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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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185. そして世界が始まった

 世界全体が虚脱に満ちた。

 大地に、天に、海に、宙に染み込んだ二つの因果が抜け落ちて……灰色に混ざって──漂白される。


 混沌と秩序に閉ざされた世界は終わり。

 何者にも縛られぬ因果なき世界が生まれ。


 そして、かつての壊世主は……


『おのれ……おのれ、おのれッ! 我が身から因果を奪ったか、アテル! 我が身を只人へ堕としたか!?』


 次々と纏う闇を剥がされ、力を失っていく。

 ルミナだけではない。創世主アテルも、調停者ノアも、また力を失っていた。


 瞬間、私は確信した。

 世界は生まれ変わったのだと。ここから先は……新しい時代だ。


『認めぬ、あり得ぬ! 許さんぞ……もうよい、疾く失せよ! すべて消えてしまえッ!』


 最後の抵抗か、ルミナは魂に眠る秩序を全開で引き出した。

 消滅しつつある周囲の眷属も一時的に力を取り戻し、ルミナの異形もまた動き出した。


 しかし……彼は忘れてはいないだろうか。

 この世界においてただひとつ、未だに因果に縛られた愚者がいることを。


共鳴(アンチスフィス)──解放」


 私──共鳴者(アルス)だ。

 共鳴の力は、この世界に由来するものではない。かつて滅ぼされた世界に眠る少女……レーシャとつないだ混沌の力。

 もう一度、共に鳴らしてくれ。手を差しのべてくれ。


 灰色に魂を染め、世界を守る意志を束ね、新しい時代の始まりを告げるために。


『第三因果……いや、アルス。力を……貸して欲しい』


 アテルは私へ頼み込んだ。

 無論、最初からそのつもりだ。彼女の意志を、決断を叶えよう。



 疾走する。世界の未来を定める戦いへ身を投じるのだ。

 一瞬の後にエムティングを斬り捨て、メロアを滅ぼす。造作もない。


『救世者ッ! お前だ、お前が根源だ! お前さえいなければ……あの世界線を滅ぼしていなければ、ラウンアクロードを利用さえしていなければッ……!』


「……君を責める気はないよ。ただし、新しい世界を受け入れないのならば……私は君を断つ」


 抵抗と言わんばかりに、眼前に無数の眷属が群がる。

 そんなものでは私を止められない。それに……私には仲間もいる。


「皆の者、立ち上がれ! ここで永き争いに終止符を打つ!」


 アビスハイムの号令により、英雄たちが次々と立ち上がった。

 もう世界には主という概念が存在しない。だから、彼ら人間も、ルミナもアテルも同じ土俵に立っているのだ。互角に争うことだってできるだろう。


 背後から巻き上がった魔術が、迫る眷属を撃ち落とす。

 戦え、未来を掴め。私は未来への導となる。


「アルスさん」


「ノア。君は……」


「ありがとうございます。私、ようやく決められました。アテルのおかげでもありますが……調停者という枷から逃げることができたのです。だから後は……まだ駄々をこねているルミナを懲らしめてやりましょう」


「……ああ」


 よかった。

 彼女はもう自分の意志を決められたのだ。私が口を出す必要もない。

 ノアの強化を受け、さらに眷属の殲滅速度を上げていく。黒き波濤を打ち破り、ルミナの本体……異形が見えた。


『アルス・ホワイトッ! 今からでも過去の輪廻へ戻り、お前と言う存在を抹消してくれる! お前は存在してはならない!』


「……! 待て!」


 異形が咆哮し、中空に神力を籠める。

 虚空から裂け目が生じた。今の言葉から推察するに、過去か別の世界線へと飛ぶ可能性がある。


 逃げられてはならない。

 全力で加速し、迫る黒茨を打ち払い……


『クハハハハッ! では、さらばだ! 必ずお前を滅ぼし……ぐぎっ!?』


 虚空へと異形が消える刹那、動きが停止。白き茨が異形へと絡みついていた。

 アテルがルミナの逃亡を阻止してくれたようだ。


『アテルッ!!!』


『お願い。アルス』


 任された。

 別の世界線の君からではあるが、授かった共鳴(ちから)を振るわせてもらおう。


 守りたい。この世界は私たちのものだ。

 悪しき意志になど、穢させてなるものか。


共鳴(アンチスフィス)──臨界」


 今、私と共につながる者。

 かつて滅ぼされた故郷の君も、私と同じ景色を見ているだろうか。


 ありがとう。君がずっと私の魂に寄り添ってくれていたから……ここまで来ることができた。

 因果の幕を閉じよう。



「──『因果消滅世界アテルトキア』」



 ただ一振り。

 一撃でルミナの本体は瓦解し、根源を断たれた。


 ……ああ、因果のない彼はここまで脆いのか。

 あれほど怯えるのも無理はなかったのだな。


『──ァァァ──ァァァアアッッ!!! ヤ、メロ──オォォォッ──!』


 ……苦しそうに絶叫して。

 彼は茨の触手を天へ伸ばす。だが何も掴むことはできない。


 飛翔、触手を掴む。

 きっと彼は……手を握ってくれるひとが欲しかったのだろう。


「…………終わりなんだよ、ルミナ」


『………………そう、か』


 ずっと孤独に盤面で遊んでいた。

 彼の生涯もまた虚しく、寂しかったはずだ。


 塵となって彼は消えてゆく。

 天の暗黒が払われ、まばゆい光が射した。新しい世界の光だ。


「安らかに」


 かつて在った盤上世界アテルトキア

 かつて見守った二つの主。

 かつて見届けた調停者。


 すべては過去の神話。

 神代が終わり、歴史が幕を開けるのだ。



 今、この瞬間から。

20章完結

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