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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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74. 死の混沌

「隊列を組め! 決して敵を逃がすな!」


 ルイム国の首都は混乱の渦中にあった。

 突如現れたリフォル教と謎の生命体、グットラック。両組織が争っていることは目に見えて明らかだが、それを止める警察機構がダウンしていたのだ。都市中の警察署や一部の軍人がリフォル教の生物兵器と同様に触手を生やし、他の軍人を襲いだした。

 何とか行動できる部隊が動き、街中の鎮圧に当たっている現状。


「クソ……なんだこの化け物、攻撃が効かないぞ!?」


 リフォル教徒の戦闘力は低い為対処できたが、エムティターの対処に彼らは手こずっていた。縦横無尽に駆け巡る触手に、強化された身体能力、そして驚異の再生力。水属性が弱点だという情報を知らなければ討伐は至難の技だ。

 エムティターが一方的な蹂躙を繰り広げる中、


「天地、聖魔、生死、遍く象は我が輪廻に在り。永劫を糧とし、永久を鱗とし、永遠を我が牙とす。この身は無限、汝が輪廻もまた我が裡に。咆哮せよ──『無限龍覇(ネリグ・メロアス)


 ──戦場に、『絶対』が舞い降りた。

 その場に居た者……軍人も、リフォル教も、エムティターも、はては鳥も虫も草木も、総ての生命が身体の動かし方を忘れ凍り付く。圧倒的な覇気、圧倒的な力の暴力。


 戦場を見下ろすは、一人の男。黒い髪と瞳は不吉の象徴かのように感じられる。


「ええっと……おい『神算鬼謀』、どれを殺せばいいんだったか? ん……蠍の刺繍をつけた人間と白い触手を生やした人間ね、了解」


 彼は通信をミュートし、眼下の得物に狙いを定める。

 そして思い出したかのように独り言ちた。


「……そういえばこの人間(ウジ)ども、魔導王の徒でもあったか。処分しておくに越したことはないな。──喰らい尽くせ、『無限龍(メロアス)』」


 彼がそう呟いた瞬間、


 グシャリ、と音が幾重にも重なる。リフォル教徒とエムティターの身体が引きちぎれた音だった。

 見渡す限りの赤に、白い液体が蒸発しながら融解する。


「ヒイッ……!」


 突然、掛かっていた重圧が解け、軍人達の身体は自由を取り戻す。呼吸、鼓動、思考。それらを一気に取り戻し、彼らがまず覚えたのは「恐怖」。理解不能、解析不能。

 黒い男は彼らを一瞥し、黙ってその場を去った。


「『神算鬼謀』、次はどこだ? ……ん、戻っていいのか? 了解だ」


                                      ----------

 

 月明かりと、街中に上がる火の手が辺りを明るく照らし出す。

 都市の外、「計画」区域の範囲外でその男は様子を眺めていた。

 グットラックにも警戒されていない場所で、その男……リフォル教大司教は役目を果たしていた。


「ふむ……エムティターの試運転に関しては大方データを採り終えたな。「死」も百人分は回収できたようだ」


 男は手に持った球体を眺めた。怪しく輝く灰色の光が込められた球体だ。


「そろそろ帰るか? 成果は上々だろう」


 目的。それは人をただ殺す事であった。

 彼にその目的は分からない。しかし人が死ねば死ぬほどに手元の球体に光は溜まっていく。ただ教皇から与えられた、光を集める仕事を熟すのみ。


「む……?」


 立ち去ろうかと検討し始めた頃、男は小さな違和感に気付いた。

 微かな痺れ。


 だが、それはおかしい事なのだ。とうに男は人間の身体を超越していた。痺れなどといった生理現象など感じる道理は無いのだ。


「……失礼致します。そちらの道具とデータ、頂戴してもよろしいでしょうか? リフォル教大司教、ネドリア様」


「ッ!?」


 背後に居たのは、使用人の服を纏った人間。

 一見すれば警戒に値しない身なりだが、男の本能は激しく警鐘を鳴らしていた。眼前の少女は、超越者たる男を以てしても気配を察知できない程の手練れなのだ。


「何者だ……? 何故私の名を?」


 痺れはだんだんと大きくなっていく。


「っ……この痺れは貴様の仕業か?」


「はい、毒でございます」


「馬鹿な。毒など、この世に存在する全ての毒を私は克服している! それに、いつ盛ったというのだ……虚言を吐くな!」


 未知数。

 警戒はしてるにせよ、彼は命の危険は感じていなかった。不死性は毒をも超越する。たとえ毒で死んだとしても、蘇生が可能だからだ。


「私が用いた毒は、理外魔術を用いたものでございます。肉体の後に魂まで侵食する、神をも殺す毒です。貴方の命は持って五分程度でしょうか」


 その言葉を受けて初めて、男の感情に恐怖が走る。たとえ少女の言葉が偽りであったとしても、不死という揺り籠の中で安穏と過ごしてきた彼には、死の影すらも恐ろしいものであった。


「ぐ……!」


 突然、身体に激痛が走った。発汗、吐き気、悪寒。長年味わうことの無かった苦痛が男を襲う。

 それでも彼は宝玉を手放しはしなかった。


「何が、目的だ……どこの手の者なのだ……!?」


「ご安心ください、グットラックに貴方が集めたデータと「死」は渡しません。私の目的はご主人様の障害となり得る存在を全て排除すること。我が主が求められない以上は、貴方が持つ情報を開示することはございません」


 身体の苦痛は次第に大きくなっていく。もはや指先を動かす事すら困難となっていた。

 朦朧とする意識の中で、男は己を見下ろす者の瞳を見た。


「貴様、夜魔の魔族か……! ぬかったわ、闇に溶け込み……毒を……」


 それが男の最後の言葉だった。


「……これが、「混沌」。教皇も恐ろしい事を考えたものです。全ては我が主の為に……」


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