おっさんチートに至る
「はあ〜もう限界だー」
ため息を大きくついたロン毛のおっさんは薄暗い部屋の中で唯一ほんわりと微かな光を出しているはパソコンと向き合った。
様々なゲームオタクのクレームをズラっと並べるゲームのレビュー欄、そして重なる労力に見合わない収入。
ついに、山本太郎44歳はゲーム作りの人生を終わらせた…
「ついに俺も立派の自宅警備員か。これも運命だな…」
ボロボロな椅子にぐったりと座り、彼は天を仰ぐことしか出来なかった…
そして数秒後…
彼は微動だにしない、ガッタンとおっさんは唐突に椅子から立ち上がり、拳を掲げる。
「よっし!仕事もなくなったし、競馬、パチンコ、競艇でもやるか。」
一般人はここでハローワークに行き次なる職を探すのだが、このおっさんにはそのような考えは毛頭になかった。いや、出来なかった。
彼は誰よりもゲームに対して熱量があったのだ、それ以外にも彼のプライドというものがあった。
この人並ではない情熱と執念そして、誇りが彼の思考をボヤけさせた。未だに彼の脳内のどこかに自分はプロのゲーム制作者であると自覚をしている。
彼はただただ強がりで何ともなさそうに振舞っている。
早速彼は有言実行し、パチンコに向かった。そして、惨敗した…
ボソボソと文句を呟きながら寂れた公園のベンチに座っていると、自分の今までを振り返って見る。
俺は17歳でゲームを自作し始めてそれから数々の賞を受け取った…
それから大企業と言われている会社に運良く務めることができた…
おそらく、人生の頂点はそこだったのだろう。
あの日、アイツらと喧嘩しなかったらな…既に調子に乗っていた俺は逆張りを続けた…
つまり、協調性というのが全くなかった。年上の同僚からはただの見てて痛くなる青臭いガキだったのだ。
あまりにもリアリティを求めるせいで会社の方針と会わないと判断された。
くそー反抗しなければ良かった。そうすれば同僚とも仲良くできただろうに…会社を辞退してそこから俺は自分でゲーム制作を開始し、今に至る。
脳内で後悔していながら彼は自動販売機でジュースを買いに行く。
なけなしの硬貨を販売機に食わせて、下からジュースを取り出し、
顔を上げると――――――――――
自分から遠く10km先離れたところで光の柱が何十本も立つ…
おいおい嘘だろ?なんなんだよ!もしかして映画の撮影かよ!?
いや、それはありえない、そんな大規模な映画撮影聞いたことない…もしかして宇宙人が襲撃してきたのか?
そんな馬鹿な話はどこにある、と俺は脳内で討論を繰り返す。パニックになる俺は口を大きくあげてしまう。
すると、続けて脳内でまるで感情のない機械的な音声が流れる…
システム執行
只今より地球浄化プログラムを開始致します。
これはは地球を代表する総意識体である。そして、今からヒューマンという種に実行すべきプログラムを発表致します。
20XX年X月X日X時に全世界にダンジョンを配布致しました…
これよりヒューマンはダンジョンの最下層にあるフロアボスを撃破し、ダンジョンの機能を果たしてください…
ダンジョンは3年以内に解放されなかった場合はダンジョンのモンスターを全て地上に解放致します。
また、ヒューマン一つ一つの個体に各ステータスを与えます。そして、専属武器と職業を与えます。
これらを用いダンジョンの解放をめざし、そしてヒューマンの未来の安否は貴方方自身の行動によって確定されます。
「なんだ?一体何がどうなってんだ!?」
俺は合わふためる、左右上下周辺を見渡し、謎の声の正体を探ろうとするがまるっきり何も無い。
「むむむ。まさかテレビ番組のドッキリか、それともまじで俺知らずの間頭がおかしくなったのか?」
自問自答をしたいところがそんなことに余裕が無い…
「もし本当なら?いや、さすがに無いでしょう…ラノベみたいな展開は、ここ現実世界だし、ちくしょう…肝心のスマホを家に置いてきちまった。」
だが、こんなことが起きた後にまだ妄想の方がより現実だったと思う…誰もこんな非現実的な出来事を思いつきやしない…そして論外なく俺もそうだ。
ならば、方法は1つ確認するしかない、俺は試すことにした。
周りに誰もいないことを確認して俺はできる限りの最大の速度で例の呪文を唱える。
「ステータスオープン」
そして、まるで生まれてからずっと使用していない体の一部位を久しぶりに動かしたような感覚がした。
効果音も派手の演出もなくそれはすっと俺の目の前に現れる、いや、現れてしまった…
「俺の、ステータスだ…」
目を瞠目させ、手をわなわなさせて俺はステータスを巡り、目で文字を追う。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
山本太郎 44歳
職業•治癒術士
Lv1
魔法耐性Lv2
物理耐性Lv1
技
・治癒術
・棒乱打
・絶対絶命の最終逃亡
称号
パチンコの敗北者
四十路の最悪の無職
専属武器・亡魂のスティック
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺はじっと目を細めてステータスを細かく見る。見るにつれて段々と親近感が湧いてくる。
昔にひたすらこいつと向き合って考え込んでいたような。そんな感覚に陥る…
そして、俺は気づいてしまった。
まさかと思うが
これは俺は全身全霊をかけて作った究極のくぞげー
魔剣伝説
のステータス欄であることに…
しかし、俺の職マイナーすぎるじゃん…俺は頭を抱え込んだしまう。
治癒術士は俺が遊び半分で作ってしまった趣味職である。
俺のゲームをやっているコアなファンたちは本職の次にこの職を選び遊びこんでいた。
理由はただ1つ魔剣伝説での治癒術士の術式による回復は必要とされていないためだった。
なので、多くのこのゲームのコアなファンたちは俺にクレームを入れた。
こんなくだらないゴミ職より敵の強さの下方修正を頼むと…
しかし、彼らは誰も気づいてない…
この治癒術士の隠しステータスに…
俺はゲームに多くの要素を隠している。それは多くの人に色んな新しいことに目を輝かせ、世界の果てまで冒険して欲しいためである。
そのために、俺が決めた方針の1つにはこう書いてある。
全ての職業は公平にだ…
そして、俺は製作者であり、彼らよりも圧倒的な知識量がある。
そう、俺が設定した隠しステータスは治癒術士が治癒術を使いながら攻撃するとクリティカルが入り、その戦闘経験値は2倍になる。
ニヤリと笑い俺はこの世界で生まれた幸運に対して祈った。
そして、これから多くのプレイヤーが俺の世界を探求してくれることを期待して、俺は口角を上げざるおえなかった。
ようこそ、俺の世界へ、
山本太郎 彼が作ったゲームは単にくそゲーではなかった。神ゲーすぎてクソゲーである。
あまりもの作り込み、そして多様な武器、戦闘職、調合できる薬、それらはゆうに5000以上に上る…ならばなぜくぞゲーと言われているのか…
それはモンスターの圧倒的理不尽である。
それは、それらのモンスターは程よくバランスに満ち溢れ、多くのプレイヤーは苦戦を繰り返すが最終的には倒せるようにできていた。山本太郎はプレイヤーにできるだけドキドキ感やギリギリで負けてしまうその焦燥感を味わって欲しいためだった。
しかし―――――――
客の多くは敵を倒した爽快感、単純明快なるゲームを求めている。
それが現実世界に降臨し、多くの人達はこの糞ゲーに挑まなくてはならない…
それを山本太郎は細く微笑む…この世界での多くの住人が生まれ彼は彼らの未来を思い描き、歩みを進める。
そして、記念すべき最悪のダンジョン探究者が今誕生した。
面白いと感じたら☆☆☆☆☆を★★★★★にしてください。
作者の投稿頻度とやる気がアップします。
ブックマークもぜひお願いします。