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11.精霊様とゲスコーン

 ざまぁ職人ことクードヴァンは、フェリシアン隊長と共に教会に来ていた。

 教会の入り口では、以前助けた女神官が掃き掃除をしているが、彼女はクードヴァンの姿を初めて見るため、その中身があのユニコーンだと気づくことは無い。


 フェリシアン隊長は女神官と挨拶を交わすと、そのまま教会の墓地へと向かった。

「お師匠さま。一体こんなところになにが……?」

 小声でフェリシア隊長が質問してきたが、クードヴァンは「静かに……」と言いながら注意深く辺りを見回していた。

 彼はしばらくの間、感覚を研ぎ澄ますように周囲を確認し、やがて瞳に何かを映すと墓地の隅の方へと歩いて行った。人間嫌いなクードヴァンに、一般冒険者を仲間にするという考えは最初からないのである。


 クードヴァンが目を付けたのは、墓地の片隅にあった目立たない小さな墓である。彼は小さな声で言う。

「道半ばで果てた者よ……まだ、その心に未練があるなら僕の剣となって戦ってはくれまいか?」


 墓地の中から小さな光が現れると、クードヴァンの胸の中へと入っていった。彼はゆっくりと振り返るとフェリシアン隊長を見る。

「1人分ですが、本体は手に入りました……後は鎧となる肉体が必要ですね」

「肉体はどこにあるのでしょう?」


 クードヴァンには3つのアイディアがあった。

 下策。悪辣冒険者を1人見つけて魂を壊し、体を乗っ取る。

 中策。人間の死体や動物の肉を上手につなぎ合わせて、人間に見える肉体を再構築する。

 やはりこれしかないかと思いながら、クードヴァンは森の中へと入った。


 彼は一角獣リットーゲイルへと姿を戻すと、角を光らせながら言った。

『精霊様ー 良い魂を1つ手に入れたんだ。ガーディアンにしたいから肉体ちょうだい』

『シン、キショ、ウセ、ツサク、セイ!(できませーん、ごめんなさーい!)』

『ルビヲフル!(精霊とシッポン人のできませんは、信用できませーん!)』

『フリーメ、モキノ、ウ……(いやいや、倫理的な問題がありまして……)』

『プレ、ビューキ、ノ、ウ(マナポイントならあるし、余ったら手数料ということで……)』

『…………』


 少し間を開けてから精霊は質問をしてきた。

『ニュウリョ、ク、ホジョキ、ノ、ウ?(そ、それは……本当ですか?)』

 リットーゲイルはゲス顔をしながら頷くと精霊も姿を現した。

『ささ、お代官様……こちらは、ツーノッパ地方の銘菓にございます』


 その言葉を聞いた精霊も清純そうな顔が一変し、いかにも悪徳領主や役人がしようなゲス顔を見せてくれた。

 マナとはMPから作り出すエネルギーのようなもので、精霊にとってはお金にも等しい代物なのである。

『まあ、これは美味しそうな山吹色のお菓子(マナケーキ)だこと……』

『この銘菓も、貴方様のような聡明な御方の前では……かすんでしまいます』

 そうおだてられると、精霊もゲス顔をしたまま笑った。

『まあお上手……一角獣殿もいけない御方でいらっしゃいます』

『頭がいいと仰ってください』


 クスクスと2人は笑い声を響かせると、間もなく商談は成立した。

 その一部始終を眺めていたフェリシアンは、ポカンとしたまま立ち尽くしていた。後ろに教会があるため気まずそうな顔をしているが、精霊とリットーゲイルはお構いなしという感じだ。

 

 精霊は受け取ったマナを受け取ると、リットーゲイルが保護していた魂を見て頷いた。

『夕刻までには完成させておきます』

『では、僕は次の魂を探してきます……』

 再び、このウマはゲス顔になった。

『見つけた際は、ぜひ……』

 精霊もまた、眉毛が八の字になるほどのゲス顔になって笑いかけていた。



 リットーゲイルは、再び人間の少年クードヴァンへと戻ると、なにくわぬ顔で服を着て教会の墓地を見て回った。

 そして今度は教会よりの場所で別の魂を見つけると、手元へと手繰り寄せてから、再び精霊の前へとやってきて、例のお菓子と共に肉体制作を依頼していく。


 そして日没。

 クードヴァンとフェリシアンが姿を現すと、精霊は軽く体をほぐしながら彼らを出迎えた。

『私の力ではこれが限界です』

 そう言いながら彼女が合図をすると、木の後ろ側から甲冑姿の少女が現れた。

 彼女はクードヴァンよりも背が高く、腰には剣と杖を下げている。また髪の毛が長いらしく、兜からは栗色の髪の毛がはみ出しており、艶があって美しかった。

「私の名はデルフィーヌと申します。以後……お見知りおきください」


 さすがは精霊だと、フェリシアンはもちろんクードヴァンも思っていた。

 これだけ精巧につくられたガーディアンなら、探索系と言われる使い手でも精密検査でもしない限りは正体がバレることはないだろう。

「ありがとうございます。やはり貴方様にご相談した甲斐がありました」

 クードヴァンが会釈すると精霊は言った。

「あれほど美味しいお菓子を頂いたのです。これくらいは当然……」


 彼女はゲス顔になると言った。

「翌朝になったらまた来てください。夜のうちに済ませておきます」

「ありがとうございます」


 ちなみにもう一人のガーディアンは、オオカミ族の少女の魂をベースにしている。

 彼女の名はイーヴィと言い、魂としての彼女は人間に強い憧れを持っていたため、犬耳と尻尾と足の肉球だけを残して、他は人間という形での肉体となった。


 そのため、翌朝に迎えに行くと、ブレストプレートとチェインメイルを付け、頭はフードで隠しているという軽戦士タイプのガーディアンになったのである。



 こうしてフェリシアン隊のメンバーがそろった。

 リーダーであるフェリシアンは戦士であり、タンク役も務める。

 魔法戦士デルフィーヌは、フェリシアンの援護をしつつ、クードヴァンを守るための要。

 軽戦士イーヴィは、俊足で敵をかく乱と乱戦時のサポート役。

 そして、サブリーダーであるクードヴァンは魔導士として、部隊後方から仲間を守る。


 そこまで考えると、クードヴァンはゲス顔になった。

 このチームの何がいいのかと言えば、本当に偉いのが誰なのかはっきりしていることである。ガーディアン役の少女2人は、持ち主であるクードヴァンに逆らえるはずがなく、リーダーであるフェリシアンも家来のようなものだ。


 つまりここは、クードヴァンが影の支配者であり、法律であり、以前のように鞭で叩いて脅すようなクズはいないのである。

 なんだかいい気分になっていると、リーダーであるフェリシアンは言った。

「ではお師匠様。ギルドで彼女たちの登録を済ませ……クエストをこなしましょう」


 クードヴァンは好青年の表情に戻った。

「わかりました隊長。いま参ります!」


リットーゲイルの救済者 8人目:森の精霊さま

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