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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
最終章 立ち向かう者
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190. 未観測の舞台

 リンヴァルス帝国。

 唯一神リンヴァルスが守護する長き歴史の国。


 始祖レイアカーツとの他愛のない話を終え、アルスは地上へ降り立った。

 今回の目的はバトルパフォーマンスの観戦。近年はバトルパフォーマンスという競技も徐々に国外へ普及し始めた。

 というのも、アルスが他国に支部を設置したり、セーフティ装置の精度向上に貢献したりと努力を続けているのが普及の理由だ。


 コロシアムへ入り、観客席の一つに座る。

 最近のパフォーマー事情は追えていないので、どんな選手がいるのか分からない。選手表に並ぶ名前をざっと見た。


「ふむ。『諳鏡十年』、『裂開の姫』、『力』……ふっ。『☨天覆四象☨』に匹敵するかっこよさの二つ名は無いな」


 アルスはほくそ笑む。

 引退したとはいえ、彼もかつては選手の一人だった。二つ名のかっこよさで負けているようでは先達の顔が立たぬというもの。


「なーに言ってんだ? どう考えても『紅蓮剣士』が最(つよ)なんだが?」


 ふらりと現れて隣に座った黒髪の剣士。

 名を『紅蓮剣士』エルゼア。既にバトルパフォーマーは引退し、グッドラックからも脱退した。


 さらに隣に座ったのは『刹那の竜闘士』エニマ・ノイセ。

 彼女もまた引退した身だ。バトルパフォーマーは人気商売ゆえに選手としての寿命は短い。


「あ、エルゼアとエニマん。久しぶり!」


「あるるんおはよ。ここ数年会ってないよね? 寂しいよー」


 かつての同僚たちは現在どのような活動をしているのか分からない。

 バトルパフォーマー黎明期を支えた闘士たちは、今もなお戦い続けているのだろうか。アルスは彼らの現在を予想しつつ、試合が始まるまで近況を語る。


「僕は世界各地を飛び回ってるんだ。ほら、国外にバトルパフォーマンス協会支部がぽんぽん出来ているだろう? アレ、僕が設立してるんだ」


「へえ……お前にしては真面目な活動してるじゃないか。ボクはもう完全にバトルパフォーマンス関係とは縁を切ってるな。今は投資で稼いでる」


 エルゼアは平穏な暮らしに戻れたらしい。

 かつてはグッドラックとして神算鬼謀の名を冠していたが、今や一般人。剣すら持つことはなくなった。戦いとの縁は、こうしてたまに試合を観にくる程度だ。


「へえ……いいご身分だね。エニマんは?」


「えっ、わたしは……ひ、ひみつ」


 露骨に目を逸らして答えを濁すエニマ。乙女の秘密に深く立ち入ってはいけない。

 べつに後ろめたいことはなく、ただ普通の暮らしを送りすぎていて答えにくいだけなのだが。


「……お、試合が始まるみたいだ。せっかくだから賭けようぜ」


「いいね。僕は……右手の選手に賭けるよ」


「じゃあわたしは左!」


 特に昔と変わることもなく、彼らは和気あいあいと語り合う。

 きっとこれからも変わらないまま。


 ~・~・~


 観戦後、エルゼア・エニマと別れたアルスは街に出る。

 リンヴァルスは今日も平和だ。人が溢れるように行き交い、陽光の下に笑顔を浮かべる。


 そんな平和の中に不穏が一つ。

 戦意。


(……尾行されているな)


 戦意は間違いなくアルスを追っている。かなり熟達した気配遮断。

 僕でなきゃ見逃しちゃうね……と心中でため息をつき、彼は路地裏へと転がり込んだ。


「で、何の用です?」


 暗闇に向かって声をかけると、現れたのは一人の少女。

 どこかで見覚えがあったのだが……


「……どちらさま?」


 アルスには思い出せなかった。


「アナベルト・シルバミネでございます。ばとるぱふぉーまんすなる闘技を観戦していたところ、霓天殿をお見かけして話しかけようかと迷っていたところです」


「……ああ、元帝国六将のアナベルトさんか。お久しぶりです」


 世界最強の暗殺の家系にして、かつては敵として立ちはだかった(?)相手だ。


「で、なんで戦意を出しながら僕を尾行してたんです?」


「あっれー……おかしいですね。戦意とか殺意抑えてたはずなんだけどなあ……失敬。私もまだまだ未熟ゆえ。……ところで、お尋ねしたいことがありまして。件のばとるぱふぉーまんすなる競技には、参加資格などはありますか?」


「いえ、特にありませんよ。バトルパフォーマーを名乗って人気が出ればそれでいいのです。人気が出なくて引退する人がほとんどですけど……もしかしてアナベルトさんもやってみたいので?」


「否……です。少なくとも私は血染めの殺し屋ゆえ、表の世界に姿を現すことはできません。ただ……」


 アナベルトは言いよどむ。

 彼女の佇まいを見る限り、まだ殺し屋の仕事は継続しているようだ。腰に提げた不可視の二刀もアルスには見て取れた。


「ただ、もしも私が殺し屋をやめて……子孫が職を求めた時。シルバミネ家に残されているのは剣を振る能だけ。魔物も徐々に減少していると聞きますし、シルバミネ家の子孫がバトルパフォーマーになることはできるでしょうか? この薄汚れた外道の剣術でも」


 たしかにアナベルトの剣閃は人を殺すことに特化している。

 バトルパフォーマーが魅せるのは美しく、かつ派手な武術。武よりも舞に近い。


「そうですね……そもそもバトルパフォーマンスは対人の競技です。シルバミネ家の剣術も相性はいいと思いますよ。その剣術を派手に魅せるように昇華できれば理想的だ。今後、魔物が消滅して武術の拠り所がなくなっても……バトルパフォーマンスという舞台は僕が意地でも残します」


 アルスに答えられるのはそれだけだった。

 アナベルトに対して殺し屋をやめろとも、子孫をバトルパフォーマーにしろとも言えない。ただし彼女は納得したように頷いてくれたのだ。


「……ありがとうございます。ええ、その返答で十分。お言葉をしかと刻み、今後とも精進してまいります。では失礼」


 一瞬でアナベルトは闇へ消えた。

 武の必要性。これまでは魔物や災厄に対抗するため、当然のように用いられてきた力。しかし武力の必要性は薄まり、在り方は変わろうとしている。


 未来のことなど分からない。

 アルスが観測することもできないだろう。もしかしたら因果が存在した時代よりも醜い世界となるかも。

 すべては幻想、見据えられぬ遠き世。


「僕は為すべきことを為すまでだ」


 未来は未来の人間に託した。

 リンヴァルス神は今を築き上げる。

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