84. 戦勝報告
崩れ往く方舟から脱出し、ゼニアの背に乗って宇宙を駆ける。
まるでビックバンのように盛大な爆発が起こり、裂光と余熱が奔る。
初めて、災厄と戦った。感じたのは、「不安定」だ。
災厄との戦いは、もはや力だとか、鍛錬だとか言ってもどうしようもない。ただただ相性の問題で、今回だってブルーカリエンテの機転がなければ勝てなかったかもしれない。足場もなく、宙ぶらりんにされた状態で踊れと言われているかのような不安定さ。このまま全ての災厄に都合よく勝利を収める事などできるのだろうか。
……まあ、僕以外にもジャイルだったり、他の神族も居るから、まだ混沌側も総力を切った訳ではないので何とも言えない。
いつの間にか僕らは文明が息づく生まれ故郷に帰って来ていた。速度を緩めながら神域に降下し、地を踏みしめる。そういえば、衛星とかにゼニアが映っていると思うんだけど、大丈夫なんだろうか。
夜空を見上げる。どれくらいの間戦っていたのかも分からない。
「……きっと、数百年後には方舟の爆発が地上から見える事でしょうね」
「ああ、そうだね。彼が……ブルーカリエンテが見せてくれる未来の空だ」
その日まで、僕は生きていられるだろうか。
「ん……アテルが呼んでる」
「さあ、戦勝報告といきましょうか」
意識を鎮め、精神世界へと潜る。
意識の間断を感じずに、気付けば灰の砂漠へと立っている。
「やあ、二人ともお疲れ様! 戦いの顛末は全部見てたよ!」
彼女はいつもと変わらぬ溌剌とした様子で僕らを迎え入れた。辛い出来事があった後なので、なんだか少し複雑な気持ちだ。
「アテル。何とか勝てて良かったよ。共鳴の具合も分かったし、今後の災厄戦もどうにかなりそうかな?」
「うーん、どうだろうね。今回のランフェルノはかなり世界への影響力が小さい災厄だったし。おかげさまでジャイル、ケウベイン、ルーリーは出番が無かったよ。君はまだ、災厄を前にして何も『失っていない』。失うことこそが、人理を生き愛する者にとって最も辛いことだと聞く。今回の災厄は最も重要な要素である……『失わせる』ということを重視していなかったね。おかげでチュートリアルみたいな扱いになったね」
災厄の厄介さは世界へ与える被害の大きさで決まる。たしかに、今回のランフェルノに関して言えば一切文明への被害を与えなかったので、ありがたい敵であったのは事実。
「でも、ランフェルノは強かった。他の世界の創世主を滅ぼしたとか言ってたし……」
「ああ、いや……彼が倒したのは創世主じゃないよ」
「え……?」
だが、共鳴者である僕の攻撃をもランフェルノは無効化していた。それは即ち、創世主と同等の力を得ていたということではないだろうか?
「聖戦世界の創世主は心を捨てていなかった。心に縛られている者は魂を持ち、その力も大幅に制約される。私が心ある者になる時のようにね。彼が呑み込んだカテュリエズは種族で言えばたしかに創世主だったけど……心持つ創世主なんて贋作さ、私達と同類とは言い難い」
「んーと……ゼニア、分かる?」
「いえ、私もまた彼女の言う「心持つ者」ですので。もちろん、共鳴状態のアルスさんもです。創世主の力を行使できると言っても、心がある限りは大幅な制限があるという事ですね。……私も今はじめて知りました」
……つまり、僕は心を捨てなきゃならないのか?
「流石にアルス君に心を捨てろとは言わないよ。バランスが壊れちゃうから……っと、なんでもないよ。さあ、まずは戦勝祝いといこうか!」
そう告げると、小屋の中にたくさんの料理が現れた。
……アテルに心が無いとしたら、この行動は何を意味するのだろうか。少なくとも、僕が誘拐されて育った約十年間は、彼女に心が無いなんて思いもしなかったけど。
「…………」
ふと、隣のゼニアに目をやると、彼女もまた何か考え込んでいるようだった。彼女はアテルと僕よりもずっと長い間の付き合いだ。何か思うところがあるのかな。
「まあ、今は目の前の勝利を喜んでもいいんじゃないかな、ゼニアも」
「アルスさん……そうですね、ありがとうございます」
それにしても……魂、か。ランフェルノの力の根源も魂だったけれど、それが何なのかは現代科学では解明されていない。後で調べてみようかな……。
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「ぐっ……! 右腕が疼く……! 闇の力が暴走してしまう……!」
「し、師匠ッ! 禁じられしあの力が、まさか……!」
「くっ……もうすぐお前に最終戦術『破滅の型』を教えるつもりだったが、やむを得んな……!」
「は、破滅の型……これまで教えるに値しないと仰られていた最終戦術の名ですね……!」
「このままでは、貴様を傷付けかねん……! そうだ、貴様の先輩で我の一番弟子……アルス・ホワイトの下へ急ぐのだ! 奴ならば貴様に破滅の型を教えることもできよう……」
「師匠……分かりました。破滅の型……必ずモノにしてみせます!」




