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ふにふに超魔法  作者: 小鳥遊 よもぎ
第2話 蔓延、異界の力
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〚06〛超能力

「えぇ……なんで女の子に。はっ! まさか魔法の力とかですか」


「そんな訳ないだろ。もっと真面目に考えてよ。いっぱいいっぱいなんだよこっちは……」


 未春(みはる)は目に涙を()めながら花楓(かえで)(とが)める。

 すると、空気を読んで扉の外で待っていた五人も中に入ってきた。


「だいたい話は(つか)めてきたけど、花楓の言ってることもあながち間違ってないかもしれないわよ?」


「何言ってんですかアンタ。あながち絶対間違ってるし今日はもう閉店です。申し訳ありませんがお引き取り下さい」


「未春、泊まりのお客様ですよ」


「だぁ〜っから、魔法も泊まりの客もありえないだろ! そんなバカばっかり言ってると…………え、本当に? 嘘じゃなくて本当のホントに? 泊まりのお客様?」


 未春は小さな(こぶし)をワナワナと震わせる。そしてすばやく目線を動かし人数を把握(はあく)すると、力強く立ち上がり──


「大変失礼しました! 部屋の掃除をして来ますのでしばらくお待ち下さい!」


──勢いよく部屋を片付けに行った。


「無理しなくても……って聞いてませんね。それじゃあウノでも持ってくるので適当に腰かけといて下さい」


「手伝わなくて大丈夫なの?」


 弟に手を貸す気ゼロの花楓に、紅葉(くれは)はもっともな事を言う。


「いやー、そうしたいんですけど。昔片付けを手伝ってからというもの、それ系のこと手伝おうとすると追い払われるんですよ。まあ私がイロイロやらかしたからなんですけど」


「未春、だったかしら? あの子も苦労人なのね……」


 紅葉はわりと高めの天井を(あお)いだ。









「へぇ……じゃあ紅葉さん達はハーレーって国から来たんだね」


「そうよ。そこでアタシは国一番の雷使いとして鎮座(ちんざ)していたの。偉業(いぎょう)の数だけ異名もあるわ……"紅い悪魔"に"雷撃(ゼウス)の幻影"、こっちの世界で名を(とどろ)かせる日もそう遠くは」


「なのでしばらくお世話になる事になりました〜。よろしくお願いしますね未春ちゃん」


「ちょっと今アタシが話してたんだけど邪魔しないでくれる?」


 未春と花楓、そして魔法使い五人はたった今食事を終えたところだ。食事中に花楓がうるさいくらい五人と話をしたため、未春も状況を大体理解した。この宿初めての泊まりの客であり、おまけに異世界から来た魔法使いだということ。この先しばらくこの宿に滞在(たいざい)すること。そして紅葉が格好いいと恥ずかしいが半々(はんはん)な異名をいくつも持っていることを。


「それじゃあさ、この……俺の体がこうなっちゃったのもみんなの影響ってこと?」


 未春は(やわ)くてもちもちした自分の腕をつまむ。


「その可能性はあります……というか十中八九(じゅっちゅうはっく)そうだと思います。なぜ女の子になってしまったのかは分かりませんが、それ以外考えられないので……」


「……でももしこれが魔法なら、制御(せいぎょ)すれば元に戻ると思うわよ? ほら、アタシは小さい頃ずっと体に電気が流れてたけど今は全然そんなことないし」


 紅葉は「ほら」と、体に電気を流して見せた。


「ほんとに!? あ〜、よかった。このままじゃオチオチ学校にも行けないとこだった」


 未春はホッとしたように胸を()で下ろす。家でダラダラしてたら性別が変わっていたなど、友人達にどう説明すればいいのか。

 さっそく体内にあるはずの魔力的な物を感知しようと試みる。


──が


「紅葉さん……魔力の制御?ってどーやるの?」


先にやり方を教わる必要があるようだ。


「今してた事で合ってるわよ。頑張って体に宿(やど)ってる魔力を感知すれば、後は簡単。それを(つか)んだり流し込んだりするようにイメージすれば制御できるわ。ま、アタシの世界では小学生でもみんな出来る事よ。安心しなさい」


 アドバイスを聞き、未春はウンウン(うな)りながら神経を(かよ)わせる。……通わせるも魔力の魔の字も感じ取れないで軽く絶望していると、横から信じられない言葉が飛んできた。


「できました! 意外と簡単ですこれ」


 未春は首をフルスイングして花楓の方を見た。すると花楓の手のひらが(あわ)く発光しているではないか。さらにはその小さな光を、楽しそうに足やら髪の毛やらに移動させ始めた。


「あぁ……アンタそういえば向日葵(アイツ)の魔力がみえるんだったわね。そりゃ自分にも魔力があって当然ね」


「フフフ、まあ当然ですね。それで魔法は! 魔法はどうやって使うんですか!」


 花楓は紅葉に詰め寄り、目をキラキラさせて教えを()う。


「分かったから落ち着きなさいよ。顔が近いわよ顔が。……っと、未春もこっち来て一緒に聞いといて──って何してるのよ?」


 紅葉が手招(てまね)きで呼ぼうと振り向くと、未春は全身に力を入れてプルプル震えていた。

 やがてフッと力を抜くと、疲れ切った顔で紅葉の方を見た。


「魔力が……制御出来ないんですが……。それどころか魔力なんて微塵(みじん)も感じれないんだけど……」


 暗い顔から一転(いってん)、今にも泣き出しそうだ。


「あー……そ、そうなの。(げん)に魔法が発動してるんだから魔力が無いわけじゃないとは思うんだけど……」


「え、未春出来ないんですか? 小学生でも出来るのに!?」


 紅葉が気まずい感じでフォローを入れるも、花楓が言ってはいけない事を言う。傷をえぐる気まんまんである。


「あっははは、こうですよこう。ほらほら見えますかこの淡い光。……なんですか。そんな(にら)んでも怖くないですよ。(くや)しかったらまずは男に戻ることですね。……いやぁ、やはり姉と弟のパワーバランスはこうでなくては! あ、今は姉妹なんでしたっけ〜!」


 炊事、掃除、勉強にスポーツと何ひとつ欠けず弟にスペック負けしていた花楓は、ここぞとばかりに弟を下に見る。良い笑顔だ。

 未春は泣きそうな顔から徐々に冷静を取り戻し、やがて(ひたい)に怒りマークを浮かべて威圧的(いあつてき)な笑みを浮かべた。


「ちょっと黙れ。イスで殴られたくなかったらな」


 笑みを浮かべたままイスに手をかける。


「何でイスで殴るんですか! いいじゃないですかこれくらい。普段全然勝てる事ないんですもん。ちょっと(あお)られるぐらい我慢するべきです」


「何でって……そりゃ机は重すぎるからだけど。女の子の体って不便だな?」


「攻撃力じゃなく行動原理に疑問を(いだ)いたんですが!?」


「ま、まあまあ落ち着いて下さい二人とも。未春ちゃんはおいおい魔力の制御を頑張るとして……花楓ちゃんは魔法の使い方ですよね」


 突然の痴話喧嘩(ちわげんか)? に紅葉が何も言えないでいると、しおりが二人に割って入った。


「そうですそうです。是非(ぜひ)ともご教授(きょうじゅ)願います!」


「そうですね〜……ならまずは魔力の質と魔力量を見てみましょうか。もし強力そうなら場所を変えないといけませんし。花楓ちゃん、さっきの要領(ようりょう)で魔力を全力で手のひらに集めて下さい」


「了解です!」


 言うと、花楓は体内にある全ての魔力を総動員して手のひらに集め始めた。手のひらは徐々に輝きを増し、小さな部屋なら照らせる程度にまで成長したところで安定する。

 しおりはまじまじとそれを見ていたが、やがて光から視線を(はず)し花楓と顔を合わせる。そして若干(じゃっかん)ドヤ顔の花楓の顔を見て優しげに微笑(ほほえ)んだ。


「花楓ちゃんは魔力の質も量もちょっと異質ですね〜」


「マジですか!?」


 花楓はさらに目を輝かせる。

 「まさか自分に魔法の才能があったとは」と喜んでいると、食後のコーヒーを飲んでいた向日葵(ひまわり)が申し訳なさそうに口を(はさ)んできた。


「あー……、花楓さんよ……」


「何ですか!」


「しおりが言ってる異質ってのはアレだ。あー……、魔力の質も量もどっちもクソって事だ。前例がないレベルでな……」


「えっ……」


 花楓は驚いた顔のまま固まってしまった。……衝撃が強すぎたようだ。

 「出来るだけショックを受けないようにしたのに」と、しおりはジト目で向日葵を見やる。向日葵は一応顔の前で手を合わせて謝っているが、ウインクをしている時点で反省の色はなさそうだ。

 花楓は徐々に思考を取り戻し、驚いた顔はそのままに、目に涙を溜め始める。


「で、でもほら! 魔力がどんなでも魔法は使えるわよ。だから気を落とさないで。ね?」


「う、うぅ〜……ほんとですか……。クソな魔力でもちゃんと魔法使えますか……」


「うんうん、使えるわよ。試しにここで使ってみましょ。魔法を使うって言っても魔力を放出するだけでいいわ。何かしら適正(てきせい)がある魔法が発動すると思うから。魔力を外に投げ出す感じよ。もう魔力制御はバッチリなんだもの、花楓なら簡単に出来るはずよ」


 紅葉は花楓を元気づけるように立ち回る。

 あれだけ使いたがっていた魔法を体験すれば、きっと花楓も元気を取り戻すだろう。そう思っての提案(ていあん)だった。


 花楓は(うなず)くと、言われた通りに魔力を操作する。投げ出すイメージを補完(ほかん)するため右手を前に突き出し、誰もいない適当な場所めがけて放出した。

 すると──


「お、おお……(はし)置きが浮きました。ふわふわ浮いてますよ。すごい……あっ、横にも動く。横にも動きますよこれ」


 ──机に置いてあったネコ型の箸置きがひとつだけ浮いた。


 花楓は興味津々(きょうみしんしん)と言った様子で、(ちゅう)に浮いた箸置きの上下(じょうげ)で手を振る。結果、箸置きは糸で()るされているでもなく、透明(とうめい)の台の上に乗っているでもない事が分かった。


「紅葉さん、これは何の魔法ですか? 見た感じ風で浮いてるって訳でもないですし」


 花楓は視線を箸置きに固定したままに、頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。確かに"火"でも"雷"でも"水"でも"地"でもなければ、"風"を起こして浮かせている訳でもなさそうだ。


「さぁ?」


 質問を受けた紅葉は、サラッと回答を放棄(ほうき)する。


「えぇ……わかんないんですか……あっ……」


 予想外の紅葉の言葉に、花楓は困った様子だ。

 箸置きに視線を戻すと、ふわふわ浮いていた箸置きが浮力(ふりょく)(うしな)い机に落ちた。どうやら魔力が切れてしまったようだ。

 小さな箸置きを少しの間浮かせただけで魔力切れとは、本当に頼りない魔力量である。


「姉ちゃん、今のって超能力じゃない? ほら、念動力(サイコキネシス)だっけ。そこらの物を操れるヤツ」


 落ちてしまった箸置きを悲しげに見つめている花楓を尻目(しりめ)に、未春は今見た現象を自分が持っている知識内(ちしきない)推理(すいり)する。

 魔法が存在したのだ。超能力がこの世にあってもなんらおかしくはないだろう。


「何よ? 超能力って」


 自分の知らない単語に首を(かし)げる紅葉。


「えーっとですね……、こっちの世界では魔法よりメジャーな『不思議な力』だね。魔法より定義がピンポイントな力なんだよ。例えば日奈子(ひなこ)さんなら風を操る力を応用して空を飛ぶけど、超能力では結果だけ切り取って "空を飛ぶ力" って感じで」


「……つまるところ、魔法の亜種(あしゅ)……ってことね?」


「そう、それそれ! そんな感じであってる」


 少し考えた後、紅葉は超能力の事を「少し変わった魔法」という認識に落ち着かせた。


「あー、でもようやく合点(がてん)がいったわ。未春(アンタ)が女の子になってるソレ、いったい何属性よ、ってずっと気になってたのよ。やっとスッキリしたわ。よかったよかった」


「いや良くはねーよ」


 未春はすかさず否定する。

 

「あんな格好いいのか悪いのか微妙なナリに戻るより今の方が100倍いいと思うぞ妹よ」


 花楓はスススーッと未春の後ろに回り、近くのイスに座らせた。


「良くねーよ。てか妹言うな。……うわ、止めろ姉ちゃん頭を撫でるな! ほっぺたをつねるな(くせ)っ毛を手入れするな…………やめろっつってんだろ!!」


 このあと未春は全力で魔力制御を(こころ)みたが、やはり元には戻らなかった。

次の話は、9/7(水) あさ5時に投稿します~

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