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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
3章 壊れたココロ
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64. 兄妹の言葉

 暫しの沈黙が流れた。

 青の瞳は静かにレーシャの白きローブを捉え、瞳中には何かしらの感情が渦巻いていた。


「……それで、聞きたいことって?」


 レーシャの言葉が沈黙を破る。


「私は月世界(アスガンド)の悪魔です。しかし、それ以前は……聖戦世界(ランガード)の悪魔として働いていた」


「……意味の分からない言葉を羅列されてもね、何を言ってるのかさっぱり分からないよ」


「いいえ、貴方ならば私が何を言っているのか分かる筈だ」


 悪魔に背を向け、メイユーアを見据えていた彼女が振り返る。

 そこに浮かべた表情は、悪魔に対する嫌悪でもなく、悪魔の語った言葉に対する疑念でもなく。

 憐憫。それは、彼女自身に対するものだった。


「なぜ、そのような表情を? 祖界を滅ぼされた私に対する同情か?」


「いいや、止めてほしいんだ。私にそんな話をしないでよ。他の世界がどうとか、今の私には関係ない。せっかくこうして人でいれてるのに……」


「……ふむ。お互い、内容が解せない話ばかりだが……何か失礼なことを口にしてしまったかな。謝罪しよう。私は貴方から超越者の気配を感じ取り、この話を持ち掛けたのだが」


 俯いたレーシャだったが悪魔の言葉に応え始める。


「分かったよ、せっかくだしできる限り答えよう。聖戦世界(ランガード)のことは知っているよ。創世主とそこまでの交流は無かったけど……あの世界が滅びた経緯は知っている」


 悪魔は刮目し、それから珍しくも柔らかな笑みを浮かべる。


「では、話が早い。──ランフェルノの居場所を知っているか?」


「……災厄、ランフェルノか。ごめんね、何処に居るかは分からない。もう滅んでるかもしれないし、まだ放浪してるかもね」


 どこかばつの悪そうに、その言葉は紡がれた。

 再び沈黙が流れる。


「そうか、いや……仕方のない話だ。彼の災厄の討伐……これは悪魔一柱でどうにかなる問題ではないので、超越者の協力が欲しかったのです。ところで、貴方はこの世界(アテルトキア)の創世主を知っているか? 知っているならば、取り次いでいただきたいのだが」


 次に沈黙を破ったのは、悪魔。


「あはは、知らないよ! あんなの、知らない。ランフェルノのことが知りたいなら、他の世界を当たるといい。この世界の創世主は頼っちゃダメだよ、絶対に」


 不自然な空笑いに次いで、されど自然に込められた昏い感情で彼女はそう告げた。


「……警告、痛み入る。どうやらこの世界の創世主は厳しい方のようだ。今は使役者と契約中故、悪魔としての役目を果たすとしよう。なかなか暮らしていて快適な世界ですよ、ここは」


「……そう」


 誰にも解されぬ二人の会話は、ここで留められた。


                                     ーーーーーーーーーー


 メイユーアから空中に放り出された直後、気流の塊が僕らを叩く。

 爆発し、崩れ往くメイユーアは邪気となって夜空に霧散する。


「タナン!」


 すぐに感じ取った気配があった。僕達に向かって飛んで来ているのは、緑色の龍。飛行ならば風魔術でも行えるが、彼の背に乗った方が安全に着地できるだろう。


「竜……!?」


 彼の姿を見たマリーは驚き、空中ながらも警戒姿勢を取る。前々から思っていたが、あらゆる状況でも冷静に対処できるのが彼女の長所と言えるだろう。

 でも、今は警戒する必要はない。


「マリー、彼は味方だよ。さっき僕といた男の人が変身した姿だ」


「なるほど、魔族の方ですか。頼もしいですね」


 タナンは僕達の下に回り込み、背に乗せてくれた。竜の強靭でごつごつした鱗を撫でる。


「よお、ルス兄と、ルス兄の妹! 俺がコアを破壊できなかったのは悔しいけどよ……ナイスだぜ!」


「ありがとう。さて、レーシャの元へ向かおうか」


 タナンはぐるりと旋回し、落ちてくる破片を回避しながら飛翔していく。なんだか、こうしているとゼニアの背に乗せてもらった時の事を思い出すな。

 マリーはこんな体験は初めてみたいで、どこかワクワクしているように見える。


 ……そうだ、後で彼女に言わなきゃいけない事がある。

 僕は今まで彼女に積極的に関わろうとしてこなかった。彼女も僕の事が好きじゃないから距離を取っていると思って、勝手に納得してたんだけど……そんな事は無かった。


 しかし、そうなるとアレだな。今後どのようにマリーと接していけば良いのだろうか。

 流石に子供の頃みたいに接したら気持ち悪いだろうし、過保護だ。かといって最近のように全く話しかけないのもかわいそうだ。

 いや、でも暮らしている場所も今は違うし、週に一度の連絡くらいは……いやいや、直接会いにいった方が……いやいやいや、たまには訓練に付き合うくらいが丁度いいか……


「……ちゃん? お兄ちゃん!」


「うの!? ……あ、ああマリー、どうしたの?」


「……落ちるよ?」


 思考を巡らせている内に、僕はタナンの背の縁まで移動していた。


「ああ、ごめん。考え事してて」


「考え事?」 


 ……言うべきだろうか。

 いや、はっきりと伝えよう。


「今後、マリーとどう接するかについて考えてた」


「……うん」


「まず、謝らないといけない。その、なんだろう……君は僕のことが嫌いで距離を取っていたのかな……なんて勝手に思い込んでたけど。でも、それは違うって分かったから……今まであまり言葉を交わそうとしなかったことに、謝罪しよう。僕としては、君にもっと頼られたい。兄として、導となれるように」


「嫌いだった……って言うのもあながち間違いじゃないかも」


「え゛」


 やっぱり嫌われてたのか!?

 クソ、駄目だ。明日から生きていける気がしない……。


「でも、それもどうでもよくて。私もお兄ちゃんを避けて、とても遠いものに感じてて、心の底では、怖かったの。……もう、いいから。そんなくだらない想いは捨てて、また小さいころみたいに仲良くなろう!」


 ──ああ、それは良い。すごく。


「うん、そうだね。何も悩むことなんてなかったかな」


 僕の言葉に、マリーは笑った。


「シャスタさんが教えてくれたの」


「シャスタって……精霊のこと?」


 さっきマリーは精霊術を使っていた。契約が成立したのだろう。


「うん、私と契約した……明鏡止水の精霊。私が一年生のとき、お兄ちゃんが校外学習についてきた……じゃなくて、偶然居合わせた時があったでしょ?」


「ああ、あの時の精霊か」


 たしかアリトーサ丘陵への校外学習だ。あの時はマリーの知り合いが同じグループに居なくて、心配でついて行ったのだったな。家の周りに子供が居なくて、マリーに友達ができるかどうか苦心したものだ。

 その時に湖に居た精霊から贈与(リンヴ)された何かがあった筈だ。もしかしたら、精霊はあの時からずっと見守ってきてくれたのかもしれない。


 ……そういえば、ブルーカリエンテはどうしたんだ?

 なぜか未召喚の状態に戻っている。

 たしかマリーを守っているように命令した筈だけど、サボりか? いや、悪魔に限ってそんな怠慢はあり得ない。恐らく、精霊がマリーを守護していることを見破っていたのだろう。


「お、レシャ姉が見えてきたぞ」


 大穴の縁でレーシャがこちらを見上げていた。

 タナンが近くに降り、僕も背中から大地に降り立つ。やっぱり彼女の傍の来ると安心する。


「みんな、おつかれさま」


「レーシャもありがとう。君が居なかったらどうなっていたことか……」


 彼女はにこやかに微笑み、僕の瞳を覗き込んだ。宝石のような翡翠の瞳が、夜空の元で輝いていた。


「うんうん、もっと感謝しても良いよ? まあ、みんなのおかげってことで」


「おう! いい修行になったな!」


 人間体に戻ったタナンも豪放に笑う。


「さて、帰ろうか。マリーも疲れただろう」


「うん、帰り道はこっちだね……レーシャが平坦にした土地……」


 相変わらずいつみても違和感が凄い。起伏の激しい峡谷の中で、一部だけ真っ平になっている。


「……そういえばマリー、一緒に来てた騎士の子達は?」


「……あっ」


 もしかして、忘れいてたのだろうか。

 彼女は魔眼携帯を起動し、たちまち表情を青褪めさせた。


「めっちゃ連絡が来てます……」


「ははは、まあどうにかなるさ」


「なんでお兄ちゃんはいつもそんなに楽観的なんですか!」


 僕らの様子を、他の二人はにこやかに見つめていた。

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