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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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181. だけど終焉が訪れて

 安息世界の中心には、無数の魔法陣と虹色の空域が展開された。塔を建てるための陣地を作成。

 後は塔を呼ぶだけだ。ノアは調停者の権能を起動して祈りを始めた。


 あと数分。まだ暗黒は続く。


『殲滅を! 調停者の弾劾を!』

『我らが主を害す者を……許すな』


 最終局面において、敵の悪辣さは増幅する。

 暗黒から次々と壊世主の眷属たちが飛び出し……ノアの謀略を許すまじと疾走。もはやアルスなど眼中にない。彼らは何としても調停者を殺すという気概のもとに団結していた。


「退け、痴れ者供が!」


 燐光が降り注ぐ。光は黒化エムティングの群れを消し飛ばし、ノアを中心として防護壁のように展開。王城より駆けつけたアビスハイムの魔術である。


「ノア、まだか!? これ以上の継戦は厳しいぞ!」


「あと少し……終端がそこまで見えています。ええ、もう……もう……終わりです! 総員、衝撃に備えてください!」


 彼女の瞳が開かれる。

 見上げるは天、暗黒の空。一縷の光が漏れ出でた。垣間見た青空が広がり、凄まじい規模の魔力が轟音と共に降ってくる。


「陛下、防御術式を!」


「うむ! 皆の者、集え!」


 アビスハイムは周囲で戦い続ける人間たちを傍へ転移させた。

 全員の招集を確認して、対壊世防御術式をドーム状に展開。全ての衝撃から身を守るように防御を固めた。


 周囲の黒化エムティングや黒化メロアは何事かと天を見上げる。

 光の切れ目より姿を現したのは……まばゆく輝く白亜の塔。俗称は『大地壊尖塔』、またの名をノアの塔。かつて壊世主を封じた建造物である。

 ナバ高地からソレイユ王国まで、物理的に引き抜いて呼び寄せた。


「──終わりを告げる流星。万物を等しく裁く調停の星。今、此処に暗黒を払う星を堕とします」


 赤炎を伴って、風を壊して、闇を貫いて。

 まっすぐにノアの塔が降り注ぐ。直径およそ二十キロの超巨大な塔は、巨体のメロアですら止めることもできずに……地上に舞い降りる。


 地面に塔の最下層が接着する瞬間、世界を輝きが覆い尽くした。ノアの陣地作成により衝撃は最小限に食い止められる。

 地上を駆け抜けた凄まじい衝撃波はアビスハイムの結界により阻まれ、戦い抜いた人々は終わりの光景をじっと見つめていた。


「さあ、闇を払って」


 ソレイユの中心に建ったノアの塔。

 管理者の号令により、本来の役割を遂行する。塔を中心にして救済の力が渦巻き、ソレイユを覆い尽くした壊世の闇を吸収していく。排水口に流れる水のように滔々と、とめどなく。

 暗黒の世界を失った壊世主の眷属は脆弱だ。なすすべなく塔に飲み込まれていく個体、或いは安息世界の混沌に耐え切れず死滅する個体。


 終わりなどないかのように、ノアの塔はひたすらに暗黒を吸い続けた。やがて大地に染み込んでいた闇、空に塗りたくられていた闇、海に溶けていた闇……全ての暗黒が払われる。

 青空の下、現れたのはかつてのソレイユの景色。アビスハイムは両の眼で自分の国の再生を見た。


「終わった……のか?」


 ついぞ見ることのなかった暗黒の払拭。

 数多のXugeを乗り越え、敗北を重ね、勝利は不可能だと悟った王は……ようやく勝利の瞬間を味わう。これが終わり。厄滅の終着点。

 数多の【棄てられし神々】による侵攻を防ぎ切り、壊世主の攻撃を耐え切り……犠牲こそあったものの、これは勝利に違いない。


 周囲の面々も状況を次第に理解しはじめたのか、青空を仰いで笑みを表情に浮かべる。世界は救われたのだ。


「……ノア」


「分かっています。きっと……」


 ──だが。

 アルスとノアだけは、表情に余裕がなかった。


 簡単に終わり過ぎている。あの害悪の壊世主が、ここまで容易に封印されるだろうか。奴は人類を一時的に勝利の余韻に酔わせて潰すつもりだ。

 二人には確信があった。


「ルミナ、居るのでしょう。出て来てください」


 ノアの呼び声に、再び静寂が戻る。

 周囲の誰もが口をつぐんだ。

 ……静かだ。異様な静寂、呼吸すらも聞こえてしまう。高鳴る心臓の音すらも聞こえてしまう。


 乾いた音が静寂を裂く。

 虚空より現れた男──壊世主の器が喝采し、嗤っていた。彼は手を叩きながらノアたちへと歩み寄る。


「クハハハハハッ! いやはや、見事な手腕と団結だったな! 面白いモノを見せてもらったぞ? まさに最終決戦と形容するに相応しい見世物であった。まさか暗黒となって溶けた我が本体を呑み込んでしまうとはな?」


「貴様……貴様が壊世主か!」


 アビスハイムは挑発するルミナの態度に激昂し、己が手で誅を下そうと進み出る。しかしノアは彼の前進を制した。賢明な選択だ。

 何度も何度も、数多の世界線で自分の国を壊されたアビスハイムの怒りはもっともだ。ルミナへの復讐の権利は当然、彼にも存在する。しかし盤上世界(アテルトキア)において壊世主は復讐の対象だとか、怒りや恨みつらみだとか、人の感情で束縛できる者ではない。


「魔導王、お前もよく抗ったな。まさかここまで到達できるとは思わなんだ」


「黙りなさい。ルミナ、今回のあなたの行動は完全なルール違反です。調停者として封印の刑を言い渡します」


「フ……クヒヒヒヒッ! クハハハハハッ! 嗚呼……なあノアよ、お前も知っていよう? 我が身が最も忌み嫌うのは『退屈とくだらん争い』だ。たとえルールに則って世界を進行しようが、享楽があれば、楽しければ我が身はそれでも良い。だがな……」


 ルミナの表情から笑顔……いや、嘲りが消える。


「だが、この世界はつまらん。なにゆえ我が身を壊世主などと言うつまらぬ代物へ縛り付けてくれた? ああ、分かっているとも。全ての咎は旧世界の管理者にある。我が身も、アテルも、ノア……お前も。みな被害者だ。だから壊すのさ、この盤上世界(アテルトキア)を。ルールを破り、法則を壊し、鬱憤を晴らす」


「あなたは……! あなたは……」


 ノアは反論しようと口を開いたが……反論の言葉が出ない。

 そうだ、ルミナの言は正しい。なぜ自分が因果に縛られなければならないのか。なぜ調停者などと言う使命を果たさねばならないのか。


 この問答に答えはなし。

 『なぜ生きているのか』という極めて複雑で簡単な問いなのだから。


「複数の輪廻を観測できるのがせめてもの救いだな。世界を一度壊しても、また壊す対象が出来上がる。これでいい、盤上世界(アテルトキア)は我が身の玩具で在り続けよ。そうでなければ……この世界は救われん。争いのない世界は、すべてを滅ぼすことでしか実現し得ない。そして世界を滅ぼすことは、我が身にしか実現し得ない」


 世界に生きる生命体がルミナへ文句を言うのは傲慢だ。壊世主は世界を壊す権限と力を持っていて、世界は彼とアテルの所有物なのだから。


「悲しいかな、ここで終わりだよ。これより先の未来にはあまり興味がない。……ノア、お前も分かっているのだろう? 我が身は既に創世主も調停者も超えていると。故に、封印など意味を成さない」


 ルミナの殺意が迸ると共に、背後に聳え立つ塔に亀裂が入る。

 あの中には壊世主の本体が封じられている。壊れようものならば……


「──終わりだ」


 瓦解、崩壊、終焉。

 ノアの塔が壊れる。


 溢れ出した闇が形を成し、壊世主の本体……異形が顕現。

 ねばつく闇が濁流の如くソレイユを染め上げてゆく。闇から次々と黒化エムティング・黒化メロアが飛び出し……全ての奮戦は水泡と帰した。


『……もはや笑いすら起こらんな。我が名は壊世主ゼーレルミナスクスフィス。今、この時を以て……盤上世界(アテルトキア)終焉を宣言する』

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