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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
3章 壊れたココロ
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57. 新生屋敷

 レーシャに先導され、壊霊の元へ向かう。

 峡谷の道なき道を往く。進めば進むほど行程は険しくなるが……師匠に放り込まれた龍島に比べれば、この上なく温いものだ。タナンも涼しい顔をしている。


「おっと、ルス兄! 前の方から魔物がいち、にい、さん……めっちゃ来てるぜ!」


「お、タナンの察知力はすごいな。全然気付かなかったよ」


「俺の勘は外れたこと無えからな!」


 それは……龍神の加護か何か? 的中率百パーセントまで来ると、もはや異能の領域だ。


 さて、相手が多いとなると……魔術で纏めて吹っ飛ばすのが早い。


「レーシャ、頼んだよ」


「言われなくても、もう魔術の準備してるよ」


 気づけば彼女の足元には魔法陣が敷かれていた。魔法陣は即席で行使する魔術では出現しない。上級魔術や理外魔術などの、莫大な魔力を消費する魔術でのみ現れる。

 僕が言うずっと前に準備していたという事は、彼女も魔物に勘づいていたということだ。正直、圧倒的に僕よりも優秀なレーシャさん。連れてきて良かった……。


「……流水、大海、凍りて氷山。流砂、砂海、凝して大山。

 連なり合わさり、渺茫たる万象流転。

 我が魂は兵戈、地殻は天穿、吹雪は凍焔。

 真理の秤は我が血にあり……」


 え、え。

 レーシャさん、何かヤバい魔術使おうとしてない? 何その詠唱?

 あと、魔法陣が虹色でヤバい。単色の魔法陣しかこの世に存在しない筈なのにヤバい。

 あとあと、魔力の質がヤバい。


「お、おいルス兄……これ大丈夫なのかよ!?」


 さしものタナンも焦りを隠せないみたいだ。


「大丈夫だよ、二人とも。魔物を片付けるついでに壊霊までの道を平坦にするだけだから。…………あと、ストレス発散」


 ……ん? 最後なんて言った?


「さあ、見るがいい! これが理に従いながらも、精錬の極致の魔術……真理(ナレムファ)だよ!」


 やけに高揚しているレーシャに突っ込んでくる、ベローズによって作られた魔物達。

 魔物の影が目視できるようになった、その時。


真根源氷土ノレア・ナレムファ・ヘイゼ」 


 紡がれた、一筋の言葉。

 頭が割れそうな程の魔力の奔流が爆ぜる。

 刹那、耳を劈く轟音。視界を埋め尽くす白光。思わず神転して全ての感覚を遮断してしまうほどの衝撃。


 ……戦略兵器かな?


 眼前に拓けたのは、一面平坦な凍土。跡には草木の影一つ見えない。

 隣を見ると、タナンは呆けた顔をしていた。


「防御結界張ってたから、そんな構えなくてもよかったのに。……あ、ツルツルで歩きにくいから土に戻すね」


 レーシャが手を翳すと、凍土は峡谷……いや、平野に戻った。

 そして、彼女は平然と歩みを再開する。


「……これが、魔術の極致か」


「逆に言えば、これが理内魔術の限界ということだよ。更なる力を扱うには、理外魔術が必要となる。アルス君にもいくつか理外魔術を今度教えよう」


「おお、よろしくお願いします」


「よし、真っ直ぐ行けば壊霊だよ。さあ、行こうか」


「レーシャ……いや、レシャ姉か……」


 タナンは正気を取り戻し、尊敬の眼差しを彼女に向けている。

 ……もうこいつ(レーシャ)一人でいいんじゃないかな。


                                     ----------


 たどり着いたのは、大穴。水音が轟轟と鳴り、穴に滝が流れ落ちている。

 そして、その周縁に壊霊は立っていた。


「あら、追いかけてきちゃったの? 今お母さんの様子を見てたんだけど……仕方ない子達ね、ワタシが遊んであげる」


 壊霊は振り向き、嗜虐的な笑みをこちらへ向けた。

 しかし、気になる言葉が聞こえた。


「お母さん……とは?」


「まあ! ワタシったら紹介するのを忘れてたわ。ホラ、下を見てちょうだい?」


 壊霊を警戒しつつ、滝が落ちる先を覗き込む。

 ──そこには、


「何だ、アレは……? 山……?」


 大穴の底には、山を想起させる巨大な緑色の球体。其から感じ取る気配は尋常なものではなく、壊霊が作り出した魔物と似通った気配でありながらも、今までとは比べ物にならないほど大きい。


「彼女の名前はね、メイユーアって言うの。ワタシのお母さんなんだけど……病弱でね? いつも寝込んでいたんだけど、ワタシの『新生屋敷』で元気にしてあげたのよ!」


 まさか……アレを、緑の球体を母と言っているのか?

 やはり、魔元帥とはまともな話はできそうにない。一人の人間に数多の生命のパーツを継ぎ合わせて球体……メイユーアが作られたとしたら……考えただけでも悍ましい。


「おうおう、テメエ、壊霊! 俺と勝負しろや! テメエのきめえ言動、精神……何もかもがムカつくぜ!」


 痺れを切らしたか、或いは壊霊の常軌を逸した行動に憤懣を覚えたのか、タナンが啖呵を切る。


「ええ、楽しみましょ? でも、三対一は不公平ね。……そうだわ、とっておきの子供たちがいるの! 一緒に遊ぼうねえ」


 ベローズは楽しそうに笑い、大穴に飛び込んで行った。

 

「ふむ……新生屋敷、パーツを取りに行かなければならない……【領域】かな」


 何やらレーシャは壊霊の言動を見て考え事をしているようだ。


「おまたせ。とっておきの二人を作ってあげるわ……」


 上がって来たベローズが片腕でそれぞれ抱えているのは、二頭の竜の死体。一方は光竜、もう一方は邪竜。いずれも国すら滅ぼしかねない天災級の竜だ。高い知能を持つ故、人里を襲う事など滅多にないが……。

 そして、竜達を取り巻くように浮かぶのは、大地獣(ベヒーモス)黒死鳥(ネギラエン)半魚人(アドゥルメイダー)……他にも強力な魔物達の死骸。


「まさか、あの魔物達を合わせるつもりか……!?」


「さあ、ワタシの家族になりましょう。『新生屋敷』」


 竜と魔物の肉体が潰れ、砕かれ、分解される。

 さっき見た光景と同じだが……その質は、悪い方に上がっている。



 そして、新たな『闇』が二つ、生まれた。

 これまで経験した中でも、最大の邪気。僕の全力を以てしても、一体の相手が限界かもしれない。

 ……クソ、どうする?


「それじゃあ、楽しみましょう! ワタシの二人の子供達と一緒に!」


 戦いが始まる。



「盛り上がってるとこ悪いけど……アルス君にタナン君。恐らく、壊霊の神能『新生屋敷』は自身の範囲内の物質を破壊・分解して再構築する能力だ。二人は神族だから、破壊されても自己蘇生できるし問題ないね。死体が再び意思を持って動き出すプロセスは、混沌から秩序の因果への再編の副作用だ。……ああ、二頭の竜は私が遊んでおくよ。君たちは壊霊をお願い」


 ──レーシャは淡々と、そう告げた。

 

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