流言
我は『騎士の誉れ亭』の部屋までもどってきた
街の中は騒がしくなっているのでイオラに変わってから階下に降りる
「なにかあったの?」
玄関で仁王立ちしている坊主頭のマッチョに話しかける
「・・・・・・領主の館が燃えているらしい」
「は?火事?」
蛇のブレスで引火でもしたのであるかな
ドアが開いて女中が入ってくる
「隊長、確認取れました。やはり領主館で火災が起きていますが、すぐに消火されたようです」
随分とはっきり喋るであるな、この女中
坊主頭のマッチョがこっちを親指で刺すと”しまった”という顔をしたあと間延びした喋りに戻す
「あー、お客さん起きちまいましたー?うっせーすけど、すぐにおさまるっすよー」
「ふーん・・・・・状況だけでも教えてくれると嬉しいわね。それと下手な芝居もやらなくていいわ。あなた達が何者かとか興味ないから」
罰の悪そうな顔をする女中と坊主頭のマッチョ
暫く考えた末に頷いたので芝居を辞めるらしい
「すまんが嬢ちゃん。俺たちゃ特務を受けて何年も此処にいる。黙っててもらえねぇだろうか」
「あら?そういう時は死にたくなければとか、口封じをするもんじゃないの?」
「俺は勝てない戦いをする気はねぇよ」
肩をすぼめて坊主頭のマッチョが答える
「別に貴方達が何者でも興味ないから黙ってるわ。魔法契約してもいいわよ?」
魔法契約は神官たちの使う魔法で内容を破棄したら神罰が下るといううもの
はっきり言って、めんどくさい契約である
「お前さんは魔法契約でも無効化されそうだからやらねぇよ」
それもそうか
「アルカ、説明を頼む」
「・・・・・先ほど言った通り領主館の執務室辺りから出火。壁の一部を吹き飛ばして燃えていましたが、既に消火されています。
ニール騎士爵をはじめとして死人、けが人なし建物の被害だけですね」
アルカと呼ばれた女中はすらすらと淀みなく答える
「出火原因は分かったか?」
「直前に光が空に上がったそうです。おそらく魔法ではないかと」
「魔法・・・・暴走か?」
「おそらくは。故意に打つ意味が解りませんから」
まあ蛇がぶっ放したとは分らんであろうな
「領主からも問題ないとの声明が出されました」
「こちらからは何とも言えんな」
「問題無さそうなら私は眠らせてもらうわ」
我は部屋に戻ることにする
新しい力、能力が必要であるか?
・・・・・・・・・・そういえば獣人部隊が居るとか言っていたであるな
確か最初に取り込んだ中にも獣人種が20体くらいあったし草原人種もあったよな。あと馬
我が取り込んだ者を思い出そうと四苦八苦しているうちに夜が明けてしまった
我は階下におり顔をあらう
「早ぇえな嬢ちゃん。もうすぐ朝飯が出来るから座っててくれや」
我は礼を言って席について待っている
「そういえばさ、この街には獣人部隊がいるって本当?」
「・・・いるな。あいつらは正規部隊じゃない傭兵だが、この前の戦争にも出たはずだ」
「他の街でも獣人とか見たことないんだけど珍しいの?」
「・・・・・・・・・・あいつらは嫌われていてな。人里に出てこないので珍しい。神の呪いを受けたとか、獣と不貞を行った罰だとか言われてるよ」
「・・・・あほくさ。そんなアホな理由で嫌われてるなんてね。それで傭兵扱いなのね」
「あたりだよ。まったく、嬢ちゃんの言うとおり、アホな理由さ。それを信じている市民もな」
「それじゃ、戦争で生き残った獣人部隊はいないの?」
「いや、帰ってきたやつらは森の奥へ行っちまったよ。しばらくは籠るんじゃないか?」
「それともう一つ。ペールデンテに夜中現れる老人、大きな袋を持っている奴らしいんだけどそいつの噂を知らない?」
「噂か・・・浮浪者や破落戸が消えていくってのは聞いたが・・・・アルテの方が詳しいかもな」
「彼女ね。まだ寝てるのかしら」
「飯でもくってりゃでてくるだろうよ」
納得して朝食を食べることにした
目の下に隈を作った女中を捕まえて噂話を聞いたのであるが曰く、
・夜に出る、老人は真っ黒な姿で大きな袋を持っている
・ガタイのデカい破落戸でもあっさりと袋に入れられる
・連れ去られるのは一人ずつである
・人を袋詰めにした後は凄い勢いで逃走するため衛兵でも追いつけない
都市伝説のような内容である
信じるのはあなた次第ってやかましいわ
「それと、領主のところに客人が居ない?男か女かわからない奴」
「・・・・いますね。彼女は”キヨネ”と名乗っていますが出所不明の方です。なぜ領主を訪ねてきたのかもわかりません」
「キヨネね・・」
前世持ちっぽい名前であるな
我は朝食と噂話という情報収集をすましてから宿を出る
最初に取り込んだ獣人はどんなであったかなー
確か虎、獅子が一体づつで狼が10何体かあったのは覚えている
あとは・・・ああ兎が居たであるな、男の。それと熊
彼らは特にスキルがなかったか統合されているみたいなんだが
複合体の候補からは外していたのである
これは街の外で試しても良いかもしれないである
ペールデンテの北門を通り山に向かう
エリア的には長剣虎や雷鹿がでる地域である。新規の魔物が出るやもしれん
街道を逸れ森に入る
しばらく進むと、ガサガサと音が聞こえた。どうやら地面を這っているらしい
地面には落ち葉なども大量に落ちており音源を見つけることが難しい
我は(仮称)エアライフルを装着し構える
魔力を送り圧縮ポンプを作動させると”シュィイィー”という回転音も数秒ほどでしなくなる
ライフル部に付けられた圧力計をみると、十分に圧縮されているようだ
次に弾倉内の弾丸生成
単純な土魔法のため、ほぼ一瞬で作られた
説明では10分で1発作れれば良い方とのことだったが杞憂であったな
我は左手で近くの落ちている枝を拾い、数メートル先に投げた
地面に落ちると同時に、十数匹の蛇が飛び掛かる
?違う、蛇じゃない!でっかいムカデである
全長2mはありそうなムカデが十数匹、団子になって絡みついているのである
正直、きっしょ!
我はエアライフルを撃つ
弾丸生成・・・撃つ・・撃つ・・・撃つ・・・
団子が無くなるまで撃ち続けた
我はムカデを魔法鞄に回収しながら思ったのであるが
この森は蟲が多いエリアかもしれん
のんびり複合体の検討も難しいので、もう少し進んでみるのである
なければ地面に穴を掘ってとも思うが蟲が相手だと悪手な気がするのである
ムカデや芋虫、バッタなど巨大昆虫を倒しながら歩き続けた
森を抜けると垂直にそそり立つ崖のような場所に出た
高さは10m位あり、左右をみても登れるような場所は見当たらない
少し上、4mあたりの所に出っ張りがあったので浮遊で浮かび確認する
少し出っ張っているだけで特別なことは無かったが奥行1m幅3mもあるので、ここに拠点を作るのである
我は土魔法で出っ張りの上部を平らにし、崖の中身をくりぬいていく。
入口は小さくて良い
もくもくと作業を進め夕暮れになったころ満足のいく空間が出来上がった
入口は直径1mほどの穴であるが内部は下に3m下げ上には2m上げた
幅を10m奥行10mの四角い部屋が出来たのである
当然内部は入口までの階段をつけておるぞ?
複合体の検討は明日から行うことにするので今日はペールデンテへ戻るのである
なに夕暮れとはいえ飛んで帰れば、閉門まで十分間に合うのである
イオラは狩人ギルドに登録していないので買取はしない
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「しゃっせー、とまりっすかー?ってイオラちゃんか。おかりー」
他に食事客が居るので芝居をしているのであろうアルカが声を掛けてきた
「うん、ただいま。ごはんお願い」
「りょ。たいしょー、イオラちゃんのご飯よろー」
厨房に声を掛けるアルカは近くの客と談笑している
出された食事を食べていると客である男の一人が声を掛けてきた
「嬢ちゃん一人なのかい?ご両親は?」
「知らないわね、親なんて見たこともないわ」
「え”っ!?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なんか、すまん」
気まずそうに謝る男
「別に謝ることじゃないわ。そんな話どこにでもあるでしょ?そう、よくある話よ」
「それでも俺の気がすまねぇ。なんでも好きな物喰ってくれ、俺が奢るぜ?」
「うーん、私はあんまり食べれないからね。代わりにこの街の噂を教えてよ」
「噂か・・・そうだな・・・おい!おめぇら、最近の噂をしってたらこの嬢ちゃんに教えてやれねぇえか?」
男は周りの客に声を掛ける
『噂―?』『なんかあったか?』『夜のじじいか?』『蛇の魔物もだろ?』『悲劇の部隊なんかどうよ』などという声が聞こえる
「アルカー、これで皆に酒を振舞って」
我はアルカに銀貨を5枚ほど握らせる
「ひゅー!イオラちゃん、まじふとっぱら。あーしももらうねー」
誰の腹がドワーフか!
ジャンジャン酒を配るアルカ
酒を手にし上機嫌の客たち
聞いた噂をまとめるとこんな感じ
≫夜の老人=ブラックサンタ=使徒・亜人
どこからともなく表れて人を袋に詰めて連れ去っていく全身黒ずくめの老人が毎夜のように現れていたが、ここ最近は現れていないので飲みに出ることが出来るようになったとのこと
老人は背は低いがガッシリとしており長いひげで顔半分が隠れている。その姿は伝説のドワーフのようであったとの話
連れ去るのは一人だけなので、捕まった者以外は逃げることが出来る
袋に詰めたら建物の屋根を飛ぶ用に逃げていくので衛兵たちでは追いかけられず見失ってばかりいる
貧困層のいる北区に出ることが多いとのこと
≫蛇の魔物
ケンプファーとの領境に出現した魔物で、最初は山が出来たとの発表だった
狩人ギルド長が”蛇の魔物”であることを発表し、一部隊だけで討伐しに向かったらしい
最終的には逃亡していなくなったそうだ
≫悲劇の部隊
女性、子供に人気ある噂話である
先の戦争で部隊の一人が殉職したものの他の者は帰還できた。しかし一人を見殺しにした部隊と蔑まれて魔物退治に送り込まれたそうだ。撤退は軍の命令だったのに
その部隊は支援も補給もなく巨大な魔物に戦いを挑んで全滅してしまったらしい
闘った魔物というのが蛇の魔物で、部隊が命を懸けて魔物を追い払ったという
・・・・これってワークルエ隊のことじゃね?
まぁ、酒が入れば口も軽くなるもんだ
他には領主への愚痴などもあったのであるが
アルカもニヤニヤしているところを見るとお目当ての情報でもあったのかもしれんな
「いろいろ楽しい噂を聞けたわ。ありがと」
そう言って我は部屋に戻ることにする
今夜は北地区を調べてみるである




