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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
3章 壊れたココロ
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59. シィーメ・ダンス

「盛り上がってるとこ悪いけど……アルス君にタナン君。恐らく、壊霊の神能『新生屋敷』は自身の範囲内の物質を破壊・分解して再構築する能力だ。二人は神族だから、破壊されても自己蘇生できるから問題ないね。死体が再び意思を持って動き出すプロセスは、混沌から秩序の因果への再編の副作用だ。……ああ、二頭の竜は私が遊んでおくよ。君たちは壊霊をお願い」


 レーシャが事も無げに衝撃の事実を言ってのける。

 ベローズの神能……ん? 神能?

 ……まあいいか、彼の能力『新生屋敷』は破壊して、再構築か。これまでの挙動を見ればそれは何となく勘づいてはいたが、重要なのは『自身の範囲内』ということ。たしかに、壊霊が魔物を破壊・再構築する際は全て彼の近くで行われていた。


「チッ……アタシの能力をバラしやがって……! クソどもが、壊れなさい!」


 ベローズ、マジ切れ。そりゃ一瞬で自分の能力が看破されたら誰だって不快だ。

 怒気と共に、彼から邪気が発せられる。


「アァ……!? ルス兄、なんかヤベえのが来る!」


「レーシャの言う通り、物理的な攻撃を受けて死んでもいい。ただ、精神が邪気に汚染されないように抵抗は忘れるな」


「おう!」


 邪気が爆発し、僕の肉体に圧力がかかる。……これは抑えきれないな。

 ぐしゃり、という気味の悪い音が響いた時には、僕はもう死んでいた。同時に、ばらばらになった肉体は神気となって霧散し、肉体を自己蘇生する。

 これが不死性。神族や魔族の特徴であり、上位存在たらしめる力である。もちろん再生の隙は生じるが、魔物との戦闘においては比類なき強さを誇る能力だ。唯一の欠点といえば、僕は人前ではこの不死能力も、神転も見せられないということか。


 タナンも同様に、破壊された直後に蘇生して堂々と立っていた。

 レーシャに至っては効いてない。


「ああ、もう! なんでワタシの子になってくれないのかしら! ……まあ、いいわ。アナタ達が不死なら、魂ごと砕けばいいもの」


 そう、神族や魔族にも死は存在する。

 魂の消滅。それが僕らの死だ。


「はああああああァァッ! 『暗黒拳』!」


 壊霊は拳に邪気を纏わせる。

 混沌の勢力である神族は邪気……もとい秩序の力に弱く、秩序の勢力である魔元帥は神気……もとい混沌の因果に弱い。相対する因果に魂が侵食されることによって、不死は死に至る。

 先程のベローズの破壊能力は秩序の力こそ伴っていたが、最終的に誘発したのは物理的な圧縮のみ。だが、あの拳は違うようだ。

 難しい話だが、要するにまともに喰らえば僕でも死ぬ。


「……タナン、警戒して」


「わかってるぜ」


「さあ、ワタシの子供達! 彼らを噛み殺すのよっ!」


 ベローズの号令により、二体の魔物も動き出す。

 しかし、その足を止める者が一人。


「ああ、君達は私と遊ぼうか」


 純白の髪を揺らし、レーシャが彼らの気を惹いた。敢えて混沌の気を撒き、魔物である二頭の注意を引き付けているみたいだ。

 レーシャならば問題ないな。これで僕とタナンは壊霊に集中出来る。


「タナン、いくよ! 合わせて!」


「しゃあ、任せろ!」


 誰かと共闘する事にはバトルパフォーマーの仕事で慣れている。

 まずは僕が先陣を切る。氷の魔剣リゲイルを振るい、壊霊に肉薄する。


「邪魔よ!」


 壊霊の拳と、僕の剣が衝突する。逸らされたのは、剣。

 魔剣リゲイルは超硬度。たとえ凄まじい威力を持つ壊霊の拳と衝突しても、刃が折れる事はない。

 邪気の波が剣閃を逸らす。だが、想定内だ。


「タナン!」


「っらああァ!」


 僕の攻撃で気を逸らした隙に、タナンが吶喊する。彼の人間体での戦闘スタイルは拳での格闘……壊霊と同じだ。威力は小さいが、小回りが効く。敵の気を惹くように味方がサポートすれば、拳闘士は急所を狙いやすくなる。

 壊霊もタナンは警戒していた筈だが、僕の妨害によって躱し切ることができず、鳩尾に拳を叩き込まれる。そして、吹き飛んだ壊霊を見逃すタナンではない。


「もう一発ぶち込んでやらあ!」


 拳を振り抜いたまま、追撃に駆け出す。彼の行動は予測しやすく、合わせやすい。僕も彼に続いて駆け出すが……壊霊から身を隠すように、気配を消して駆ける。

 壊霊は常人とかけ離れた能力を有している。故に追撃するタナンがその破壊能力を食らうことも、壊霊がその能力の使用後に隙を生じさせることも予測できる。


 ──ここだ。足を止める。


「鬱陶しいわよ……『新生屋敷』!」


「チッ、クソ──」


 壊霊も破壊が時間稼ぎにしかならない事は織り込み済みだろう。それでも、この状況では有効な防御手段である。

 タナンの器が破壊され、神気となって霧散する。

 間髪入れずに、僕は駆け出した。『新生屋敷』の領域を見極め、その領域外ギリギリで足を止めていた。

 今、壊霊は僕の気配を認知出来ていない。


「彗星の撃──『月光』」


「なっ……!」


 壊霊が気付いた時には、刃は彼の喉元。

 魔剣の氷の刃が、三日月の軌道で吸い込まれる。


「くっ……」


 刃は空で止められた。壊霊の喉ではなく、指を貫いていたのだ。

 邪気を纏った指先が霜で凍りつき始める。


「はあっ!」


 壊霊は左の手で剣を止めつつ、右の拳を振り抜く。

 ————剣を持っていては躱せない。


 咄嗟に剣を離し、飛び退く。

 氷属性がかえって仇となった。魔剣リゲイルは凍り付いて彼の左手に刺さったままだ。


「クソが、邪魔よ!」


 壊霊は力任せに剣を引き抜く。彼方へとリゲイルは飛ばされてしまった。代替として土魔術で剣を生成。高火力は期待できない。魔力をここからは多めに消費しそうだ。

 しかし、依然として彼の左拳は凍り付いたまま。邪気の出力も弱くなっており、あれならば大したダメージは受けない。決着はつかなかったが……左手は無効化できたと考えていい。


「俺も忘れんなよ!」


 態勢を立て直したタナンが突っ込んでくる。僕が退いたと同時の追撃。

 彼も考え無しに動いている訳ではないみたいだ。むしろ、衝動的に見えてかなり戦略的。


「ちょこまかと、うざったい子供達ね!」


 壊霊の右拳とタナンの左拳がぶつかる。

 これはタナンが押し負ける。彼が神転していれば壊霊との力は互角だが、今のタナンは拳に神気を纏わせるだけに留めている。彼が神転しないのは、壊霊のような拳闘士には龍のように巨大な体躯が不利だからだろう。ブルーカリエンテとの戦闘時とは違い、僕のサポートがあるというのも理由か。


 だが、自身が押し負けると理解出来ない彼ではない。

 すかさず拳をずらし、中空で一回転。そのまま蹴りを繰り出す。

 そして、僕も走り出す。この攻撃が決まれば(、、、、)壊霊の息の根は止まる。……決まれば、だが。


水霧(メリアスター)四葉秘剣(スフィル・クレイヴン)……」


「『新生屋敷』!』


 やはり、ここで決めようとするのは甘かったか。僕達の接近戦を察知した壊霊の範囲破壊が炸裂する。

 タナンの肉体が爆ぜる。そして僕の肉体は、


「ッ……! 嘘でしょ……!」


 霧となって散った。

 ……そう、攻撃が決まれば。範囲攻撃を持つ者ならば、複数の相手から接近された時、咄嗟にそれを放とうとする。故に『新生屋敷』の発動を想定し、予め『水霧(メリアスター)』で虚像を作り出した。


 虚像の攻撃が決まればそれで良し、決まらなければ別の手段に移行する。バトルパフォーマーとして、このような状況には腐るほど遭遇してきた。壊霊は能力こそ強力だが、技量に関して言えば、バトルパフォーマーの方が圧倒的に上だ。


「彗星の撃──」


 この状況を想定して、本体の僕は壊霊の頭上に、風の補助を受けて移動していた。気配遮断が通用するかが不安要素だったが、成功した。


「『覇王閃』!」


 放つは、破滅の型の奥義。

 暴力的なまでの魔力の塊を刃とし、相手を貫く。長所は莫大な魔力を消費するにも関わらず、即席で放てるということ。ただし発動後の負荷が非常に大きいため、一瞬で勝負のピリオドを見定める必要がある。


 魔力の刃が壊霊ごと大地を貫く。

 峡谷の地が抉れ、凄まじい衝撃が奔る。


 その跡には、


「はぁ……はぁ……こ、の、ワタシが……」


 全身が折れ、息も絶え絶えの壊霊。


 ……まじか、耐えるのか。

 ヤバい、技の反動で動けない。

 

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