4.その頃の勇者パーティー
さて、無事に喋るウマを追い出し、気持ちよく歩いていた勇者率いる冒険者チームだったが、少しずつ問題が起こりはじめていたようだ。
「な、なんか……今日は、ずいぶん敵に襲われるな」
戦士が頭に包帯を巻いた状態で言うと、格闘家も体中が泥だらけになりながら頷いた。
「ああ、こりゃ一体……どうなっているんだ?」
リットーゲイルは500キログラムほどあったため、肩までの高さだけで165センチメートルある。襲おうとするモンスターに十分なプレッシャーをかけ、戦闘を何度も回避していたのだ。
「なあリーダー……荷馬がいないから、戦利品の回収ができないんだが?」
戦士が言うと、勇者はダルそうに戦士たちを睨んだ。
「うるせーな、そんなのてめーらで運べよ……」
「そんなメチャクチャな……」
修道士は言った。
「ポケットシェルターの登場が待ち遠しいですね」
ポケットシェルターとは、簡単に言えばアイテムを異空間に入れておく収納魔法の力を封じたアイテムのことだ。
その言葉を聞いた弓使いは、難しい顔をしたまま答えた。
「あれはあれで問題があるみたいだよ。ポケットシェルターは一見便利に見えるけど、1日の出し入れ回数に制限があったり、しばらく回収していないものにカビが生えたり、いざとなったときに出そうとすると違うモノが出てきて混乱したりするみたい」
格闘家も頷いた。
「虫の卵が紛れていたから、中が虫だらけになったって言っていた先輩冒険者がいたな」
そう、一般的な冒険譚で収納魔法は便利で万能に見えるが、あれはあくまで勇者特別仕様の優れモノである。現地民の使う収納魔法はこの程度なのだ。
戦士や修道士は、ひきつった顔でお互いを見合った。
「そりゃ嫌だな……」
「確か、収納魔法やポケットシェルターを使うことを妨害するトラップもありましたね。やっぱりウマはいた方がよさそうです……いくらするのでしょう?」
「待っていてね……いま、市場調査するから」
弓使いは目を瞑ると、固有スキルを発動させた。
彼女は使い魔契約を交わした小鳥と、自分の脳裏に映し出す特技を持っているのである。さすがに勇者パーティーにいるだけあり、優秀な探索系能力を持っている。
ちなみに、彼女の冒険者ランクはA。ランク内の格を示す横線は2本だ。
「これは困ったね。一番安いウマなら金貨5枚ほどで買えるんだけど……」
「え!? 安い奴でも金貨5枚もするのかよ!?」
戦士が声を裏返すと、格闘家はそんなことも知らないのか……と言いたそうに呆れた顔をしながら答えた。
「おいおい、農耕馬でも王都民の年収の半分くらいはするもんだぞ。つーか、あの喋った奴を買ったときを思い出せ」
「いや、あれは……初任務の時に偶然森にいたのを拾ったから」
「どこまでついてるんだ……お前らは……」
修道士も難しい顔で言った。
「私たちは冒険をするのですから、やはり騎士が戦いで使うような勇敢で賢いウマでなければいけませんね」
そう言われて格闘家も、財布代わりの革袋を眺めた。
「一番高いのは幾らだ?」
「ええと……待ってね。一番高いのは……おお、プラチナ貨15枚!」
その言葉を聞いた戦士一行は「おおっ!」と叫んだ。
ちなみに、この世界の貨幣レートは、プラチナ貨1=金貨10=銀貨200=銅貨6000である。
「プラチナ……海外貿易でしかお目にできない通貨ですね」
「騎士様の年収に匹敵する金額じゃないか!」
「正確には、それが最低価格で……オークションが始まるみたい」
一同は、強張った表情をした。
「なんだその高額ウマは、ユニコーンか? ペガサスか!?」
弓使いは目を瞑ったまま答えた。
「見た目は普通のウマだね……ええと芦毛で、体重は490キログラム。性別は牡。性格は勇敢で聡明。常に周囲を警戒しており、危機の際は……人語を操って警戒を促します」
その言葉を聞いた勇者一行は、しばらく沈黙に包まれていた。
「…………」
「…………」
「…………」
沈黙を破ったのは、格闘家だった。
「角とか……翼とか……生えてなくて……その金額なのか?」
弓使いは頷いた。
「どうやらユニコーンやペガサスは、王国が保護対象にしているから取引できないみたい。とはいっても、密猟者が角を奪って闇ルートで売りさばいているのが現状だけどね」
戦士も頭を抱えたまま叫んだ。
「つーかそれ、どう見てもさっきまで俺たちの飼ってたウマじゃん! プラチナ貨15枚ってふざけんなよぉ!」
「体の模様は全然違うよ。というか……喋るウマってユニコーン予備軍だって、オークションの司会者がいってる」
ユニコーン予備軍という話を聞き、勇者一行はひきつった顔をした。
特に表情を崩したのが修道士、戦士である。
戦士は、ユニコーンに認められると回復魔法の使える騎士パラディンになれる可能性が生まれるし、修道士は賢者への道が開けるのだから、彼らはまさに涙目の状態となっていた。
勇者は言った。
「なら簡単な話だ。すぐに滝壺に落ちたユニコーン予備軍を探せ!」
「で、でもどうやって説得するの? さっき目が合ったら物凄い勢いで逃げてったよ!」
「はぁ? 説得なんてする必要はねえ、腕ずくで戻しゃいいんだよ!」
勇者が指図すると、弓使いは「わ、わかった」と言いながら別の鳥の視野を脳内に映した。
当然の話だが、リットーゲイルは迷いの森まで走り抜けてしまっているため、彼らでは見つけることは不可能だろう。
「あ……!」
「どうした、見つけたか?」
「ううん、さっきオークションにかけられていた喋るウマだけど、プラチナ貨……114枚で落札されてた」
物価などの状況から、日本円に換算して約1億1400万円。良血馬なら、それくらいの値段がつくこともある金額だが……勇者一行にとっては、高い授業料になったようだ。
【作者からのお願い】
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
気に入って頂けたら【ブックマーク】や、広告バーナー下の【☆☆☆☆☆】に評価をよろしくお願いします。
また、★ひとつをブックマーク代わりに挟むことも歓迎しています。お気軽に、評価欄の星に色を付けてください。