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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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82. 死なずの焔

 何故、私がランフェルノに呑まれた後でも意識を保てているのか。本来であれば呑まれたと同時に魂は吸収され、彼女……レオハート様の手元にあるように焔へと変えられてしまう筈だ。

 ここは精神世界の類。現実の我が肉体はとうに焼き切れ、この魂もランフェルノの内側に囚われており……蘇生は不可能。故に、私にできる、せめてもの復讐(こと)は……


「ブルー、あなたは主様の力になる事を拒むというのですか?」


 我が主を、いや……元主を救う事。それが現主の助けにもなろう。

 彼女は生前から正気ではなかった。聖戦世界(ランガード)滅亡後、私はランフェルノについて調べ尽くした。そこから得た情報は、奴があらゆる猟奇的な手段を以て力を得ていたということ。その中には洗脳、或いは強制服従もあった。恐らくレオハート様は洗脳を受けていたのではないか──でなければ、配下との約束すらも反故にしてランフェルノに付き従っていた意味が分からない。

 だが、実体を持たぬここ精神世界でも彼女が正気を失っているのは何故だ?


「……貴方は、レオハート様ですか?」


 疑念。いいや、たしかに私に関しての記憶はあるのだろう。もしも彼女が生前に洗脳を受けていたとしても、死後には肉体にかけられた洗脳は解けるのだが……


「ええ、勿論です。何だかおかしな質問をしますね」


 私が命に反する姿勢を見せても、彼女から怒気は感じられない。ただ単純に疑問を呈したのみで、私の態度を諫めようともしなかった。私が知る彼女であれば、静かに、かつ厳かに怒ったはずなのだ。

 だからこそ、沸き上がった疑念がある。


「……そういえば、私とレオハート様が出会ったのは何処だったでしょうか」


「いえ、覚えていませんね……いきなりどうしたのです?」


 ──ああ、やはり。


 眼前の者はレオハート様ではない。洗脳後の彼女の魂を写し、概念化したランフェルノの機関だ。

 彼女がこの質問に答えられぬ訳がないのだから。


「ノアの魂鏡をご存じですか?」


 私は不意に尋ねた。


「……なんだか聞いた事があるような」


「はい、レオハート様のような大悪魔であればご存知の筈ですが、何故覚えていらっしゃらないのか。……ノアの魂鏡は生前の記憶を抽出し、精神世界に閉じ込めるという魔道具。必要な記憶、不要な記憶を取捨選択し、洗脳に近い認識改編を行うものです。ただ、少しだけ欠陥があり……切り離せない記憶も存在するのです」


「それは素晴らしい技術ですね……もしや私がノアの魂鏡とやらを忘れているのは……」


「……ええ、貴方が偶像であることを示します。魂を砕くという行為は悪魔に最適の仕事ですから、ランフェルノは貴方の魂をノアの魂鏡により機関化し、不要な記憶を消し去った」


 それを聞いてもなお、彼女は平静と振る舞い、


「良いではありませんか、忘れていても。私が機関でも。ただ主様のお力になれれば良い……そうは思いませんか?」


「思いませんよ……思いませんとも。今の貴方は、生前のレオハート様への冒涜そのものです……」


 やはり、理屈で、理性でこの場を収めることは出来ない。


 ならば、どうする?

 精神世界故に、彼女を殺す事はできない。しかし、魂を殺す事ならば。


 悪魔の分際で、良心の呵責が私を苦しめた。


                                      ーーーーーーーーーー



「青霧瓦解……!」


 対象との間の時間を斬り裂く一撃、青霧瓦解。隙を見出し、神剣にて放つ。


「ぐっ……!?」


 斬撃はランフェルノの焔をも斬り裂き、奴の身体に傷を付ける事に成功した。

 これだ、この技ならば……


「……不可思議な技だ、僕に傷をつけるなんて。でも、こう思ってはいませんか?」


 ランフェルノは不敵に嗤い、更に焔の質を高める。


「その技ならば僕を滅ぼせると! この身は永遠、不滅! たとえあなたが何千、何万回その技を僕に当てようとも……魂を糧として再生するのみです!」


「……この技ならば、君に届くかな。ブルーカリエンテ」


「は……? あの悪魔の事を仰っているのですか? アレ(、、)の魂ならば僕が吸収してしまいましたよ」


 戦いながらも、ずっと考えていたんだ。なぜブルーカリエンテは自ら呑まれるような事をしたのか。

 ランフェルノの焔は魂の力を使って作られた概念だ。だが、魂は易々と砕けるエネルギーではなく、呑まれてから吸収されるまでに猶予がある。恐らく彼はランフェルノの中に入り込み、魂を砕く機関を破壊しようと……いや、消し去ろうとしている。

 荒唐無稽な話で、普通ならばここまで都合よく察することはできないが……ゼニアの動きを見て分かった。彼女は先程から辺りに気を配り続けている。念話で確認したところ、焔の供給源を捜し続けているらしかった。


 つまり、魂の流れが彼女には視えておらず、僕には視えているということ。これが創世主の共鳴者だからなのか、僕の異能に起因するものなのかは不明だが……ランフェルノの焔が奴の身体の内から魂を合成して供給されている、という事実は僕のみが把握している。いや、その情報自体はランフェルノについて調べ続けていたブルーカリエンテも知っていた。

 ブルーカリエンテの魂は、今だにランフェルノの内で燻っている。今も彼は戦っているのだ。その証拠に彼との契約はまだ有効になっている。


(アルスさん、届きましたか?)


(……分からない。でも)


 彼は一人でどうにかするつもりだったのだろう。きっと自ら呑まれるなんて言えば僕に止められるから。

 ……いいさ、君の意志を尊重する。己の命まで犠牲にして抗おうとした君に敬意を。そして、僕も共に戦わせてくれ……君の主として。


 青霧瓦解が対象への時間を無視できるのならば、君の元へも届くかな。


「ぐああっ……!? な、何だ……おい、熱い! 焔はどうした、レオ!」


「ここまでだ、ランフェルノ!」


 焔は未だ残っているが、供給は次第に減衰している。

 ──良かった、届いたね。


「クソっ、永遠が、永劫の僕が……! 何をした、何をされた!? 嫌だ、僕は死なない、死なないんだ!」


 ここで終わらせよう、永劫を。

  



 

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