉もありません」
リットーゲイルもにっこりと笑った。
『世の中は理不尽なことで満ちているけど、決してめげてはいけないということを……子供たちに教えてあげてね』
「もちろんです。雑草のごとく生きていきます!」
そう言うと、オッサンは下着姿のまま立ち去って行った。
にっこりと笑っていたリットーゲイルだが、おっさんの姿が見えなくなると、耳を絞ったうえに、鼻の穴を大きく開き、更にこめかみの辺りに血管を浮き上がらせていた。
そして、その目が先程までおっさんに暴行を加えていた若者パーティーを映したのである。
リットーゲイルの救済者 3人目:荷物持ちオッサン
【作者からのお願い】
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
気に入って頂けたら【ブックマーク】や、広告バーナー下の【☆☆☆☆☆】に評価をよろしくお願いします。
また、★ひとつをブックマーク代わりに挟むことも歓迎しています。お気軽に、評価欄の星に色を付けてください。