表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
77/581

71. エムティター

 僕たちが陰に隠れ、待機していると端末の音が鳴った。突入の合図だ。


「おいおい……マスターがしくじったのか!?」


 フリンが驚愕の声を上げる。やはり、何か一筋縄ではいかぬ事態が起こったらしい。


「よし、突入だ!」


 予め用意していた侵入口から官邸に入り込む。フリンを先頭として、僕、シトリーが続く隊列で暗闇の中を探って行く。見たところ、まだ警備がこちらに気付いている様子はないが……


「え、ちょっと……アレ、何?」


 暗闇に気を配っていたシトリーが何かに気付いたようだ。彼女の瞳は信じられないものでも見たかのように見開かれている。

 その視線の先には……警備員?


 いや、ただの警備員ではなかった。正しくは、ただの『人間』ではなかった。

 背中から生えているのは白い茨のような触手。彼の眼は虚ろで、正気を失っている。まるで何かに寄生されているみたいだ。


 その時、タイミングを見計らったかのようにエルムから通信が入った。


『あー、聞こえてるな? 一部の部隊は既に遭遇したかもしれないが……現在、この都市区画はリフォル教と、奴らの兵器に支配されようとしている。兵器ってのは人間の身体から白い触手を生やした生物兵で……とりあえず、この兵器は『エムティター』と呼ぶことにする。リフォル教もそう呼んでるみたいだからな。エムティターは水属性に弱いことが明らかになっている。配った魔道具は持ってるな?」


 ……エルムはこの事態を想定して、これほどの人数と魔道具を集めていたのか? 事前に教えてくれれば良かったのに。

 腰に手を当ててみると、拳銃型の魔道具が触れた。水属性の魔弾を射出する一般的なものだ。


『優先すべきが一般人の人命なのは変わらねえ。攪乱部隊は標的をリフォル教とエムティターに変更して動け、ここまできたら隠密の必要はない。後方支援部隊にはボクが別途指示を出す。以上だ』


 そこで通信は終わった。


「……だとさ。『変態』に『白舞台』、どうする?」


「目の前に標的が居るんだから、倒すしかないっしょ」


「同意だ。エムティターとやらを殲滅しよう」


 僕達の意見は合致した。眼前のエムティターを倒し、この区画中に溢れ出したリフォル教を排除する。

 リフォル教はグットラックとは比較にならない程危険な組織だ。今回の事件を起こした目的は不明だが、奴らの好きにはさせない。それに、ここでリフォル教の要人を捉えられれば、長年掴めなかったリフォル教本拠地の場所も明らかに出来るかもしれない。


「じゃあ、斬り込むよ!」


 このメンバーで前線向きなのは僕だけ。

 警備員の姿をしたエムティターの背後から水属性を付与して斬りかかる。

 ──取った。


「……!?」


 剣先は首に届く前に阻まれた。口から伸びてきた触手が剣を抑えつけたのだ。それを目視した瞬間に僕は身体を捻り触手を捩じ切ったが、絶命させることは叶わなかった。

 反射神経等の身体能力も当然強化されている、という訳か。

 反撃が来る!


 「白歌ホワイト・オンステージ!」


 ギリギリで回避に成功する。シトリーが異能によって能力を底上げしてくれたおかげだ。


「耳、塞げェ!」


 フリンの声を聞き、すぐさま聴覚を遮断する。

 彼の異能は音の操作。恐らく轟音を発生させるつもりだろう。エムティターの身体は人間のもの。ならば聴覚にも頼っているし、音の攻撃も通用するはず。


 ──音が消える。

 彼はギターをかき鳴らし、風圧すら発生させる爆音が巻き起こる。


 そして、僕は常にエムティターの動きに気を配っていた。ヤツの動きが轟音によって揺らいだ時が隙だ。

 足元がふらつき、身体の重心が崩れた。


「そこだ!」


 魔道具の拳銃を構え、水の魔弾を射出。

 放った弾丸はエムティターの頭部に吸い込まれ、内側から爆発させた。


 聴覚を再起動。コポコポと音を立てて、エムティターは液体となって融解・蒸発していった。跡に残ったのは警備員の服だけ。


「うわー、溶け方きもっ! これが何体も出てきたってこと?」


「エムティターとやらの戦闘力は相当なものだった。グットラックの総員を以てしても厳しい戦いになるだろうね。僕達も次の敵を片付けに行こう」


「……っと。敵を片付ける前にエムティターじゃない警備員から逃げないとな。俺が出した轟音で気づかれちまったみたいだ」


 耳を澄ますと、複数の足音がこちらに向かって来ているのが聞こえた。フリンは聴音能力もかなり高いので助かる。

 そのうち一般の警備員も街中に現れた化け物……エムティターの正体に気付くことになるだろう。


『おい、突入部隊の『轟音』、『白舞台』、『変態』は外に出て付近の応援に向かってくれ。ボクが誘導する』


「了解、行くぞ!」


 エルムの指示に従い、僕達は動き出す。


                                      ----------


 街中には、リフォル教徒と彼らの生物兵器……エムティターが溢れ出していた。彼らは人々に攻撃を開始し、街中は混乱の極みにあった。


「さあ、出てくるがいいグットラック供! いよいよリフォル教の邪魔ばかりする貴様らを潰す時が来たのだッ!」


 蠍の刺繍を身につけた男が狂気的に笑う。一帯には数十人のリフォル教徒とエムティター。いくらグットラックが複数の組織で共同で動いているとはいえ、この都市中を占拠したリフォル教に敵う筈もなかった。


 しかし、数の差を覆す要素がグットラックにはあった。だからこそ、リフォル教はエムティターという秘蔵の兵器を持ち出したのだ。製造方法は不明だが、人の死体から造っているらしい。


「そらよォ!」


 高笑いするリフォル教徒の胸に、石の刃が突き刺さった。


「よくやった、『石刃』。リフォル教徒どもよ、死にたければ望みの通りあの世へ送ってやろう! 我は『波濤』のシア! いくぞ、皆の者!」


 その号令と共に、十人以上のグットラックが物陰から飛び出した。この都市全域を把握するエルムの命令により、適格な人員が割り振られていたのだ。


「『幻惑』」


 まずリフォル教徒の陣が東側から崩れた。『幻惑』・シザンサの異能により、リフォル教徒達の視界が幻想に包まれた。その間隙を突いた『断空』の範囲攻撃により、まとめてリフォル教徒は一掃される。


 グットラックがリフォル教徒と比べて大いに優れている点は、全員が異能を持つということ。予測不可能、かつ対処困難。それが異能であり、一で百をも制する可能性なのだ。


「来おったか、グットラック! 行け、エムティターどもよ!」


 リフォル教徒も負けじと応戦する。単体で上級騎士レベルの戦闘力を持つ生物兵器を投入。白き茨が周囲を駆け巡った。


「魔道具を!」


 団員の一人が仲間に呼びかける。グットラックは各々拳銃型の魔道具を構え、エムティターに向けて発射した。魔弾は触手に弾かれたものの、触手の攻撃から身を守る事に成功する。


「ば、馬鹿なっ! なぜエムティターの弱点が……!?」


「ハッ! 我らの諜報力を舐めるなよ!」


 白き触手と魔弾が飛び交い、異能と魔術が衝突する。混乱の最中で、戦闘力に劣るリフォル教徒は次第に数を減らしていった。様子を確認し、シアが指示を出す。


「『空遁』、頼む!」


「任せな!」


 『空遁』の異能により、グットラック団員の身が空気の膜に包まれる。ただの空気ではなく、軽い威力の魔術ならば防いでしまう代物だ。


「我が波濤を見よッ! 『大水流』!」


 シアの異能、『波濤』の技が炸裂する。

 周囲一帯に大波が発生し、四方から戦場を攻め出した。エムティターとリフォル教徒達は大波に包まれ、グットラックの団員達は空気の膜に包まれて水の影響を受けなかった。


 しばらくして『波濤』は停止され、波が収束する。

 エムティターは水に溶けて蒸発し、リフォル教徒達は大半が気を失っていた。


「数の不利は策で覆すもの、か……エルムに感謝しなければな。水浸しにした弁償代はリンヴァルスかディオネに請求させてもらおうか」


                                      ----------


「エリア2、6は攻略。想定通りだが……全てがうまくいっている時こそ危機に陥りやすい。向こうの目的は人体の回収とエムティターの試運転。……本当にそれだけか? ボクが考えるに、真の目的は……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ