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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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68. 仮面の者

「よおアルス、皇帝から聞いたぜ? ボクらの仕事を手伝ってくれるんだって?」


 訓練が終わった後、エルムから話しかけられる。男性にも女性にも見えるコイツは、ニヤニヤしながら黒髪の毛先を弄っている。

 以前、性別を聞いてみたことがあるが、『どっちが良い?』と聞かれて流された。


「気は進まなかったけどね。今回の件はディオネもリンヴァルスに協力してるらしいから受ける事にはしたけど……僕の素性がバレないように手を尽くしてくれよ」


「ああ、『神算鬼謀』を甘く見るなよ。ボクの隠蔽があればまず問題ない」


 『神算鬼謀』エルム。それが『紅蓮剣士』エルゼアの裏の顔である。

 エルムは戦闘の才がある訳ではない。人知を超えた見通す力と、策略。これが彼、或いは彼女を支部長にまで押し上げた所以である。


「今回の作戦はディオネの支部と共同で行うことになる。今回の計画がボクらの組織の仕業だってのは隠せないだろうな。だからこそ、複数の国家に跨った組織運用をする必要がある。ルイム国の新首相に関しては、他国の支配者層も良く思ってないから非難はそこまで上がらんだろう」


 エルムが微妙に言葉を濁しているのは、遠くに他のパフォーマーの同僚が居るからだろう。組織というのがグットラックで、計画というのが暗殺のことだ。

 まあ、国家間の情勢がどうとかは興味ない。暗殺に加担する僕の正体がバレずに、家族や友人に迷惑がかからなければそれで良い。


「決行日までに若干時間があるみたいだから、僕はディオネに戻るよ。色々と準備が必要だし」


「了解。んじゃ、次に会う時の詳細は……向こうのマスターから聞いてくれ」




 翌日、ディオネに帰って来た。リンヴァルスに比べて少し気温が低いが、初夏なのでむしろ快適だ。

 家にマリーは居ない。観戦の後、リンヴァルスの観光をするそうだ。


 僕が家に帰って来て真っ先に向かった場所は地下倉庫。ホワイト家が抱える財宝が埃を被っているだけの場所だったのだが……最近は使う機会が増えた。なぜなら毎年のようにリンヴァルスから物品の類が贈られてくるので、それらを保管するスペースに使っているからだ。


 保管された物を見て回り、目当ての装備を探す。


「……あった」


 たしか一昨年の誕生日にリンヴァルスから贈られてきた仮面だ。銀色の無地で、目立った装飾は欠片も見えない。

 しかし地味な見た目とは裏腹に、効果はとんでもない。この仮面さえ着けていれば自動的に認識阻害がかかり、正体を隠すことができる。視覚情報においては、仮面を着脱する瞬間を見た者を除いて、僕がアルス・ホワイトであるとは分からないのだ。

 高度な理外魔術である認識阻害を、魔力消費なしで常に発動できるというのは凄い。利便性においては世界でも有数の宝物だろう。認識阻害なんて、最後に見たのは……たしか五年前にリンヴァルスに訪れた時だったかな。いや、レーシャのローブか。


 試しに仮面を被ってみる。視界は狭まるが、奇妙な安心感がある。すぐに慣れるだろう。

 僕が仮面の精巧さに感動して興奮していた、その時。


「おっ……!?」


 背後から暗器が投擲されてきた。風切り音と僅かな殺気を感じ取り、間一髪のところで回避できたが……気配の消し方といい、相当な実力者。まさか強盗が入り込んだか?


「何者ですか」


 あ、ルチカだった。


「僕だよ。怪しい者じゃない」


「……どう見ても強盗にしか見えませんが」


 どうやらまだ僕の正体に気づいてないみたいだ。この仮面の凄さがよく分かるな!

 仮面を外し、素顔を見せる。ちょっと暗いが、彼女は魔族なので視える筈だ。


「これは……! 失礼致しました、ご主人様。無礼をお許し下さい」


「この仮面、認識阻害かかってるんだ。ルチカも欺くなんて凄い性能だね」


「その仮面は……裏側に始祖様の術式が入っている筈です」


 裏側を見てみると、最初は気付かなかったが小さい術式が刻まれている。たしかに、見たことのない術式なので理外魔術だろう。どうやって永続性を保ってるんだ……?


「始祖様謹製なら効果も高いわけだ。それにしても、よく知ってるね」


「製作しているところを見せてもらいましたので」


 ……ん?


「え、ルチカって始祖様に会ったことあるの?」


「はい、こちらへ仕える以前は始祖様に仕えていました」


 皇帝でも始祖に会ったことがないのに……なんだか陛下がかわいそうになってきた。

 ルチカは一体リンヴァルスではどのような立場だったのだろう。ただの使用人が始祖様に仕えられる訳ないし。


「ああ、そうだ。ルチカに協力してほしいことがあるんだけど……」


                                      ーーーーーーーーーー


「へいマスター、いつもの」


「……あんた、いつも頼むもの決まってないだろう」


 次に僕が訪れたのは、王都の路地裏にあるバー。

 地下にはグットラックのディオネ支部が置かれている。


「おう、アルスじゃねエか。いつものってのはアレだろ、お子様ランチだろ」


 カウンターでは顔の左半分を機械仕掛けの装置で覆った男が、酔って伏していた。

 『石刃』のクロック。今日僕が用があるのは彼じゃない。酔っ払いは置いといて……


「マスター、今度友人の『紅蓮剣士』と一緒にルイム国へ観光に行くんだが。おすすめの観光スポットとかないかな?」


「ふむ……ちょうどいい、ルイム国のパンフレットがある」


 そう言ってマスターは一枚の紙を懐から取り出した。

 どう見てもパンフレットじゃないです……。そっとその紙をポケットにしまった。


「おォい、アルス! ルイムには行かない方がいいぜェ? なんたって……」


 クロックがまずい内容を話しだそうとした途端、マスターが目にも止まらぬ速さで手刀を繰り出し、彼を気絶させた。さすがディオネ支部長だ……


「……詳細は、その紙に。何か疑問があれば直接聞いてくれ」


「了解、ありがとうマスター」


 さて、準備は整った。あとは上手くいく事を祈ろう。

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