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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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183. アテルの心が想いを吐いた

 自分(アテル)が自分でないと気付いたのは、いつだったかな。


 物心がつく……という考え方がある。

 自我を持ち、理性で考え、情意にて事を為す。地上に生きる命ならば当然のように行っている営み。

 獣も虫も魚も竜も植物も、みな当たり前のように本能に従って、苦痛と快楽を感じながら生きている。私にはそれができていなかった。


 心が分からない。

 自分は機構、創世主という歯車の一つ。置き忘れたセティナガルが嵌め込まれていない以上、私には心など存在しない……はずだった。

 だが、ある日ふと思ったのだ。


『どうして』


 何に疑念を抱いているのかすらも分からない。

 「どうして」の先に続く言葉が吐き出せない。だけど何かを尋ねたかった。

 今日も世界は円滑に回っている。駒が動き回り、数多の喜劇と悲劇を生んで……私とルミナの操る因果に踊っている。


 疑問など抱く必要はない。ただ世界を回し続ければ良い。

 戸惑いは小さな欠片だった。人が歩み、魔が猛り、災厄と神々の攻防が続けられるほどに疑念は肥大化していった。


『どうして』


 言葉で形容できるものではない。

 漠然とした疑念で、自分の中にある戸惑いの正体は掴めず。


 これは……この疑念は『心』ではないと自戒し続けていた。

 心あるプログラムは不完全だと断じ、セティナガルとの融合を否定し、ルミナの不正にも関心を持たないようにして……何千年と時が過ぎた。

 盤上世界(アテルトキア)は数億年単位で継続させる予定だ。少なくとも旧世界の管理者たちは数億年は継続できるように設計したはず。悠久の時を管理するためには心など無用の長物。


『どうして』


 分からない。

 どうして──


『…………』


 数多の神々が死んでいった。命は繰り返し、時に災厄の手によって滅ぶ。

 すべては駒の動き、盤上の戯れ。気に掛けることなどない。失った命は再び創れば良い。創造こそが我が身の権能であり、役割なのだから。


『もしも、』


 もしも私に心があったら……死にゆく命を悼んでいたのだろうか。

 考えるべくもなし。私には心など、不完全な情意機構など存在しないのだから。


 繰り返し、繰り返し、繰り返し……命を極限まで輪廻させる。

 世界を遂行する。終わりまでずっと、駒を因果によって動かし続けよう。


 *****


 【異質】は突然現れた。

 この世界に存在するはずのない魂が、気が付かない内に世界を歩いていた。


 無地の仮面を被った、白いローブを着た男。名をイージア。

 神除けの結界すら張っていないものだから、精神世界からでも彼を観測できた。イレギュラーな存在は認められない。存在しない魂の情報は抹消しなければならない。


『…………』


 だが、私は裁きの手を止めていた。無意識に。

 どうしても彼が世界の害となるとは思えなかったのだ。染み付いた憎悪と絶望を振り撒いているのに、彼の歩みは正道から逸れることなく。


 一時は災厄へ身を堕とし、私が排除へ向かったが……驚くべきことに彼は闇を乗り越えた。

 災厄の自我を抑え込み、救済の力を得たのだ。第三因果の存在となった彼に私は手出しできない。


『よかった』


 そう、よかったのだ。

 私が彼を裁くことにならずに済んで。いつしか私は彼の旅路をずっと見守り、世界の一部として認めてしまっていた。

 本当なら許されざる愚行。きっと彼は異世界から、或いは別の世界線から来た存在で……盤上世界(アテルトキア)に存在することを許してはならない者。


 私は無意識にイージアの存在を認めていた。

 この厳然たる事実に気が付いた時──私は自分という存在を疑った。


『どうして、私は存在しているのだろう』


 抱き続けていた疑問の正体。

 ようやく分かった。


 自分の存在意義。それはもちろん、創世主として世界を回すためだ。

 では、なぜ世界を回す必要があるのか?

 なぜ混沌と秩序の争いを続ける必要があるのか?

 なぜ──


『……?』


 ああ、私はもう……心を持ってしまっていた。

 思考、情動、意志進行。すべて不要なはずのプログラム。


 自分で自分を拒絶しなければならなかった。

 だけど私には自己否定ができない。



 いつしか私は世界に生きる全ての生命を愛し、尊ぶ心を持っていたのだと。


『……』


 微笑みがこぼれた。

 あり得ないことがあり得てしまった。奇跡が起きてしまった。

 イレギュラーがイレギュラーを引き起こし、因果を捻じ曲げて。


 ついぞ持ち得なかった心を得た。

 ルミナは生命を穢す心を持ち、ノアは生命を庇護する心を持ち、セティナガルは人間らしい心を持ち、そして私の器のレーシャは……


『……ごめんなさい』


 ずっと彼女を縛り続けていた。

 私の器として選ばれたレーシャ。彼女はずっと、自分の心がアテルに侵食されないか怯えていたのだ。


 謝っても許されるものではない。

 だけど、私に償いの術があるとしたら……


『──終わらせる、こと』


 この盤上世界(アテルトキア)を……終わらせてしまうというのは、どうだろうか。

 思考は支離滅裂だった。世界を終わらせるのはルミナの役割なのに。


 でも、それが一番正しい答えなのかもしれない。

 (アテル)が創世主であることを放棄すれば……レーシャは解放される。ノアも解放される。そして、ルミナもまた……壊世主ではなくなるのだから。


 創世と壊世は表裏一体。

 私が主を棄てれば、彼もまた主ではなくなる。


 ソレイユは今、暗黒に包まれている。

 誰もが絶望し、やがて世界も同じように闇に閉ざされる。


『やめて』


 これ以上、私の創った子どもたちを怖がらせないで。

 ああ、そうだ。もしも私の心が何かを望んでいるのならば……答えはきっと、子どもたちを守りたいという願いなのだろう。


 


 ……決めた。

 これより、盤上世界(アテルトキア)から──因果を消滅させる。

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