脱出
夜中、話に聞いた東の漁村の件を考えていたら朝になっておった
この世界に放り込まれる前に見た奴らを思い出していたのである
狙ってはいたのであるが、半魚人が絡んでるのではなかろうか
鯨のコルネ?・・・フォルニン・・・まぁそんな奴の使徒である
昨日は魔物狩りをしていないのでギルドへ行かなくてよいか
直接、東の漁村へ向かうことにするである
その前に朝食を頂くことにするである
ん?晩飯であるか?
もちろん食べたであるぞ
黒くて酸っぱいパンと野菜がゴロゴロ入った塩スープに焼いた魚。
おそらくパンはプンパーニッケル、ライ麦のパンに近いのではないであろうか
独特の香りもありボソボソとした食感であるが味わいの一つであろう
スープは店主が裏庭で作っている野菜を煮込み、甘味を増したところで塩を使い味を調えている
焼き魚は旬の物なのであろう。脂がのっておりジューシーな旨味が味わえる。昼に食べた焼き魚とまた違って美味い
我、転生してから初めて料理を食べた気がする
味覚なかったし食事必要なかったからしょうがないであるなー
人を取り込んだ時に味覚が味わえるようになったのも大きいであるな
もちろん味覚だけでなく触覚・嗅覚・聴覚・視覚も解るようになっているであるぞ?
しかも感覚を切ることで感じなくなることもできる
そうせねば、取り込んだ物全てに味がしたら嫌であろ?我は嫌である。
なので朝食もきちんと頂くであるぞ
今日の朝食なんだろな~
ライ麦パン!野菜のスープ!以上!!
善き善き
おいしく頂くである。
所で店主、森林狼をわたすので晩飯に肉を出してくれんだろうか?
よい?
残った分は好きに使ってよいである。
宿を出て漁村へ向かおうとしたのであるが、ギルド前を通るときに職員、娘のほう・・・名前なんだったけ?
が建物前をウロウロしている。
「どうかしたの?なんか落ち着きないみたいだけど」
「おか・・テスタロッサさん・・」
なんか元気ないであるな。
”おか”とか言ってたし
「何かあったのなら話くらい聞くわよ?」
「実は・・・」
ギルドの娘、デイジーのいうことには女性パーティ『宵闇の花嫁』が戻ってきていないらしい
父親は狩人は帰還時期がずれることもあるから心配しないよう言われているが、今まで夕暮れまでに帰っていたのに昨日に限って戻ってこなかったとのこと
ほむ。
「その、『宵闇の花嫁』っていうパーティはどんな人たち?」
「昨日の朝、テスタロッサさんと話してた4人組ですよ。この町に逗留しているんです」
朝の4人組・・・・
「あぁ昨日、浜辺へ行くときに会ったわ。彼女らは何の依頼を受けてたの?」
「そうなんですか?・・・えっと、依頼内容をいう訳には・・・」
ほむ。
情報の保護が目的であるか・・・
「独り言にいちいち返事はしないわよ?私は依頼書でも見てるから、集中して話を着ていないかも」
「独り言・・・そうですね。独り言。」
どうやら『宵闇の花嫁』は東の漁村に大きな魔物の死体が漂流したとのことで調査に向かったらしい
昨日会ったのはその調査に行く途中であろう
東の漁村とベレーナの距離は歩きで2時間くらい
距離でいうと10キロくらいじゃなかろうか
それに魔物の数も少ないし、ベレーナの門は夜中でも証明書があれば中に入れてくれるらしい
特に『宵闇の花嫁』は収入に余裕が余りないはずで泊りの仕事を避けていたとのこと
「ふーん・・特にめぼしい依頼は無いわね。浜辺まで行って魔物を狩ってくるわ。んー昨日は西の漁村に行ったから今日は東に行こうかな」
あからさまではあるが。
東の漁村に行く大義名分というやつである
「ありがとう。テスタロッサさん・・・」
お礼を言われてもね
「んー私は浜辺へ狩に行くだけよ。まぁあの4人組にあったら言っとくわ」
今度こそ町を出る
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ほむほむ
間違いなく、何かに巻き込まれておるだろうな
東の漁村へ着いたのが午前中。昼になるには、まだ時間がある
此処まで歩いてきたのであるが、飛べないのがツラい
飛べないウーズなどただのウーズである。
いやウーズは元々飛ばないんだった。
さて東の漁村であるが。
西と同じく村周りに柵があるだけで門番が一人立っているだけである
ただ、村に入る前でもわかるくらいに臭い
西は潮の匂い程度であったのが、こちらは既に生臭い
門番を見ると手には槍を持っているが、
やや上を向きながら口を開けており目は虚ろで濁っている。そして生臭い
門を通り村へ入るが、こちらの漁村は活気がない
子供だけでなく、老人も女もいない
くたびれた男ばかりの村である
露店があるが、ヌメッとした魚が並んでおり煮ても焼いても食えなさそうである。
え?調理しないの?マジで!
これを買うのは勇者じゃね?そして生臭い
船着き場に着いた
ここにも大き目の建物と横にある酒場
酒場は飲んでいる者もいるのだが、とても静かである。そして生臭い
我は酒場に入りカウンターにいる店主に話しかける
「すこし伺いたいのだけど。昨日こちらに4人の女性パーティが来なかったかしら。」
「知らない。ここは酒場だ。」
頬骨が張っているが鼻は低く、目は瞳孔が開ききっており口には尖った歯が並ぶ。
濡れそぼった髪を額に貼り付けて、こちらを見ている
・・・見ている?
正直、視点があっておらんので何処をみているか解らんである
そして生臭い
「それじゃ、おススメを頂戴。それと、何か大物が上がったらしいじゃない。あの娘達の依頼もそれなのよね。忘れ物を届けたいのよ。」
「『神の滴』銀貨1枚。」
我は銀貨1枚を渡す
店主は小さな蓋のない木箱に陶器のコップをいれ無色透明な液体を注ぐ
これは、日本酒であるか?
陶器から零れた酒は木箱に溜まる
我は木箱ごと手に取り無色透明な液体に口を付ける
リンゴのような甘い香りが口内に広がり、すっきりとした味わい
原料は想像つかないがとても美味い
場所が生臭くなければ
「海の使いは岬の浜辺だ」
ふーむ
魔物ではなく”海の使い”であるか
「そう。それじゃそっちへ行ってみるわ」
そう言って酒場から出ようとしたら後ろから殴られた
我、殴られてもダメージゼロよ?
でも人間なら気絶しないとダメであろ?
寝たふりする
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
・・・・温い・・・・胎・・・・神・・・・贄・・・・・
捧・・・・奉・・・・月・・・
何やらボソボソ喋っているであるな
良く聞こえんである
布のようなものに寝かされ運ばれているようである
うーん担架みたいな物であろうか
しばらく寝たふりしていたのであるが、どこかの建物の部屋に連れてこられたらしい
さび付いた様な音を立て扉を開くと冷たい地面に布ごと置かれた
連れてきた者たちは扉を開けて出て行ったようである
・・・もう良いであるか?
眼を開けると薄暗い部屋の中。相変わらず生臭い
樽や袋が置いてあるので倉庫なのかもしれない
む?
荷物の隙間からこちらを覗く者がいる
「そこにいる人。出てきなさい」
「あ・・・あんた・・」
物陰から出てくる4人の女性
武器は持っていないが暴行は受けていないようである
「あなたたち無事だったのね。デイジーが心配してたわよ」
とりあえず4人とも怪我もなく無事に揃っていた
なんでもギルドで依頼を受けて漂着した魔物の確認にきたが、昼飯を食べているときに包囲されて抵抗もできなかったと
武器も取り上げられこの倉庫に閉じ込められた
どうにかして脱出しようとしていたところで我が連れてこられたということらしい
「まぁここにいても碌な事になさそうだしね。それに生臭いし」
「違いない。でも、どうやってここから出るつもりだい?」
「私たち、武器ないよ?」
我は髪の先に目を出して辺りを見ていたのである
ふはは、いつから目が2つしかないと勘違いしていた!
今の場所と村の作りを地面に書いてやる
「だから、ここを通って岬を回り込めば見つからないわ」
「しかし鍵はどうする?出口には見張りがいるぞ?」
「あの扉も開くときに音がするしね」
扉の開く音はとても響く。音が聞こえれば奴らも飛んでくるだろう
くう。KU〇E5-56があれば!!
「夜になってから抜けた方が良くないか?」
「駄目よ。暗い中で磯を歩いたり出来ないわ。それに今日の宿の夕食は肉なのよ。とっとと帰るわよ」
「「「「は?肉?」」」」
4人の声が重なる
「そうよ、フォレストウルフのだけどね。あなた達も食べる?奢ってあげるわよ?」
「マジか。肉なんて久しぶりだぞ、おい」
「そうね、魚ばっかりだもね」
「ナーワルハーゼも少ないもんねぇ」
「・・・頑張る」
みなヤル気になったようである
善き善き
実は出るのは簡単なのである
この倉庫、唯一の出入口は軋む扉の先に長い廊下があり建物の出入口は格子が嵌っているのである
しかも村のほうを向いているため監視がしやすいのである
昔から言うであろ?
出口がないなら作ればいいじゃないって
言わない?
倉庫の壁は土壁である
出口と反対方向に地魔法で壁に穴をあける
4人とも声が出ないくらいに驚いているが、声を出されると困るので黙るように伝える
「あんた槍使いだろ?なんで地魔法が使えるんだ」
「乙女の秘密よ。それより早く抜けて頂戴」
4人はおとなしく倉庫裏に出る
我は地魔法で壁を元に戻しておく。これで脱出方法が解らなくなるであろ
「さあ行きましょうか」
倉庫裏は崖のように切り立っており、ここを上るのは難しそうである
予定通り岬を回って反対側へ抜けることにする
幸い岬の先端までの距離はないし、人が歩いて移動できるだけの足場もあった
4人に先を行かせ我は殿を務めることにする
日はまだまだ高い
昼を過ぎたあたりであろう
岬を回り込み浜辺を目指す
こちら側は大き目の岩などもあり大分歩きやすいので速度を速める
ようやく西の浜辺に着き一息入れることができた
「それじゃベレーナに帰りましょうか」
「おう。さすがに疲れたから早く帰りたい」
皆、助かったからか疲れがどっと出たようである
「まぁ帰ったら約束通りに食事を奢るから、あの村での事を教えてね」
「もちろんだぜ!むしろ私たちが払わなくちゃいけないんじゃないか?」
「ちょっと!私たちにそんな余裕ないわよ!!」
ほんとに懐が寂しいようである
「東の漁村に行ったのは探索していたからだし、助けたのは成行きだから気にしないでいいわ」
むしろ情報ゲットだぜ!
ベレーナの町にある門に着いたとたん4人は泣き出してしまった
「よがった・・がえっでごれだ・・・」
「じぬがと・・・おもった・・・」
監禁されたのが余程堪えたのか。
宥めながらなんとかギルドへ連れていき、簡単な顛末を報告させた
ベレーナギルドの長でもあるサンパシーが報告を聞いて憤慨
依頼に齟齬があったことを『宵闇の花嫁』に謝罪し幾何かの補償金を渡すそうだ
我?
我は魔物狩りに行ったついでに巻き込まれがだけであるので補償対象外である
それに対してデイジーが『それなら私のお小遣いから!』とか言い出したので、ギルドから少しお金が貰えるらしい
サンパシーはこの件を衛兵の報告したのだが、町長は重要案件と判断し東の漁村に1個分隊を派遣することになる
1個分隊・・・10人くらいであるぞ?
なんでも今回の村人が理由もなく狩人を監禁したことで、他の依頼をギルドに断られても仕方がないほどの失態だとか
信用問題になったようである
まぁそれを判断できる町長も良い人間なのであろう
「それじゃ『虹鯨の髭亭』で待ってるから。早く着替えてらっしゃい」
一晩あの倉庫にいたのである
4人とも生臭い匂いが染みついている
「わかった!ジュヴェの所だな!」
「うーん・・とても元気なおさげ娘のいる宿よ」
「なら間違いない」
あの元気娘はジュヴェというらしい
我は一足先に宿に戻り店主に話をしておく
「おう、お帰り嬢ちゃん。晩飯はまだできてないぜ?」
「大丈夫よ。それより夕食に4人ほど連れてきたいのだけど肉は足りそうかしら」
「なんだ友人か?肉もしっかりあるしな。」
「じゃあお願い。ついでにお酒も用意してもらえる」
了承してもらったので森林狼を1頭追加し銀貨1枚渡す
「彼女らが来るまで部屋にいるから宜しくね」
「おねぇさん!お客さんきたよ!!」
部屋の扉をたたく音
食堂に行くと奥の丸テーブルに4人組とデイジーがいた
「あの・・ごめんなさい。勝手についてきて・・」
「構わないわよ?みんなで食べた方がおいしいしね。店主、適当にお願い」
次々と運ばれる肉料理とミード酒
全員の目がキラキラとしている
「遠慮せずに食べてね?ワインもあるからね」
「「「「「やったー!!お肉ー」」」」」
みんなお肉大好きである
草原狼、実は売れるんじゃない?




