僥倖
「ここが新しく開拓される場所?テスタロッサさん」
先行してイグノランテとワークルエ隊の合計13人が、カンプファン領に拓いた土地を見に来ていた
「向こうより規模は大き目に作ってある。倒した樹は向こうに積んであるから加工はそっちでして。水はそっちの川から」
同行していた13人とも絶句している
「ははっ・・・・これを一晩で・・・・・」
「計画書はエクスより預かっている。こっちは工程表。出来るかどうかは彼方達次第」
「手伝ってくれたりは・・・・」
イグノランテが申し訳なさそうに言ってくる
「ウディッツに・・・」
「いや、こちらでするとも!なぁみんな!!」
イグノランテの目が泳いでいるが?
ペールデンテの1000人だが仮拠点を破棄して、こちらの工事を請け全員移動することが決まった
まぁ、まだ何もしていない状態であったので問題ないのであろう
その中でもカンプファン領への亡命を願う者たちもいた
ワークルエ隊の12人も亡命する気らしい
「スウォート、呆けてどうしたの?亡命の件?」
「・・・・・・・・」
返事がない。ただの屍のようだ
「違うっすよ、隊長は一目ぼれしたらしいっすよ?ひ・と・め・ぼ・れ❤」
「そう・・・・一目ぼれねぇ・・・・・・・」
後ろではキャーキャーと相手のことを推測しているようである
隊長が一目ぼれねぇ
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?誰に!?」
先ほどの隊員に確認しても分らないらしい
「いやまぁ、彼女もガキじゃないし好きにしてくれて構わんが・・・・怪我だけはさせるなよ?」
”了解でーす”と軽い返事をもらいながら、その場を立ち去る
ほむ
蛇が向かったのはペールデンテなのであろうか
どのみち10日以上も前の話であり、今更足取りを追うこともできないのである
行方が分からない以上、先にブラックサンタの対応をするのである
我はイオラの形でペールデンテに入る
イオラはギルドに入っていないので毎回、銀貨1枚かかるがしょうんない
街の中は活気が少ない?
人はまばらで並んでいる商品も少ない
我は宿をとる為、中央寄りにある「騎士の誉れ亭」に入る
「いらしゃっせー、食事っすかー泊りっすかー」
なんともやる気ない店員である
「あー泊りで」
「わかりゃっしたー。たいしょー、お泊りの客っすよー」
奥から出てくる坊主頭の筋肉マッチョ
「てめぇは、いい加減気合入れろ!首にすっぞ!」
ため息をついてこっちを見る
「すまねぇな嬢ちゃん、恥ずかしい所を見せちまった。1泊2食で銀2銅50だ。飯はいつでも食える」
我は銀貨を5枚渡し2日宿をとる
「彼女、どうかしたの?やる気のない娘だけど」
「あぁ、まったく遣る瀬無い話さ。常連の兵士たちが全滅しちまったんだよ。ペールデンテの悪評を押し付けられてな」
「ほえ?全滅?戦争って終わったんじゃなかったの?」
坊主頭のマッチョは部屋の鍵を渡しながら答えてくれる
「つまらん話さ・・・負け戦でその部隊は殿を務めていた。その時に一人の部下が逸れて未帰還になったんだ。そのあとで少し問題があってな、その部隊は仲間を見捨てて逃げてきた恥さらしと噂されるようになったんだ」
「ふーん。自分は後ろの安全な場所で戦争に行かなかったのに行った人たちを”恥さらし”と言ったんだ?」
「まったくだ。街に居た奴らに文句なんざ言えねぇのにな」
「で?その恥さらし部隊はどうしたの?」
「この街からケンプファーへ向かう途中に大型の魔物が出たらしい。その討伐に向かわされたよ」
「あらあら、恥さらし部隊が捨て石部隊に変わったのね」
「お前も結構きついな・・・後から聞いた話じゃ支援なし、補給もままならん状態。お前さんの言う通り捨て石だな」
「それで、あの女中さんは荒れてるの?」
「あいつらとは仲が良かったんでな。態度が悪いとは思うが、何卒勘弁してやってくれ」
「そこまで言われちゃ、何も言えないわよ」
我は鍵を受け取り部屋へ移動する
階下ではボソボソと話声が聞こえる
「いーんすか、隊長。あんなガキ一人で泊まるなんて碌な奴じゃねぇっすよ」
「いいんだよ。前に来たテスタロッサってやつと一緒だ。逆らった所で瞬殺されて終わりよ」
「・・・へ?隊長が瞬殺っすか?まっさかー」
「いや、良くて一合もつかどうかだな・・・・・・あの年で修羅場をくぐってるってのかよ」
「・・・あの、フィーダさんっぽい人もですか?」
「言ったろ。俺じゃ瞬殺だ」
どうやら坊主マッチョも力の差を感じているらしい
誤魔化せないもんだの
夕食を食べたあと部屋に籠り時間が経つのを待つ
厨房の火が消え坊主マッチョも女中も部屋に戻ったようだ
更に待つ
おそらく深夜、月が高い位置まで上っている
我は窓を開け壁伝いに外へ出る
風もなく生暖かい空気が漂った夜である
我は魔力を視る
忘れているようであるが、我は滴る者であるから元々魔力を視ているのである
最近、人型になりすぎて視力に頼る様になっていたであるなぁ
反省反省
視界全体の色が消える
ワイヤーフレームの背景にサーモグラフィで温度差を書き込まれた感じと思ってもらえば良いとおもうぞ?
建物の屋根に上り、周りを視てみる
大概の箇所は建物から漏れる魔力がうっすらと浮かぶ程度である
我は西側から南側へと屋根を伝い移動していく
南側に大きな屋敷があり、その周辺が魔力で明るく視える
我は近くの樹の枝に座り屋敷を観察してみることにした
時刻は既に深夜となっている
日本でも終電が終わっているくらいの時間
この世界では既に寝静まっていても可笑しくない
なのにだ、2階の一部の部屋の灯が消えていない
我は次元潜宙を使いながら、その部屋に近づく
「どうするのだ?市民が1000人も抜けたんだぞ!」
頭が少し寂しくなっている小太りの男が叫びながら室内をウロウロしている
「まさかギルド長があんな行動に出るとはねぇ、僕も驚いたよ」
此方は平然としてソファーにくつろいでいる男・・・・・いや、女か?
ゆったりとした服で長髪の人間種
「まぁ討伐出来るわけないけどねぇ」
と言いながら笑っている
「それでも!私の騎士としての誇りは!汚されたのだ!これを!どうするのか!と聞いている!!」
唾を飛ばしながら叫ぶ
どうやらこの男が”ニール騎士爵”らしい
その時、赤い剣が騎士爵の目の前の壁に刺さる
「君さー、何か勘違いしてない?君の立場なんか如何でもいいんだよ、領主ならソレらしく情報を集めなよ」
どうやら男女が剣を投げたみたいであるな
「この街に【使徒】が居るはずなんだ・・・・他の所にもね・・・・君の役割はそれらの情報を集める事・・・・それしかないんだよ?それもできないなら・・・・・・イラナイヨネ」
左手が蛇になる男女
こいつ、ハイドラが人化したのであるか
「・・・・・・・・・くっ・・・・・・・・・・わかっておる・・・・・いま、衛兵を使って探させておるわ。【黒い服を来たドワーフ】で【大きい袋】を持っている者をな」
「わかっているなら、早くしてよね・・・・・向こうが先手を打ってきたかな?」
まず!!
一瞬のうちに我のいた場所は消滅していた
次元潜宙だからダメージは無いが、我そこまで魔力を出していなかったのであるが感づかれたのである
このまま自然落下で地面まで落ちるのである
穴の開いた壁から覗いて辺りを見渡しているが、しばらくすると奥に行ってしまった
おそらくブレスを手から出したのであろうな
さっきも手が蛇の頭に変わっていたし
蛇はペールデンテ領主と手を組んでブラックサンタを探している
ほかの使徒の居場所を知らないのであるか?
それとも近くにいたから標的にしたのか
此処まで早く足取りがつかめたのは僥倖である
後はブラックサンタであるが、どこに隠れておるのやら




