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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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76. 災厄の御子

「……はじめまして、アルス・ホワイト」


 目前の少女はそう言って微笑んだ。

 窓から柔らかい光と風が差し込み、彼女の髪を柔らかく撫でていた。想像とはずっと違った人物像。

 でも、どうしてだろう。


「……どこかで、会ったことがありますか?」


 彼女の瞳を見たとき、僕はどこか既視感を覚えた。

 その青緑の瞳を見続けていると、少し揺れたのが分かる。


「いいや、会ったことはないよ。はじめまして、だよ。……座って」


 言われた通り、彼女の向かい側に座る。

 緊張のようなものはなかった。きっと、威圧しないように気を遣ってくれているのだろう。


「私はリンヴァルス帝国始祖、レイアカーツ。一応、この国では二番目に偉いことになる」


「霓天の家系、アルス・ホワイトです。日頃から贈り物など、お気遣いいただきありがとうございます」


「ああ、いいよ。どうせ使わない物だし。……それよりも、敬語で話すのはやめてほしいな。あまりよそよそしくされても困るし、敬語は嫌いなんだ」


 本当に穏やかな人だ。こちらとしても安心できるけど……敬語なし、か。

 流石に神話にも出てくる存在にそんな無礼は……と思ったのだけど。


「はは……うん、分かった」


 自然とそう切り出すことが出来た。

 さっきからどうも調子が狂う気がするな……


 ルチカがお茶を出し、部屋の外へと出て行った。


「あの子……ルチカは迷惑かけてないかい? 有能過ぎて空回りすることがたまにあるんだ」


「いや、とても助かっていま……助かってるよ。彼女のおかげで生活リズムも規則正しくなったし、何から何までやってくれて。本当に彼女には感謝してる」


「そうか、それは良かった」


 始祖……レイアカーツはまるで自分の事みたいに嬉しそうに笑った。


「でも、どうしてここまでしてくれるのかな。毎年贈り物をしてくれて、リンヴァルス祭にも招待してくれて……僕からは何もしてないのに」


「何も、か……」


 彼女は窓の外を見つめた。

 二羽の鳥が空を飛び、一方が次第にもう一方と距離を離していった。


「これからお世話になるから、前払いだよ」


「これから……」



 居住まいを正し、彼女はこちらを見つめる。

 僕もまた、向き合う。


 そして始祖の口から紡がれた言葉は、





「冥世の深淵より天を穿つ魔性、方舟に永劫の焔を乗せ大地を睥睨す。

 彼の者の名は──ランフェルノ」


 ルアの石板に刻まれた、災厄の予言。

 この文章を知る者は、創世主、創世主の共鳴者、そして、



「……【災厄の御子】を知っているかな」


「うん、災厄をこの世界に召喚する権利を持つ者。君が……そうなのかな」


 災厄の御子を殺せば、その世紀に出現が予言されている災厄は召喚されない。

 でも、災厄の御子にはなりたくてなるんじゃない。生まれた瞬間から定められている。


「そう、この私が災厄の御子。共鳴者たる君が殺すべき相手だ」


 彼女は尚も微笑んだ。少しだけ、寂しそうに。


「どこまで、僕のことを知っているんだ?」


「創世主と力を共鳴できること。君が四つ目の災厄を倒した時、対消滅すること。これだけだよ。壊世主から聞いたんだ」


 僕が精神世界でアテルと会うように、彼女もまた秩序の因果を持つ主と会えるということか。


 でも、聞かなくちゃならない……いいや、正さなくちゃならない言葉がある。


「僕が君を殺す、とは?」



「……そのままの意味だとも。私が混沌の力、すなわち君の手によって死ねば災厄は召喚されない。そして、君が消滅することもなくなる」



「……それで?」



「はは、分かるだろう? ──私を、殺してくれないかな」




「嫌だ。殺せないよ。君はなりたくて災厄の御子になったんじゃないから……この話は創世主にも伝えないし、ここで終わりだ」


 当たり前だ、当たり前過ぎて嫌になるよな、こんなの。

 たとえ世界の為でも殺せる訳がない。僕が四つの災厄を全て倒せばそれで済む話なんだから。


 彼女は目を少し見開いてから、呆れたように言った。



「……やっぱり馬鹿だね。でも、そのままの君でいてほしいよ……アルス」


「うん、僕はずっと馬鹿で良い。もっと馬鹿らしく、楽しい話をしよう。そして友達になろうよ、レイアカーツ。君とはなんだか気が合うんだ」


 僕が生まれた瞬間から共鳴者だったように。彼女だって生まれた瞬間から災厄の御子なんだ。

 混沌だとか、秩序だとか……創世主と壊世主の争いに付き合うのは疲れるよね。


「うん、今はまだ……これでいいのかな」



 最初の微笑みとは違う、花咲くような笑みを彼女は見せてくれた。



 それからした話は、他愛もない話だったり、この国についてだったり……恐らく始祖は僕に災厄の話をする為に招待したのだろう。でも、それはもう済んだ話。


「さて、そろそろ終わりにしようか。まだまだ話したい事はあるけど、君は私と違って暇じゃないだろうし……ルチカをよろしくね」


「僕も結構暇なんだけどね……因果だとかに振り回された者同士、良かったらまた会おう」


 立ち上がり、その場を後にしようとすると、彼女は最後に言いたい事があると僕を引き留めた。


「私は一週間後の夜に、第一の災厄……ランフェルノを召喚するつもりだ。君が私を殺さないというのならば、四つの災厄と向き合わなければならない。……もちろん、こちらとしても協力手段は考えているよ。この世界が滅んでほしい訳じゃないからね」


 ……一週間後。その時、僕は生まれてきた役割を果たす事になる。

 これまでは果たすべき目的を目の前にぶら下げられて、食いつけない状態でいた。その現状が、変わる。その変化は恐ろしくもあり、待ち遠しくもある。


「……分かった。心の準備をしておこう」


「災厄は君の想像以上の化け物だよ。地を浮かせ、海を割り、星を砕く。たとえ創世主の力を行使できたとしても、勝利は容易なことではない。仮に災厄を倒せたとしても、大切なものを全て喪うかもしれない。どうか心に留めておいて」



 帰り際、夕暮れの空を見上げる。

 何かが瞬き、燃え上がった気がした。 

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