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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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81. 月世界の悪魔

 焔の旋風が身を焦がす。繰り返す再生、繰り返す焼ける苦痛。

 ランフェルノとの戦い……僕は未だに勝機を見出せないでいた。


 これまでの生において研ぎ澄まされた剣技も、凄まじい威力を誇る神剣も、彼の者が纏う焔により焼き切られてしまう。災厄と共鳴者との戦いにもなると、もはや人間はおろか、神の理も通用しないということだ。


「……そこの神族の方」


「悪魔さん、どうかしましたか?」


「一瞬だけ、そう一瞬だけで良いのです。ランフェルノに隙を作り出す事はできませんか? あの焔を剥がせずともよい、注意を僅かに逸らしていただきたいのです。そうすればあの焔の正体の確信が……!」


「私の力で為せるかどうか……ですが、やってみます」


 遠方ではゼニアとブルーカリエンテが談合しているが、何を話しているのか聞き取れない。この状況の打開策であれば良いのだが。

 恐らく、敵の原動力たる焔は「どこか」から供給されている。滔々と湧き出で、決して止まる事がない。そもそも、この焔は一体……?


「永遠、永劫……! 僕を滅ぼすなど不可能、いい加減諦めたらどうです!」


 答えはしない、ただひたすらに攻撃を続ける。仮に僕らが破れ、ランフェルノが文明のある惑星に到達したとしても……そこには他の神々が居る。ここで少しでも力を削っておくことも重要だ。

 ……まあ、負けるつもりはないが。


 まだ希望が絶えた訳ではない。

 奥義『青霧瓦解』が焔を斬り裂けるかもしれないのだ。技を放つ隙がないのが問題だが、好機は訪れるはず。

 策を巡らせながら斬り結んでいると、


「大空を畏怖せよ、『鳳凰裁光エルス・ルアネス』」


 ゼニアの身から神気が発され、それが鳳の形を成してランフェルノに襲い掛かった。今まで彼女が放っていた技とは比にならない威力さしもの災厄もその技に意識を取られる。

 この技ならば……


「く、はははっ! ですから無為なのです。あなた方の労苦は我が永劫の前には──」


 焔に弾かれた、ダメか!


「ああ、やはり……その(、、)焔でしたか……私の事をお忘れで?」


「んん……?」


 ランフェルノの背後に回り込んでいたのはブルーカリエンテ。悪魔の身で災厄の反応速度に追いつくとは……やはり彼は強い。けど、


「気でも違ったかい? 僕の焔は消せない。そう、消せないんだよ、この熱は……!」


 彼はランフェルノが纏う焔に手を突っ込み、じっと佇んでいた。その手はランフェルノの身に届くことなく溶かされてしまっていた。

 ──まずい、呑まれる!


「……お待ちください、我が使役者」


「え……?」


 僕が駆け出そうとした途端、ブルーカリエンテは待ったをかけた。

 ランフェルノも彼が何がしたいのかを分かっていないようだ。


「ランフェルノよ、我が魂を食んでみるがいい……! それが、貴様の為したい事なのだろう!?」


「うん、まあそうだけど……君の魂なんて一瞬で溶かせるよ? 自殺希望かい?」


 ……何か、何か策があるのか?


「どうした、できないかランフェルノ。貴様如きには私を呑めないか……!?」


「ははは、良いよ! さあ、君も僕の力となれ!」


 待て、何をする気だ!?


「ブルーカリエンテ!」


「我が使役者、アルス・ホワイト……貴方の世界(アテルトキア)、悪くなかった。後の事は、頼む」


 彼は見たこともない微笑みを見せると、


「さようなら、悪魔殿」


 豪と焔が燃え上がる。彼の身は一瞬で全て包まれ、灰すら遺らず散った。


「っ!? な、なんで……!?」


 死んだ……?

 いや、何のために? 彼はあれほどランフェルノを憎悪し、殺すと息巻いていたというのに!

 圧倒的な力の前に諦めた? いや、最後の彼の眼はまだ諦めていなかった……後の事は頼むとまで言い放ったのだ。

 何かある、何かあるはずなんだ!


「たしかに、悪魔の魂は僕に取り込まれて力となった。いやあ、なんだったんですかね? まあいいか、続きをするか、諦めるか選んで構いませんよ」


「……アルスさん、悪魔さんは何かに気付いていました」


「ああ、分かってる……必ず、破ってみせる……! ランフェルノ!」


「ははっ、いくらでも相手しますとも! 僕は不滅なのだから……!」


                                      ----------


「……やはり、ここに居られたのですね。レオハート様」


「おや、ブルーカリエンテ。あなたも主様のお力になりに来たのですね。素晴らしい心掛けです」


 渦巻く怨嗟の焔の中に、ただ一人の悪魔。

 『氷結の大悪魔』。かつてそう呼ばれた悪魔は無数の魂を司り、焔を生み出し続けていた。ここは恐らく、ランフェルノの根幹……力を生み続ける場所なのだろう。


「久方振りにお目にかかれて光栄です。何をなされているのです?」


「私は主様の内で焔を紡ぎ続けているのです。この魂の焔こそ、永遠の楔。我が主に不死と永劫を与える偉大なる発明なのですよ。素晴らしいでしょう?」


 眼前の大悪魔は胡乱な目で笑った。かつて私が見た冷たくも暖かな笑みではない……煮えたぎる様な狂気的な笑み。

 ──きっと、今なら私の方が幸せに笑える。つい先ほどアルス・ホワイトに見せた私の笑みの方が、彼女の浮かべるソレよりも幸せで暖かい。


「『氷結の大悪魔』には似つかわしくないですね、焔とは」


「ふふふ……主様の為ですから。さあ、あなたも一つになりましょう」


「……私は、レオハート様の命に背いた事は一度たりともありません。恩人である貴方を尊敬し、忠実なる僕であるように務めてきたつもりです」


「はい、あなたは今でも私の忠臣ですよ、ブルー」


 聡明で、厳しくも篤実であり、私を教え導いて下さったお方。

 永遠に、それこそランフェルノが望んだように──彼女との時が続けばいいと思っていた。だが、永遠は無い。壊されるか、壊すか……いずれにせよ存在しないのだ。



 そして、ランフェルノにも永遠を渡すつもりはない。

 たとえ、我が主(レオハート様)が望まれようとも……いいや、彼女は望んでいない。私が憧憬を抱いた彼女の意思はとうの昔に……


「申し訳ございません、レオハート様。貴方の命には従えない」


「……ブルー?」


「貴方は既に死んだ……もはや我が主ではないのです。そして、現在の我が使役者はアルス。彼はランフェルノの破滅を望んでおられる。……悪魔にとって契約は絶対。貴方が最初に教えてくれたことです。ですから、私は……!」


 呆然とするレオハート様……いや、レオハート様の人形に、私は初めて反旗を翻した。



 ……どうか、私の不義をお許しください。ここで貴方に背く事こそ、今は亡き貴方への恩返しとなるでしょう。


月世界(アスガンド)の元悪魔、『氷結の大悪魔』レオハート様の元配下、魔界伯爵のブルーカリエンテ。今、お救い致します」




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