#04 反乱軍への加入
『レグリット家、王族殺害の罪で一族の斬首が執行』
それが今朝配られた新聞の見出しだった。
俺が皇女リリアを助けてから一日が経つ。
俺たちは元いた街から更に西の、国境付近の街まで移動した。
それまでにリリアに関する情報を聞いた。
それはなんとも壮絶な運命だった。
彼女はつい先日、親兄弟を皆殺しにされていた。
首謀者はリリアの数多くいる兄の内の一人、エリウッドという男だ。
二人の父はこの国の皇帝である。
エリウッドの目的は、自分自身が皇帝になることらしい。
その為に現皇帝の父親、そして王位継承者だった自身の兄すらも葬った。
エリウッドは王族の血を根絶やしにするつもりらしい。
彼だけが王家の血を継ぐ唯一の存在、正当な後継者であるために。
エリウッドは国家の軍事力を完璧に掌握していた。
かなりの時間をかけて各地に根回しをしていたそうだ。
そのせいで王族は一方的に虐殺された。
ただ一人、リリアだけがその惨劇から生き残った。
何故なら彼女には優秀な、直属の親衛隊がいたからだ。
親衛隊の活躍によって、リリアはエリウッドの追跡を免れた。
そして、王都から遠く離れたこの街まで避難することができた。
しかし、エリウッドはリリアを始末する為に追手を差し向けた。
その追手と戦闘している最中、親衛隊はリリアと分断されてしまった。
あわや追手によってリリアが始末されそうになった時、俺は彼女と出会った。
「まずは親衛隊長として礼を言うよ。ありがとうギーク。危ないところを助けてもらった」
長身で黒髪ポニーテールの女性が俺に対し頭を下げる。
彼女はリリアの親衛隊長、リン=シルビアだ。
俺がリリアを助けた時、真っ先に現場に駆けつけたのが彼女である。
「だが本当に良かったのか? 新聞にはこう書いてあるが、明らかに君の実家は罪をなすりつけられ殺されている。それはおそらく、君が私たちに加担したのが原因だろう」
「別に構いませんよ。説明した通り、俺は実家を追い出されてここにいるんですから」
俺は事の経緯を洗いざらい彼女たちへ説明した。
最初は彼女たちも半信半疑だったが、新聞を見て俺への疑いは晴れた。
「レグリット家と言えば、エリウッド派筆頭の家系だったからね。君のことをエリウッド側のスパイと疑う奴もいたが、一族が処分されたことで君の疑いは晴れた」
「正直、家のことはよくわかりません」
俺は過去の暮らしを思い返す。
本当にロクでもない生活だった。
彼女たちと行動を共にした時間は一日にも満たないが、それでもこっちの方がマシに感じる。
「……親とマトモに会話したこともありませんから」
「そうか。聞く限りだと、随分と悲惨な生活だったらしいな」
言って、彼女が手を伸ばし、握手を求めてくる。
「それでも君の目は真っ直ぐだ。その揺るぎない信念を信じてみたい。君さえ良ければ、私たちに力を貸してくれないか?」
俺の目を見据えながら彼女が言う。
願ってもない言葉だ。
俺はリリアに手を貸したいと思った。
だから助けた。
これからもそうしたいと思っている。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
俺は力強く彼女の手を握り返した。
これで俺と彼女は仲間だ。
同じ目的を持った同士。
いい信頼関係じゃないか。
まるで物語で見た通りの組織だ。
「さて、仲良しごっこはもういいかな」
俺と彼女、どちらでもない男の声がする。
彼はさっきから俺たちの近くに座っていた、青い短髪の男だ。
親衛隊の一人、レオニクス=ポートオである。
「そういえば、アンタはギークをスパイだって疑ってる筆頭だったね。疑いはもうとっくに晴れたでしょうに」
「いいや。我々はその男のことを知らなすぎる」
淡々と語るレオニクス。
そして若干テンションの高いリン。
凸凹なコンビだが、会話からそれとなく強い信頼関係があることを感じる。
「そんな男に重要な役割を担わせようとか、馬鹿か貴様は」
「まったく。レオ、アンタはギークの能力を見ていないからそんなことが言えるの。彼のスキルは凄いんだから。ギーク、ちょっと姫様出してみて」
リンがチョチョイと指を動かして合図を送る。
それを確認して俺はスキルを発動する。
「『開放』」
近くの椅子の上に向かってボックスを開放。
すると中に収納されていたリリアが出てきて、チョコンと椅子に座る。
「便利だよねー、ボックスって。人もしまえちゃうし、外部から危害も加えられない。姫様を護送するのに、これ以上安全な方法はないと断言できるね」
リンが俺の能力を絶賛する。
こうやって他人から素直に褒めてもらうのは初めての経験だ。
だからすっごい嬉しい。
「それだけじゃないんですよ」
リリアが笑顔で会話に参加する。
あいも変わらず綺麗な笑顔だ。
「ギークさんのボックスの中って、小さな部屋みたいになってて。外から好きな物を持ち込めるから、けっこー快適で居心地がいいんですよ」
「姫様、あまりその男を信用しすぎないでください」
レオニクスが苦言を呈する。
いい感じの雰囲気だったのに。
空気を読めない男だ。
「確かにその男の能力は特別だ。従来のボックスよりも遥かに多くの容量を持つし、発動条件も緩い。そして、本来なら収納が不可能なはずの人間すらも収納することができる。明らかに異常だ。そこまで能力を使いこなしている人間を、どうして家から追い出す必要がある? ソイツの両親は馬鹿なのか?」
いやうちの両親マジで馬鹿なんですよ。
何をできるかも確認せず、ボックスってスキルだけで俺を家から追い出した。
親として最低というか、人間として最低の人種だと俺は思う。
「その時点でソイツの話は眉唾だ。俺は絶対にその男を信頼しない」
「まったく、レオは卑屈なんだから」
呆れた顔でリンが応対する。
「ギークがいれば、私たちが今抱えている問題のほとんどを解決することができる。彼は英雄になり得る逸材よ。そんな彼が仲間になってくれると言っている。この奇跡に縋らないで、どうやってエリウッドを討ち取るって言うのよ」
「俺たちでどうにかするしかあるまい」
そう言ってレオニクスが席を立つ。
「夜も遅い、お前たちは休め。姫もお早めに就寝を。ただし、寝首をかかれないよう気をつけて。俺は見回りに行ってきます」
レオニクスはそれだけ言い残して部屋を後にした。
「はあ……。まったく、アイツはこれだから」
リンがため息を吐く。
「悪い人ではないんですよ。ただ最近は辛いことが続いて、気が滅入ってるだけなんです」
リリアがレオニクスのことを庇う。
「本当に、最近は辛いことが多すぎました。死んでしまうかもしれないのに、みんな私なんかの為に命懸けで戦ってくれて……。けど、ギークさんのおかげで少し希望が見えた気がします」
そう言って、今度は彼女が俺のことを見据える。
「私からもお願いします、ギークさん。どうか私たちに力を貸してください」
リリアが頭を下げる。
そんなことは言われるまでもない。
最初から俺は彼女に協力すことを決めている。
それを今度は彼女直接、ハッキリと伝える。
「もちろん。俺にできることならなんでもやるさ」
「ありがとうございます」
リリアが再び笑顔になる。
喜んでくれたみたいでよかった。
彼女の笑顔を守るためなら、俺はなんでもできる気がする。
「さてと、それじゃあ改めて」
リンが場を仕切り直す。
「国家に反旗を翻そうとする、私たち反乱軍の元へようこそ……ギーク=フォン=レグリット」
そんな彼女の言葉に、俺は笑顔で返した。
ようやく、俺のいるべき居場所が見つかった気がする。
*
──同時刻。
エリウッドが占拠した王城、その玉座の間にて。
エリウッドは念話を使い一人の男と会話していた。
「現地の状況は?」
「部隊は壊滅しています。生き残りはいません。標的は既に街を離れているようです」
「そうか。なら、追跡は可能か?」
「もちろん。匂いは残っています。今夜中には追いつけるかと」
「わかった。貴様に始末を任せよう」
「了解いたしました」
男は痩せ細り長い髪の異様な風貌をしている。
リリアを始末するため、男は痕跡から追跡を開始した。
ギークらのいる隠れ家に辿り着くまで数分もあれば十分だ。
皆が寝静まろうとした深夜、男との戦闘は開始する。
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『次回 #05 追跡者 その1』




