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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
最終章 立ち向かう者
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187. 友と未来と幸福と

 厄滅より五年後。

 時は流れ、世界には因果消滅による大きな変化が訪れた。魔物の数が徐々に減少し始め、フロンティアにおける危険度が漸減傾向にある。

 各国がフロンティアの資源に関して興味を示し始めると共に、国家間で不穏な気配が漂いつつある。ルフィア王国もまた対処に追われていた。


 ルフィア王国騎士団……アリキソン・ミトロンは本日も会議を終え、くたびれた体でミトロン家に帰った。


「あら、あなた。おかえりなさい。ご友人が来てるわよ?」


 アリキソンの妻が出迎える。数年前に彼は結婚し、今や立派な家長となっていた。

 かつての未熟さ、狂暴さも鳴りを潜め……今やルフィアの大英雄。


「友人? ああ……事前の連絡もなしに来るのは彼くらいか」


 彼は騎士服から着替えて客室へ向かう。


 ~・~・~


 客室には自分の家のようにくつろぐ少年の姿があった。


「やあ、久しぶり」


「アルス……お前、相変わらず変わらないな。まったく老けてないように見える」


「そういう君は立派になったね。最近は騎士団長になったんだって? おめでとう」


「最近とは言っても二年前だが。しばらく音信不通だったな」


「僕の体感時間では数か月振りなんだけどね。まさか君と前回に会ってから三年も経っていたなんて……時の流れは早いものだ」


 見た目は若いが、老人のような態度。相変らずな親友の態度に呆れるアリキソンであった。

 さて、この親友は何用で来たのだろうか。


「で、何か悩みでもあるのか? お前がここ数年で何をしてたのか知らないが」


「僕は基本的に楽園に籠って復興作業をしてたよ」


「楽園か……破壊神が討伐され、平和な島に戻ったらしいな。フロンティアをめぐる領土政争に巻き込まれないと良いが……」


 楽園はどの国の統治下にもない領土。

 どこぞの国が無理やり侵略する可能性をアリキソンは懸念していた。


「大丈夫だ。あの島には強くて変な人たちがたくさん居るから。そう簡単に侵略はされないさ」


「そ、そうなのか……?」


「うんうん。……そういえば、タイムさんはどこに?」


 アリキソンの父、タイムは王城で武官として勤めている。

 うつ病も次第に回復し、現在は若者に軍事訓練を施す役職を持っていた。


「父さんはまだ王城で仕事中だと思うが……何か用か?」


「聖剣の管理権限って、タイムさんが持ってたよな?」


「いや。今は聖剣グニーキュの管理は俺が与っている。特に脅威がなければ必要ない代物だが、ソレイユに戻すこともできなくなったのでな……屋敷の地下に厳重に保管してある」


 五年前にソレイユが謎の結界に包まれて以来、一度も内部の情勢を知れたことはない。世界から魔物が消滅した根源はソレイユにあるとか、ソレイユは滅んで新しい国が築かれているとか……根も葉もない噂が飛び交っている。

 真実は闇の中。


「なるほど。聖剣についてだが……君はこのままミトロン家に置いていても大丈夫だと思うか?」


 アルスの問いは難しいものだった。

 今後、ミトロン家に携わる人間が聖剣を悪用しないとも限らない。かと言って、崇高な聖剣を廃棄することも憚られる。


「……大丈夫、だと断言はできないが。俺は悪用されないと信じたい。そもそも聖剣グニーキュが使い手を認めなければ、本当の力を引き出せないしな」


「おーけー。そういうことなら僕がすることは何も無い。心配なら引き取って深海に沈めようかと思ってたけど」


「いや、お前は信用できないから何と言われようが聖剣は渡さなかったけどな」


「ひどい……僕とは親友じゃなかったのか!?」


「それとこれでは話が別だ。三年振りに会う奴を親友と言ってもいいのか分からんしな」


 時間間隔がルーズなのはアルスの欠点だ。まるで彼の周囲だけ時の流れが停滞しているかのよう。


「……そういえばお前、ちゃんとホワイト家には帰ってるんだろうな?」


「うん、月に一度くらいは。マリーの縁談を阻止する方法を考えているんだ」


「マリー、不憫だな……」


 アルスの友人たちはみな家庭を作ろうと動き始める時期。アリキソンも結婚したし、妹のマリーも結婚しようとしている。どうにか阻止しなくては。

 アリキソンが話を聞いてみる限り、アルスは結婚する気などさらさら無いらしい。霓天の子孫を残そうとしないのでディオネ国民からは白い目で見られ、肩身が狭いとも語っていた。


「まあ、君が順風満帆そうで何よりだ。このまま奥さんと子どもとお幸せに。間違っても闇落ちなんてするんじゃないぞ」


「なんだ闇落ちって。意味が分からんぞ?」


「分からないならそれで結構。また来るよ」


 アルスはコートを掴み、そそくさと出立の準備を始める。

 せっかく数年振りに会ったというのに早い別れだ。彼も彼で予定がたくさん詰まっていた。この後はナージェント家に赴く予定。


「もう行くのか?」


「悪いね、こう見えて忙しいんだ。次は……そうだね。ちゃんと一年後には来るよ……たぶん」


「ああ。待ってるぞ」


 恐らく来ないだろうな……と心中で思いつつ、アリキソンは親友に別れを告げる。

 遠くなっていく友の背を見つめて。もう彼の後に続き、追いつこうとはしない。アリキソンは自分の道を見つけたのだから。

アリキソン・ミトロン〔神代5300/後35〕

タイム・ミトロンとハイナ・ミトロンの間に生まれ, 幼少より類稀なる武の才能を見せた。父タイムがうつ病に罹ると共にルフィア騎士団副団長へ就任し(神代5314), 六花の魔将『魔王』を討伐。やがてトネリコ・ワーナーの後を継いで騎士団長に就任した(後1)。魔物消滅後の世界において重要な軍事的意義を果たし, 領土紛争を起こす国家へ対して大きな抑止力となった。後35年, 結魔核により病死。

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