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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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80. 永劫の焔

 ──死にたくない。


 その執念は誰もが持ち合わせるもので、僕とて例外じゃあなかった。ただ少し、程度が人よりも強かっただけで。生を受けた瞬間からその念を持っていただけで。


 最初に修めた魔術は、闇魔術。人倫、華冑、本道、知りはしない。禁呪とされた闇魔術だって、生存の為に使えるのならば使ってやろうじゃないか。殺人、拷問、悪魔召喚、洗脳。立場を利用して行える事は可能な限り……いいや、不可能があるのならば可能にしてやった。


 呼吸、呼吸、呼吸。空気が僕の気道を通る度、命の削られていく感覚が鳴り止まない。

 使役した悪魔、家の使用人が僕に近づく度、殺されるのではないかと焦慮しない日々はない。

 闇魔術の実験に失敗した時、呑まれるのではないかと度を失わない時はない。


 ずっと、ずっと打ち震えながら不完全な身体(ニンゲン)で歳を取っていった。



「ああ、そうか……」


 ある日、僕は気附いた。

 それは僕の身がある程度固まり、小国家に匹敵するくらいの勢力を保有した頃のこと。


「いかがなされましたか、主様」


 使役した悪魔のレオハートが尋ねてきた。最初に召喚した悪魔で、闇魔術の実験にも大きく寄与してくれた彼女は、今日とて僕の実験に携わっていた。

 訝しげに首を傾げる彼女に一枚のデータを差し出す。


「ほら、この人間の死体と、鼠の死体から採取した魔力波だ。これまでも似通った魔力波が計測されることはあったよね。でも、対象を死体に絞った時に限り、観測される波形がある。しかも完全に一致しているみたいだね」


 妙な話だ。通説には、死後の生命が魔力を行使することは不可能とされている。

 悪魔や天使を使役して拓けた事実といえば、天国も地獄も、奈落も涅槃も存在せず、彼らはただ魂を回収する役割を果たしているだけという事。生命が絶命すればその先には何も待ち受けておらず、悪魔・天使により魂が回収されるのだという。

 悪魔が人を破滅に導くなんて虚妄。天使が人を啓蒙するなんてのも妄信。両者の差異はただ、仕える主が異なるという点のみ。

 だが、この結果はまるで死後に何かしらの現象が働いているみたいじゃないか。


 僕の発見に、使役した天使のウグリエルが口を開いた。


「ふむ……フェルノよ、あくまで噂に過ぎぬ話だが、魂には種類があるらしいぞ? 神々にすら観測不可能な何かしらの型がな。……まあ、噂に過ぎぬ」


「へえ……」


 実証してみる価値はある。

 ……いや、実証しなければ。




 八つ、或いは九つ。

 魂の種類の数だ。あらゆる生命を殺め、辿り着いた結論。人間、動植物、魔力体の無機にすらも、ソレは存在した。僕にだって──


「魂が僕から抜け落ちれば、死なない……或いは魂を改造できれば……」


 身体……主に脳細胞を管理するエネルギー。不死性を持つ種族は絶命時、記憶を魂に複製した後に肉体を再構成、そして再び記憶を脳に焼き付ける。超常の時を生きる事による記憶のキャパシティオーバーは、どこかしらに余剰の記憶を魂が転送する事で保持される。……その「どこかしら」も解明する必要がある。


「……足りない、時間が足りない。クソ、まだ分からない事ばかりだ! 伏在する魂の観測、記憶の管理先の解明、種族の変換方法、何もかも……!」


 焦りが功罪を生んだ。まあ、僕に罪の自覚なんてない。

 両親を、妹のエリーを、兄を殺し、国を滅した。それだけの代償を以てしてもなお、分からない。




 ……けれども、その刻は訪れた。禁忌の果てに。


「素晴らしいお力です、主様」

「おいおいフェルノ、なんだこの……ああ、今更驚きはしないがね」


 魂の吸収。論理はまだ未完成だが、大いなる進歩。

 韓信の股くぐりの末に、遂に僕は力を無尽蔵に増やす術を得たのだ。

 魂の型の種類に応じて、得られる力にも微細な差異がある。


「さあ、もっと……もっと手に入れないと! レイヌール領と地下帝国を動かして、もっと魂を集めよう。これで、僕は永遠に近づく……!」


 僕は知らなかった。この時に研究を重ね、論理を明確なものとしていれば……して、いれば。



                                      ーーーーーーーーーー



「あははははっ!」


 ただひたすらに恍惚の境地にあった。

 燃えている、死んでいる。何もかもが命を喪い、僕に魂を吸い取られる。


 もはや世界は焔の海。神、魔王、勇者、大賢者、部下、森羅万象の魂を呑み込んで僕の魂の力となった。


「不死だっ! 不滅だっ! 永遠だ……!  僕は完全な存在になったんだ!」


 ああ、熱い! きっとこの熱さは喜悦の熱だ!

 この世界の総てを、僕は呑み込んだ! もはや畏れる者なんてない!


 ああ、熱い──


「我が主、私の魂を捧げます。貴方の永遠に幸あれ……」


 ただ一人、この世界に未だ息づく生命()が在った。

 悪魔が、天使が、世界の崩壊に巻き込まれて消えていく。どうでも良い……今の僕からすれば、些事だ。

 この境地に至るまで献身してくれた悪魔の手を、そっと手に取る。触れただけで彼女の冷たい身体は焔に包まれて溶けて行く。


「ああ、ありがとう……レオ。さあ、共に永遠となろう……」


 ……その時、その時だけだった。

 ほんの少し、熱さが和らいだ。


 紅蓮が渦巻き、灰も残らずにレオハートが散る。

 ああ、愉しい。煌々と燃ゆる焔の音が、踏み躙られる文明が、散りゆく魂持つ生命が、果てなく増し続けるこの力が、永遠になったこの身が、全てが、


「全てがッ! 僕を愉しませる!」



 


「……哀れなものだな、獣。我が造物を破壊してくれるとはな」


 ──ああ、見つけた。


「あは、あはは! ごきげんよう、超越者!」


 神よりも、魔王よりも上位の存在。

 おかしかったのだ。神が世の均衡を保っていたのならば、何故滅ぼした瞬間に世界が崩壊しない? 何故世界を造ったと伝承される神ですら魂の種類の概念を知らない?


 すべては、一つの結論に帰結する。

 

 より上位種の存在、それが真理だった。

 眼前の者はニンゲンの形をしているが、至大なる力を感じる。そして何より魂の存在を感じ取れない。

 意思を持ちながらも魂を持たない……初めてのケースだ。


「超越者よ、あなたの種族名をお伺いしても?」


「我は創世主。万物を造りし者」


 目の前の者がそう告げた刹那、世界が白光に包まれた。燐光が明滅し、地獄の焔は消え去る。

 遺ったのは僕と、世界を焼いた兵器である方舟のみ。


 ああ、素晴らしい。その力、その力だ……僕が欲しい力。

 この身よりも強い『永遠』を感じる。永遠が、僕は欲しい……!


「哀れなる獣よ、我が世界を滅した罪……汝の死で償ってもらおう。汝が最も恐れている罰でな」


「ははは、死か! いいですよ、僕はもはや殺せない。なぜなら魂という概念から逸脱したのだから!」


「汝は己が何をしたのか分かっていないようだな。魂の預かるところは、追憶の者のみに許される。創世主にすらも許されぬ行為を汝は犯したのだ」


 ……追憶の者、か。知らない単語が出てきたが、まあ問題はない。

 魂を吸収すれば知識もまた吸収できる。つまり、


「あなたを殺します、創世主」


 畏怖の念など僕は抱いたことが無い。

 人の心なんて、生まれた瞬間から持っていなかったのだから。


                                      ----------


 長く、永い戦いだった。


 熱い。身の内から僕を焼き焦がす魂が熱い。

 僕は茫然自失に立ち尽くす。創世主を滅ぼし、魂を取り込んだ果てに突き付けられた現実。創世主の知啓を簒奪して得た現実。




「この熱さは、消えない」




 『追憶の者』、或いは『忘却の者』と呼ばれる存在のみが魂の保有を許され、容量限界を迎えた魂の記憶もまた『追憶の者』と呼ばれる存在が管理する。もしも僕のように権能を持たぬ者が魂を取り込めば……地獄の様な焔に焼かれることになる。


 純潔(エムティト)正義(ネセティア)真理(ナレムファ)渇望(アメメド)不敵(アゾルヤ)悪意(ゼレ)慈愛(ファーレ)神聖(ナガルア)

 九つの種類の膨大な数の魂を取り込み、災厄となった僕にはもはや後退の道は無い。ただこの身が燃え続けるような痛みを味わい続けるしかないのだ。


「…………」


 為すべきはただ一つ。


 僕は永劫の焔と魂を乗せ、方舟に乗り込んだ。

 この方舟で異世界も滅ぼし続けるのだ。

 

 理性は無い。心は無い。ただ僕が望むのは──



「永遠を、この手に」

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