回転
「そういう訳で、メッツ、テスタルド、アイネに指名依頼を出したいんだけど、彼らは最近ギルドに来るかな?」
受付がたまたまアメリーとウィレンスタークだったので二人に聞いてみた
「大丈夫だと思いますよ。滞在場所も解かってますので使いを出して置きます。明日の朝、ギルドで宜しいですか?」
「うん、それで頼むよ。ウディッツ達も明日の朝ギルド集合な」
「そりゃ構わないが、何者だい?」
「天才集団さ」
あとは明日のお楽しみである
ウディッツはギルドの仮眠室に泊まり、テミスとアルカは別の宿に泊まっているそうな
我は『猫の手亭』に戻ったのである
「い、いらっしゃーい、食事ですか、泊りですかぁ?ってエクス殿!」
イグノランテが働いていた
「何故ここにイグノランテが居るんだ?」
我の頭に疑問が浮かぶぅ、真実つかめと轟さぁけぶぅ!
「単純にケンプファーでの生活費稼ぎだな。いままで狩人ギルドでしか仕事をしてきていなかったから働き口が無くてな、ここで臨時雇いをしてもらっている」
後ろからグランツが答えてくれた
「ギルド員の貯金を払ったらギルドの予備金がなくなったそうでな。貯金を下ろせないまま脱出したんで手持ちがないらしいんだわ」とこっそり教えてくれた
「借金もせずに自分で稼ごうとしているのか」
「うちなら賄いも出せるしな。ギルド職員用の部屋ある」
「え、あ、その、エクス殿、は此方の宿で・・・?」
「ああ縁があって此方で厄介になってる」
「グランツ!私は出ていった方が・・・」
イグノランテは宿を出ていこうとするが、それを引き止める
「なぜ、そうなる。出ていく必要などないだろう?」
「いや、その、私が居たらエクス殿が不愉快かと・・・・・」
はて?と首をかしげる
「なぜ?私が不愉快に?」
「だって、あれだけ文句言ったのに・・・・」
「それだけ真剣だったのだろう。過ぎた事さ、気にするな。あんたが真面目過ぎるってのは解っているからな」
問題ないと手を振る
「そ、そうか」
何とかなっとくしたようであるな
「ただいま戻りましたーってイグノランテ!どうしてここに?」
シトナイ達が狩から帰ってきたようだ
「ほんとだ!」「ギルド長?」「ケンプファーに来たの?」12人で一気に囲んでしまった
ワイワイと話し合っている
そもそも『猫の手亭』は元ワークルエの12人が泊っているから、部屋は空いていない
客は食事くらいだが席は20席くらいの食堂である
「なあグランツ」
「なんだエクス」
「もう飲み会にしないか?イグノランテの歓迎会ってことで」
「費用と料理はエクスな。昨日、酒場で作っていた奴を頼む。親父!エクスが新作を作るらしいぞ」
マッチョ親父は黙って親指を立てる
「在庫がないから全部は作れんぞ?」
我は厨房に入って料理を親父の前で作って覚えてもらった
「てなわけで出来たのが『ハンバーグ』『餃子』『フライドポテト』『生姜焼き』『兎の嘉新揚げ』ついでに『メンチカツ』な。あと『ごはん』は食べにくいだろうから『塩おにぎり』にした。それと『ツヴィーべの味噌汁』」
ツヴィーべは玉ねぎである
不〇子ちゃんが、それぞれに酒を渡している
「じゃあグランツ、よろしく」
我もエールを受け取り席に座る
「っち、まぁいい。今日はイグノランテの歓迎会と、ちと遅くなったが『輝く夜明け』『希望の朝』の結成パーティーだ!今までのことは忘れて、明るい未来を手に入れろ!乾杯!!」
『かんぱーい』あちこちでコップをぶつける音が聞こえる
「わ、私が、歓迎されて、いいのだろうか・・・・」
「グランツが言ったろ?今までのことは忘れて明るい未来を手に入れろ!ってな。人生これからだろ?」
「そ、そうだな。うん。私も”これから”を目指すよ!」
そういうイグノランテは涙目になって、酒を飲みほした
近くにあるツマミを食べ”おいしい”と呟くと、どんどん食べ進めていった
暫く飲んでいるとシトナイがイグノランテに「負けません!」と宣言していたのは何だったんであろう
朝になり、皆がぞれぞれの仕事に赴く
イグノランテは今日も『猫の手亭』で働くらしい
我はダミーの背負鞄をもってギルドの酒場でメッツ達を待つことにする
「早いじゃないか。テミスもアルカもまだ来てないよ」
「店もないんだ。少しくらいゆっくりさせてやれよ」
「エクスさん、お待たせしました!」
「おはよう。メッツ、テスタルド、アイネ。良かったら朝食を一緒にとらないか?」
はいよろこんで!と飲み屋の店員張りに返事をして席に着く
ウディッツがギルド朝食セットを人数分配膳していく
更に一人分をもってきて席に座る
ウディッツが席に座ったので目を丸くするメッツ達だったが、気にしていない様だった
「エクスさん。指名依頼があると聞いてきたんですが」
「ああ、ちょっとばかし大きな仕事でな。3人とも、今の仕事はどんな感じだ?」
「・・・・すいません。頂いた費用で研究している状況です・・・・収入に至っておりません・・・」
メッツが代表して言う
「じゃあ今、急いでいる仕事は無いんだね?それは良かった。君たちにしかできない仕事を頼みたいんだよね」
「え?怒らないんですか?」とアイネ
「君たちは研究者だろ?費用を使って研究をして何故怒る?」
そういうと3人とも聖人を見るような目でこちらを見てきた
蚊帳の外の女中だけ胡乱な者を見る目であったが
「遅くなったが紹介しよう。この女中だがギルドのお偉いさんでな新しく出来る開拓村のギルド長になる、ウディッツだ。
で、こちらは俺が魔道具を研究してもらっているメッツ、テスタルド、アイネ」
「忘れられてるかと思ったよ。ウディッツだ。お偉いさんと言っても女中をしている閑職さね。エクスが何を企んでるかしらないがよろしく頼むよ」
「メッツです」「テスタルドです」「アイネです」
「「「よろしくお願いいたします」」」
「遅くなりました」
「おはよーござーまーすぅ」
テミスとアルカがやってきた
「む!朝食中でしたか、もしやエクス料理?」
「普通にパームがつくった奴だよ。昨日のエクス料理に刺激を受けたみたいでヤル気を出してたからねぇ」
そのエクス料理は確定なのであろうか
その会話で食事に興味をなくしたようである
「それでエクス君。今日は何で集めたのかな?」
「その前に紹介しよう。こっちの坊主マッチョがテミス、開拓村の村長になる。こっちの軽そうな姉さんがアルカ、商業ギルドを任される。こう見えて二人とも優秀だから侮ると手痛い返しを喰らうぞ。こちらは俺が魔道具を研究してもらっているメッツ、テスタルド、アイネ」
「メッツです」「テスタルドです」「アイネです」
「「「よろしくお願いいたします」」」
「さて全員揃ったところで場所を移動しようか」
といってもギルドの会議室なのであるが
「まず、開拓村重鎮の3人に見てもらうものがある」
背負い鞄から、回転する魔道具を出して3人に見せる
透明な球からパイプが伸びて下においてある円盤状の鉄製の部品に接続されている
「なんだいコレは?」
ウディッツに球に魔力を込めさせると、円盤状の部品が勢いよく回った
小気味よい音を立てながら回転を続ける円盤
「これが何だってんだい?魔力で円盤が回っているだけじゃないか」
ウディッツの評価にメッツ、テスタルド、アイネは渋い顔である
散々されてきた評価なのであろう
「くはは!ウディッツさんとも在ろうお方が、この天才たちの素晴らしさが解らんとはね」
「面倒な言い回しはやめな。それでこの魔道具がなんなんだい?」
「その前に三人とも、以前に商業ギルドで特許を通したと思うけど問題ないよね」
「はい、ウィレンスタークさんとアメリーさんが同行してくれて申請は受理されています」
そういって羊皮紙を差し出してきた
ほむほむ。特許に関する契約書みたいであるな
色々突込みたいところではあるが
「受取人がメッツ、テスタルド、アイネが1割。エクス研究所が2割。所長のエクスが3割・・・・このエクス研究所ってのは?」
「はい。法人として登録しておくと税金緩和がされるそうなので設立しました。もちろん所長はエクスさんです」
「それと特許料ってどれくらいかかるか聞いているか?」
「はい。受取人の合計で8割となりますので、金貨1枚の物を作るには銀貨80枚の特許料を払っていただけます。これを払わないとか誤魔化しがあれば、即奴隷落ちとして強制的に回収されるそうです」
即奴隷か・・・えぐいな
「ちょと失礼。正規の手続きですね、特許割合も常識的範囲内ですし問題は無さそうですよ?」
アルカが横から覗き込んで確認する
「そうかー・・・三人とも金に困らなくなるな」
「は?」「それは・・・」「どういうこと?」
我は全員に見せるように羊皮紙を広げる
まずは下水処理
街から流れ出た下水を一時的に留める『沈殿池』。ここでは固形物を破砕できるように”回転するギア”を入れる
『沈殿池』の次は『反応池』として底から空気を流し込み汚泥の活性化をさせるので”圧縮ポンプ”を使う
『反応池』の次に『第二沈殿池』をつくり底に溜まる汚泥と上澄みとに分ける
上澄みは『浄化槽』に流し浄化石を通してから川へ放水。放水にも”圧縮ポンプ”が必要だろう
汚泥は別処理するため移動させる”コンベア”なんかがあってもいいか
次に汚泥処理
集まった汚泥は脱水、発酵させて肥料とする
次に上水
川から取水したものを階上にあげる。汲み上げ水車の予定だが水量によっては”給水ポンプ”に変更される
各所への給水は自由落下で対応
使用するのは狩人ギルドと商人ギルドを併設した建物とする
其々の試作をエクス拠点で作り採用可否を決める
「そう言った感じでどうだ?もちろん拠点に関しては此方で費用は出す」
「こんな施設、想像もつかないよ・・・この下水施設ってのは必要なのかい?」
「俺が居たところでは常識だっただけだ。川の汚染や衛生面の向上で病気やケガでの死亡率が減ったな。こちらで下水をどう処理しているか知らんしな」
「街の地下に集められてスライムが処理している。時たまスライムを間引く仕事がギルドに出されるぞ?」
「人気が無くて新人や罰でやらされる方が多いけどね」
「うーん・・・それなら、いいのかなぁ」
テミスとアルカの回答に我は考えてしまう
「エクス、これは魔物を使わないんだね」
「そうだな。魔物は使わんな」
そもそも日本の話であるしな
「ウディッツ、どうかしたんですか?」
「いやな、昔の資料を見る機会があったんだが、スライムってのは数百年単位で極端に数が減るらしいのさ。下水を処理していたスライムが一気にいなくなったと記載されていた」
「その時、王都でも流行り病が蔓延して半数以上が死んだらしい」
「その現象が起きると?」
「可能性の話さ。それに、この考えは斬新すぎる・・・エクス、本部に確認するから村への設置は保留だよ」
「ん。拠点だけにするわ」
我は手をあげて返答する
「三人には現地に行ってもらいたいんだが、良いだろうか?」
「「「もちろんですとも!」」」
「ある程度の目途が付いたら、また連絡するので研究を続けてくれ。あとその図面も参考にしてくれ」
「ありがとうございます!それでは失礼します!!」
三人は会議室を出ていった
「・・・・しかし、回転であそこまでの物ができるんだねぇ・・・・思いもよらなかったよ・・・・」
「無能扱いされていたらしいがな」
「エクスの構想を聞いただけでも、あの魔道具は優秀だと思うわ・・・・」
「特許料は払ってもらうぞ?」
「私が先に見つけてれば・・・・いや、無理だね・・・エクスの発想があればこそか」
「それじゃ気を取り直して、村の配置からだね」
開発計画はまだ続きそうである




