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2話

「知らない天井だ」

人生で一度は言ってみたい台詞(せりふ)(つぶや)く。都合よく元の世界に戻っているという俺の願望はあっさり崩れた。ベッドの横を見ると妹の彩花(あやか)が居た。『スースー』と寝息を立てている。別々の部屋で寝たはずなのだが、夜に(もぐ)り込んできたのだろう。気持は分かる。まだ14歳だ、両親と別々になり、俺でさえこの先の事を思うと気が重い。彩花はもっとだろう。髪をなでると、「んっ」と反応した。


 昨日、異世界に転移したと分かった後、色々な話を聞いた。こちら側の事も話した。その後、なぜか食事がふるまわれ、終わったら部屋をあてがわれて、夜が明け、現在に至る。そんな感じだ。


 分かった事を整理すると、この場所はグランタリアという国の中にある地方のコルサという小都市である事。勿論、地球ではない。文明のレベルは中世ぐらいなのかな、この辺りは良く分からないが、エルナが帯剣している事を見れば、地球よりは進んではないのだろう。俺達は勇者召喚(・・・・)の儀という儀式でこの世界に呼ばれたらしい。俺達を召喚したのはレア(・・)という少女。貴族らしい。といってもこの儀式が成功したのは今回が初めてで、今までネズミ一匹すら召喚できたことは無かったらしい。なので今回成功した事を不思議がっていた。


 それと同時に強引にこの世界に連れてきて、申し訳なかったと謝られた。成功するとは思っていなかったとはいえ、普通に考えれば拉致(らち)と変わらないからな。お詫びに、気が済むまで館に滞在して良いと許可をくれた。生活に不自由をさせない事も補償してくれるらしい。言いたい事はあった。でも、こちらにも負い目はある。あの地震が起きた瞬間、彩花の借りてきた魔法陣が白く光るのをみている。つまり、あの(・・)魔法陣もなんらかの形で作用したのだ。そう考えれば、こちらにもかなりの割合の過失があったとも言える。それにこの世界には俺達を保護してくれる存在はいない。相手を怒らせてもいいことは無いだろう。全ての事象が信じられないが、起きてきてしまったことは事実だ、重要なのはこれからどうするかだろう。レアお嬢様は元の世界に戻れる方法を探してくれると約束してくれたが、何処まであてになるかは分からない。


「どうなるんだろうこれから」

思わず独り言がでる。


 正直まだ、気持がフワフワして、困惑しているところが多い。異世界に来て、剣と魔法の世界だ、モンスターもいるぞ、と喜べる程 適応力も高くないし。


 ちなみに、召喚術はレアの単なる趣味で、勇者として召喚されたからと言って、なにか仕事をさせたいわけではないらしい。なんて、はた迷惑な趣味なんだと思いつつ。身内に似たような趣味を持つ人間が言えるので何とも言えない。呼び出されて、魔王を倒せだの竜を倒せだの言われないだけましではあるのだろうけど。


 そこまで考えて、彩花を起こさないようにベッドから静かに抜け出す。喉が渇いたので、水を貰おうと考えた。部屋をでると、丁度、エルナさんが掃除をしているところだった。


「おはようございます。エルナさん。」

色々思うところはあるが、笑顔で挨拶をする。挨拶は大事。


「あら、おはようございます。サクラ シューイチ様」

エルナさんが近くに寄ってきて挨拶を返してくれる。そういや、名前を教えたんだった。佐倉(さくら) 修一(しゅういち)。俺の名前だ。


「長いのでシュウイチでいいですよ。」

名前呼びさせるのは抵抗があるが、彩花と区別する必要があるから仕方がない。それにしても距離が近い。話すだけなのにここまで詰める必要があるのだろうか、すこし手を伸ばせば届きそうな距離だ。


「では、シューイチ様と呼ばせて頂きます。」

それに、このメイド、昨日とかなり口調が違う。今は普通に敬語だ、こちらが本来の喋り方なのかもしれない。


()はいらないですよ。確かエルナさんの方が年上の筈ですし。」

様なんて、敬称を付けられてもくすぐったいだけだ。


「では、シューイチさんでどうでしょうか?」

エルナさんは少し考えた後、そう提案してきた。


「ええ、それでお願いします。」

まぁ、そこら辺が妥当などころだろう。それにしても、お互いに名前をさん(・・)付けで呼ぶ、なんか新婚夫婦っぽくていいな。


「あの、それで・・・」

水飲み場を聞こうとしたら、エルナさんが先に口を開いた。俺に何か言いたい事があるのだろうか?


「えっと・・・」

何だろう、随分言いにくそうな感じだな。


「なんでしょうか?」

先を(うなが)す。


「えっと・・・チンチン触ってもいいですか?」


「はい?」

思わず、変な声がでる。え?チンチン触るとか言ったこの人?そんなはずはないよな。昨日の事があったから、聞き間違えたのだろう。


「え、いいのですか?では触りますね。」


「いやいやいやいやいや、駄目ですよ。」

今のは肯定の『はい』じゃないよ。困惑の『はい』だよ。慌てて距離を取る。この人見た目によらず力が強いから掴まれたら終わりだ。というか、まじで触ると言っていたのか、意味がわからないのだが?


「駄目なのですか?」

なんで残念そうなんだ、そしてなぜ許可を貰えると思ったのだろうか?ひょっとして昨日の事で(あお)ってるのかな?


「あっ、では代わりに、太腿(ふともも)を触らせてください。」


「太腿?」

俺は相槌(あいづち)を打つ。


「はい、昨日触り損ねたので。」

エルナさんが笑顔で(うなづ)きながら言う。


 昨日触り損ねたって、所持品検査の時の事だよな。俺に害意も武器もないのはもう分かってるから、今更調べても意味がないと思うのだけど。


「はぁ、まぁいいですけど。」

減るもんでもないし別にいいか。それに、クラスでも腕とか太腿を触りたがる女子はいた。俺は特に何も考えずに許可を出す。太腿なんか触っても楽しいとは思えないのだが。


「えっ、いいのですか?」

エルナさんが『パッ』と顔を輝かせる。うん、やっぱり美人だよなこの娘、性格はちょっと変わっているけど。


「では、さ、触りますね。」

そう言うと、俺の前に(ひざまず)いて、右の太腿を触りだす。なんか、目が怖いのだけど。それに若干鼻息も荒い。


『サスサスサスサス』

『モミモミモミモミ』

『サスサスサスサス』

『ムニムニムニムニムニ』


「ほーーー、ほーーー、ほうほう、なるほど、これは・・・・うんうん、はぁはぁはぁ・・・ぐふふ」

エルナさんはなにやら独り言を(つぶや)きながら触っている。若干くすぐったい。太腿を触った後、ふくらはぎ(・・・・・)を触り、また、太腿に戻った。と思ったら頬ずりしそうになったので、それは慌てて止める。俺は高校になってサッカーを始めたから、足には結構筋肉がついている。といってもまだ1年も経ってないから、自慢出来る程ではない。この人筋肉フェチなのかな?別にいかがわしい事をしているわけではないのだが、何となく気まずい。


 3分ぐらい経っただろうか?エルナさんはようやく満足したのか、「ふぅー」と言いながら顔を上げて俺に向けて「ありがとうございます。」と礼を言った。なんか、ツヤツヤしている?


「そうですか、よかったです。」

結局何だったのか良く分からない。まぁ、貧相な筋肉でも堪能(たんのう)できたなら、よかったのだろう。気にしても仕方ないので、俺は本題を切り出した。


「ところで水を貰いたいのですが?」


「水ですか?でしたら、私が持ってきましょうか?」

一応、親切なところはあるらしい。それとも筋肉のお礼だろうか。


「いえ、今後の為にも自分で取りに行きたいです。」

館の設備については、ある程度使ってもいいと言われている。ここにいつまでいるかは分からないが、水飲み場ぐらいは知っておきたい。


「そうですか、それでは案内いたしますね。」

艶のある笑みを浮かべながら、エルナさんが言う。ほんと変な行動しなければ、美人なのになこの人、切れ長のまぶたに紫色の瞳、青色ロングの髪に、整った顔立ち。一言二言ささやけば、どんな男だって落とせるだろう。


「あっ、ここ私の部屋なんですよ。」

少し歩いたところで、立ち止まりってエルナさんが指を指した。俺が泊まった部屋の隣だ、興味が無い事はないが、何故、それを今言うのだろう。

「いつでも、遊びに来てくださいね。」

ニッコリ笑ってエルナさんが言う。


「ええ、毎日遊びにいきますね。」

俺もニッコリ笑って答える。


「え、本当ですか?では、今日の夜、早速にでも。」

めちゃくちゃ食いついたんだけど、冗談だよな?それに夜って。


「いや、冗談ですよね。」


「え?あ、ですよね」

エルナさんが、分かりやすくガックリする。


「あ、でも昼なら普通に遊びに行きますので。」

冗談だと思ったら本気だったのか?あわててフォローする。というか、昨日あったばかりのどこの馬の骨か分からん男を部屋に誘うって警戒心が無さすぎるような気がする。あんまり男として見られてないのかな。いや、誘いにホイホイ乗ったら危険人物のレッテルを貼って館から追い出す算段とか?う~ん、でも、そんな事するタイプには見えないけど。


「ええ、昼でも(・・・)勿論歓迎します。絶対来てくださいよ。」

エルナさんがなぜか昼を強調して言った。


「約束します。」

いつの間にか部屋に行く約束をしてしまった。まぁ、明るいうちなら問題は起きないだろう。なんせ、館には他にも人がいる。彩花も一緒に誘って遊ぶのも悪くないかもしれない。この世界の娯楽ってどんなのがあるのだろう?


「なんだか、とても楽しいです。」

(しばら)くの沈黙の後、目が合うと『フフッ』と笑いながら、エルナさんが言う。ああ、この人なりに和ませようとしてくれてるのかな?変な挙手や言動もその一つなのだろうか?そう思う事にしよう。確かに雰囲気は悪くない。何より女性が笑顔なのはいい事だろう。


「そういえば、今日は、勇者の力を試すと言っていましたね。」

再び歩き出すと、エルナさんが言った。今度はまじめな話らしい。勇者の力か・・・、簡単に言うと、勇者召喚の儀のときに得られる特別な力なんだそうだ。そんなものがあるのか本当に疑問だが、まぁ、やってみようとなった。


「そうですね。」

曖昧(あいまい)に返事をする。勇者の力か、この世界には魔法があると聞いた。魔法とか使えるるようになるんだろうか?過度な期待はしないようにしよう。

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