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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
4章 蒼と永劫
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66. バトルパフォーマンス

 この地に訪れるのは実に九年振りだ。

 俺がまだ平の騎士だった頃、ヘクサムと任務で訪れた。


「おお……リンヴァルスって思ったより活気があるんだな、ヤコウさん!」


「ああ……」


「お父様が仰っていましたが、リンヴァルスは工学技術の最先端……我がキーフロ社の基幹産業を支えているのもリンヴァルスの製品ですわ!」


「二人とも、あまり騒がないでください! 通行人の迷惑です」


 ……なんで俺が引率の先生みたいになってんだ。

 ヘクサムの娘のマリーと、その小隊員のケードに、ネーラ。いつも騒がしいケードは今日も相変わらずはしゃいでいるし、大企業の社長の娘であるネーラも今日は普段よりもテンションが高い。マリーは二人の面倒を見るのに苦労してるみたいだが、俺に迷惑がかかんなきゃどうでも良い。


「桜だ、桜! はじめて見たぜ」


 一年後にはこいつらも正規の騎士になるってのに、落ち着きがない。まあ、俺も若い頃はこんなもんだったが。

 今日は長期休暇を潰してリンヴァルスに来ている。なんでもアルスがバトルパフォーマーをしてるとかで、観戦チケットをマリー経由で貰った。正直、任務じゃなきゃ外国なんて御免だが……俺も聖騎士の端くれだ。戦闘を観るのは嫌いじゃあないし、あの戦闘狂みたいな子供がどこまで成長を遂げたのかには興味がある。



 スタジアムの前は、人でごった返していた。

 ポスターには他国の俺でも知っている有名なパフォーマーが載っていた。かつては騎士として勇名を馳せていた者も、俺の知らない間にパフォーマーに転職していた。

 紅蓮剣士、刹那の竜闘士、驚天動地……錚々たる称号を持つ者たちの中に……居た。


「『天覆四象』アルス・ホワイト……なんだこりゃ?」


「私も聞いたことがありませんが……」


 そんな大層な二つ名がつくほど人気なのか? いや、実力は間違いなくあるんだが、称号が付けられるにはある程度のキャリアが必要だ。アルスがバトルパフォーマーになってから三年半らしいが、そんな短期間で観客層に認められることは珍しい。

 まあ、アイツならあり得る話か。バトルパフォーマンスってのは新興の事業で、何が人気に拍車をかけるか分からない。とにかく、天覆四象サマの戦いを拝見させてもらうとしよう。


                                      ーーーーーーーーーー


『皆さん、お待たせしました! ただいまより、第二回戦を開始します!』


 実況の声に観客席が沸く。余白なく埋め尽くされた観客席は、第一回戦の余熱を残したまま二回戦に突入しようとしていた。

 一回戦は、『刹那の竜闘士』 vs 『驚天動地』。

 竜属性の適正を持つ少女と精霊術師の対戦だ。両者とも相当な使い手で、見応えはかなりのものだった。特に『驚天動地』はリシュ親神国の神殿守護者だった実績もあり、かつて俺も戦い方を参考にしたことがあった。まさかバトルパフォーマーになってるなんてな……


『東側、手にした刃は全てを焼き切り、塵芥に変える! 『紅蓮剣士』、エルゼア!」


「あ、俺あの人知ってる! 結構いろんな配信に出てるよな」


 ケードが声を上げる。

 入場してきたのは、黒髪を長く伸ばした剣士。美少年とも美少女ともいえる美貌を持ち、性別は非公開。男性にも女性にも人気があり、客席からは黄色い声が上がる。パフォーマーは人気商売みたいなところがあり、見目も重要な要素だ。アルスの人気が出たのもまあ、見た目は悪くないし肯ける。


『西側、あらゆる属性を支配し、華麗に戦場を舞う! 『天覆四象』、アルス!」


 またしても客席が沸く。

 ディオネでのアルスの評価を考えると、目を疑うような光景だ。

 しかし、しばらく見ない間に大分雰囲気が変わったもんだ。俺の中でのアイツのイメージは、戦闘狂のガキって感じなんだが。


「やあエルゼア、久しぶりだね。また剣を叩き斬られに来たのかな?」


 アルスは剣を引き抜き、周囲に四属性の魔術を展開させる。


「ははは、ボクの炎を以前のような弱火だと思わないことだ。お前を焼くには十分過ぎる強火を見せてやろう」


 エルゼアも負けじと視界が歪むような業火を生み出した。

 まあ、これはバトルパフォーマー特有のイキりみたいなもんだ。観客を分かりやすい形で興奮させる演出で、戦いには必要ない魔力消費。それが大切な仕事なんだとさ。


『圧倒的な業火で神能を焼き切るか! それとも、鮮やかな神能で業火を翻弄するか!

 それでは、試合開始っ!』


 試合開始の音が鳴ると同時、駆けたのはエルゼア。


「はっ!」


 爆炎を刃に燈し、凄まじい速度で一閃する。

 対するアルスは風をその身に宿して速度を上げ、一閃を回避。水属性で相殺しなかったのは、単純に押し負けるからだろう。炎のみを鍛え続けてきた一撃と、オールマイティに各属性を鍛え続けてきた一撃では、専門性の高い一撃が勝る。

 神能『四葉(よつのは)』の欠点は、使用者が魔力操作に秀でていない場合、器用貧乏に陥ることだ。アルスがその典型的なパターンで、マリーは適正がある。ちなみにヘクサムは適正があったはずだ。


「ボクの炎に恐れをなしたか?」


「いいや、準備してただけさ」


 アルスが剣に宿したのは、虹色の光。

 ……いや、待て。そんな馬鹿な話があるわけがない。


「開幕必殺技だ、受けてみろ、エルゼア!」


「っ……! 魔力量がヤベえ……!」


 紅蓮剣士は危険を察知し、すぐさま炎の壁を展開。

 だが、無駄だ。なんせあの技は防げない(、、、、、)


四葉秘剣スフィル・クレイヴン!」


 ホワイト家に伝わる奥義、『四葉秘剣(スフィル・クレイヴン)』。

 ヘクサムは息子が修行から帰ってきたらあの技を教えると言っていたが、結局その機会は訪れなかったはずだ。四属性を宿した上で調和させ、あらゆる防御を貫く奥義。習得には血の滲むような鍛錬と、年月が必要だ。


「え、うそ……」


 マリーも言葉を失っている。そりゃそうだ、失われたと思ってた秘奥がこんなとこでひょっこり出てくるんだからな。

 ……まさか、独学で習得したってのか?

 ヘクサムの戦闘映像は一応残ってるが。


 凄まじい威力を誇る奥義に、炎の壁は紙のように容易く破られた。

 轟音と共に、煙が舞う。


「……へえ、耐えられたか」


 アルスがそう呟いた直後、煙が吹き飛ばされた。


『おおっと! アルス選手の必殺技が決まったかと思いましたが! エルゼア選手、耐えたっ!』


 あっさり勝負が決しては面白くない。エルゼアの健在に観客は沸く。


「耐えた……じゃないぜ。無傷だ、訂正しとけよ」


 ウインクしながらエルゼアは胸を張った。

 まあ、あの技を食らったら一撃だからな。セーフティ装置があるから死にはしないが。


「どうやって耐えたのか……知りたそうな顔してるな、アルス?」


「敵に教えてもいいのか?」


「ああ、ボクが勝つからな。簡単な話だ、いくら四属性を調和させたからって、属性間の縫い目はある。炎属性ならボクの方が強いからな。炎の縫い目を探してそこから他の属性を焼き切ってやった!」


 ……は?

 いやいや、そんなあり得ない話が……


「うん、そうみたいだね。この技はもう通用しないか……もしかして、前回負けたのが悔しくて分析でもしたのか?」


「ああ、目に穴が開くほどな? お前の好きな食べ物も調べといたぜ?」


「はは、それはどうも。今度お茶でも行こうか」


 どうやらアルスの態度を見る限り、マジでやったらしい。

 紅蓮剣士エルゼア……レベルが高すぎる。これに勝ったアルスも相当なバケモンだな。

 そんな俺の驚愕を他所にして、周囲の観客は「エルアルてえてえ」とか言ってやがる。このくらいの戦闘はバトルパフォーマーにとっちゃ日常茶飯事ってか?


 紅蓮の剣に業火が宿された。

 炎が鞭のように撓り、アルスに襲い掛かる。


「飛雪の構え、『無尽』」


『出ました、破滅の型! 『無尽』はなかなか珍しいですね!』


 アルスが取った構えは見たことがないものだった。剣を鞘に納めた後、柄を逆手に持つ。そして前傾姿勢を取り、薄い魔力を脚だけに宿した。

 一見すれば無駄の塊のような動作だが……抜刀と同時、周囲の炎がアルスを避けるように受け流される。


 脚に通した魔力を抜刀動作により射出、そして周囲に無数の斬撃波を展開。僅かな魔力は脚に残し速度の上昇を維持しながらも、襲い掛かる全ての攻撃を斬り落としている。

 かなり合理的かつ実践的な動きだが……どこの型だ?


 攻撃を放った直後にエルゼアはアルスの側面、続いて背後へと移動。警戒して距離を取っているのか、或いは別の狙いがあるのか。

 炎の鞭を全て打ち払ったアルスは反撃に転じる。


「彗星の撃、『月光』!」


 風刃を宿した剣が三日月状に戦場を駆ける。

 単純に速く、重い一撃。それも突き詰めれば屠龍の一撃となる。今のアルスの技はその域にあった。


「ハッ! 読めてるぜ!」


 エルゼアは攻撃を後方へ……いや、前方へ回避しただと?

 わざわざ敵の間合いに突っ込んでいく意味がある筈だが……


 これは、上から俯瞰していた俺、そして戦い経験を積んだ俺にしか分からなかったことだ。

 エルゼアはこれまで計算して動き回っていた。よくよく目を凝らすと、エルゼアが居た地点には魔力が渦巻いている。かなり高度の隠蔽技術であり、戦闘慣れした者が集中しないと気が付けない。

 魔力の渦は、まるで二人を取り囲むかのように設置されていた。


 アルスが追撃を放とうとした、刹那。

 エルゼアの姿が、消えた。


「……!?」


 ……虚像か?

 さっきから思ってたが、紅蓮剣士……剣士の割には、人を欺く手段に長けてるな。

 実像が現れたのは、魔力の渦で囲まれた場所の範囲外。アルスとはかなり距離が離れている。


「アルス、お前の為に編み出したとっておきだ。強火でな……『紅蓮牢獄』!」


 設置された魔力の渦が起動し、炎へと転化する。高密度、高火力のそれは、今までとは明らかに質の異なる爆炎だ。

 視界が眩むほどの爆発。しかし、衝撃と煙は外に漏れず、炎が燃え広がることはなかった。


『こっ……これは!? エルゼア選手、見たこともない技を発動しました! これは……炎の壁、でしょうか? 炎が閉じ込められているので結界のようにも見えますが……煙で中の様子は確認できません!』


「簡単に言えば、この技は炎の牢獄に相手を閉じ込める技だぜ。事前に魔力を設置しておいて発動するから手間はかなりかかるが……決まれば必殺だ。」


 観戦者に説明しながら、エルゼアは納刀する。


「ちなみに、この牢獄……どれだけの物理攻撃でも、魔術でも破壊できない。水属性を極めたヤツなら突破できるが……アルスじゃ無理だ。セーフティ装置が働くまで焼かれることになって、ボクはもう待つだけだぜ」


 ……厄介な技だ。初見じゃまず避けようが無い上に、突破手段も高度の水魔術のみ。おまけに、どんなに熟達した戦士でも、魔力設置に気づくのは困難ときた。俺は絶対に相手したくないね。


 セーフティ装置の発動と共に鳴る試合終了の音はまだだ。依然として炎の牢獄は渦巻き、中の様子は確認できない。

 観客達も静まり返り、轟轟と炎が燃え盛る音だけが聞こえていた。


「おい、アルスー? ボクの言葉、聞いてただろ? 無駄に足掻かずにリタイアしてくれ。流石に焼かれ続けるのは痛いだろ……おい、痛くない? 大丈夫か?」


 返事は無い。

 しかし、返事の代わりに。


「は?」


 気づけば、アルスが炎の牢獄を斬り裂き、エルゼアの前に迫っていた。


「『青霧瓦解』。たしかに、熱かったよ。レジストに苦労した」


「なんで、お前……!?」


 完全に油断していたエルゼアは抜刀する隙もなく、アルスの剣閃を受けた。

 セーフティ装置の起動と共に、試合終了の音が鳴った。


『き、決まりましたっ! 何が起こったかはよく分かりませんが、アルス選手の勝利です!』


 実況が戦闘結果を叫ぶと共に、静まり返っていた観客席が熱狂する。


「ヘクサムさん、今何が起こったんですか?」


 マリーが俺に尋ねてくる。


「……いや、まったく分からん」


 俺に聞くな。

 聖騎士にだって分からないことはある。というか、俺の場合は分からないことの方が多い。


 試合後、倒されたエルゼアがアルスの手を取って立ち上がり、不機嫌そうな顔で尋ねる。


「どうやって紅蓮牢獄を突破した?」


「『青霧瓦解』、時間を斬る技だ。物理でも魔術でも破壊できないなら、対象との間にある時間を斬れば良い。セーフティ装置も無効化しちゃうから、今まで見せる機会が無かったけどね。炎の壁を裂くなら使える」


「……は? なんだそのチート……ボクが必死で編み出した技を軽々と突破しやがって」


 ……まったくもって同意だ。理解できねえ。


「いや、ノーリスクで使える訳じゃない。上手く対象に攻撃を命中させないと、自分に同威力の反動が帰って来る。諸刃の剣ってやつだな」


「まあ、今回はボクの負けか。次は勝つからな」


「いいや、次回も僕が勝つよ」


 こうして試合は幕を閉じた。



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