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1.ざまぁ職人の誕生(前編)

「こ……こいつ、さっき喋ってやがったぞ!」

 勇者が震える指をウマに向けると、修道士や弓使いも得体の知れないモノを見るような視線をウマに向けた。

 彼らだけではない、戦士や格闘家までウマのことを真顔で見つめている。


 ウマは戸惑った様子で視線を下げたが、すでに後の祭りだった。

 格闘家は「バケモノ……」と小声でつぶやき、戦士も剣をウマに向けたが腰が引けているだけでなく、刃先が震えている。

 そして、叫んだ。

「何とか言えよバイコーン!」


「やめてください! 下手に刺激すると……本当に魔物化します!」

 修道士が甲高い声で叫ぶと、戦士はどうすればいいんだよ。と言いたそうな表情をしていた。かつての仲間の中でウマの味方になってくれそうな人間は誰一人としていない。

 ウマは完全に孤立していた。



 この物語の主人公であるウマは、確かに先ほど叫び声をあげた。

 しかしそれは、勇者一行を危険から守るためだった。勇者一行はその声によって魔物の奇襲を受けることを回避し、全員が生き残ったわけだが、話はそう単純には終わらない。


 ウマは基本的に、喋ってはいけない動物である。

 悠長に喋れる動物は魔物と刷り込まれている彼らを前に、どのような言葉を用いてもウマが身の潔白を証明することは不可能だ。

 だけど、不可能といえば許してもらえるほど世の中は甘くない。

『確かに喋れるようになっていたことを黙っていたのは謝るよ。だけど……』

「やっぱり喋ってる!」

 そう弓使いが不気味がりながらウマを指さすと、戦士も絶叫した。

「俺たちは魔物と一緒に冒険してたのかよ……冗談じゃねえ!」


「クビだ。さっさとパーティーから出ていけ……この悪魔!」

 勇者に蹴飛ばされると、ウマは真っ逆さまに崖から落ちた。そして落ちていく中で彼は、何を間違えたのか考えていた。

 

 考えても見れば、最初からウマは勇者一行には歓迎されていなかった。

 野生馬として駆け出し冒険者である勇者と出会ったとき、勇者たちは迷惑そうにウマを見ていたが、荷物は運べそうなのでという理由でとりあえず、パーティーにいれた雰囲気だった。

 しかし、当時のウマは人間の表情や心というものをよく理解できなかった。だから、冒険を手伝ったり仲間として触れ合っていけば、いずれは勇者たちも仲間として認めてくれると信じて疑わなかった。


 しかし、勇者たちはウマを、ただの荷物運びの道具としてしか見てくれなかった。

 どうしたら彼らは、自分のことを認めてくれるだろうと、ウマは人間の心がわからないながらも、一生懸命に考えた。

 考えに考え抜いた結果。ある事実に気が付いたのである。


――僕は喋れないから、仲間として認められないんだろう。きっと会話が可能になれば彼らもわかってくれる。


 だからこそウマは、勇者たちが寝静まった後にひっそりと言葉の練習をした。

 そのうえ、勇者たちと行動を共にすることで、レベルというモノが上がっていた。そのレベルアップで得たボーナス値を賢さに振り分けていたのである。日々の密かな努力と、恵まれたボーナスポイントを得ることによって、彼は乾いた綿のように言葉を操っていき、遂に完全に喋れるようになった。


 そして晴れて喋れるようになった日。勇者一行の不意を突くようにモンスターが襲ってきたという訳である。


――7時の方角からアビスベア!


 今の言葉によって勇者一行は危機を脱することができたが、彼らは先ほどの通り命を助けられたことよりも、喋れるウマと一緒にいたということを不気味がった。

 そして、蹴りを入れて滝つぼに落とすというのが、彼らの答えだったわけである。



 何とか水面まで上がったウマは、泳ぎながら岸へとたどり着くと、びしょぬれになった体の水滴を振り払った。

『僕はとんでもない誤解をしていた。そもそも姿がかけ離れ過ぎているのだから……ウマとヒトが分かり合えるはずがないんだ』


 人間という種族は、ウマを道具としてしか見ない生き物。分かり合えない存在だ。

 だから、一緒に冒険していた時も乱暴に扱われたし、ご飯を抜かれたり、言うことを聞かせようと鞭でひっぱたかれたりもした。

 だけど、勇者は……人間たちは強大だ、逃げないと今度こそ殺されてしまうかもしれない。


 その不安を感じた直後、ウマは嫌な視線を感じた。

 先ほど自分を滝つぼに落とした勇者一行の1人である弓使いが、崖上の物陰から身を隠しながらウマを眺めていたのだ。

 全身の毛が逆立ち、冷や汗をどっと流したウマは……一目散に逃げることを選んだ。

【作者からのお願い】

 ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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