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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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176. 明日のために希望を灯す

「くっら!? 暗すぎです、進めません!」


 メロアを貫き、エムティングを屠り。

 大森林の方角から地下へと突っ込んだノアたちは、あまりの暗さに度肝を抜かれた。一般的な光源ではまるで先を見通せない。

 さすがは壊世主の闇と言ったところか。


「よし、俺の出番だな! 【救済の放出】!」


 ジークニンドが眩い白光を放ち、車体に光を纏わせる。救済の因果を持つ光は闇を裂き、周囲一帯を照らし出した。

 目指すはソレイユ王城。


「前方から黒化エムティングの群れだ。例のごとく僕が引き受けよう」


 彼らの行く手を阻むように、暗黒から壊世主の眷属が次々と飛び出す。

 共鳴を解放したアルスは車の少し先を走り、流れるように黒化エムティングを討伐していく。


『救世者……! 救世者……!』

『我が主のため、殺せ!』

『殺せ!』


 これまでの道筋で黒化エムティングの掃討は慣れたが、行動パターンに変化があることには気付いていた。彼らはこの短期間で智慧を獲得して成長している。厄介な性質には変わりないが、今のところ殲滅には問題はない。

 アルスらに向かって来る眷属の量から考えても、壊世主が彼らを最大の脅威と捉えているのは間違いない。


「……すごいな。アタシたちは見てることしかできない」


「仕方あるまい。アルスとノアは我らと立っている次元、および生命種が根本的に異なる。あれら黒化眷属は我々よりも高次生命体の敵なのだ」


 サーラとダイリードは車窓から前方の激戦を眺める。

 神族のダイリードを以てしても、黒化エムティングの相手は不可能に近い。災厄の眷属と考えれば当然のことだ。神定法則を持つ神族でもなければ抗うことはできない。


「このまま一直線で飛ばします! どけどけー!」


 豪快に黒化エムティングを轢き殺しながら、ノアは迷わずに加速していく。ソレイユ滅亡は秒読み。早く王城へ辿り着かなければ。


 ~・~・~


『壊せ! 抗う人間を殺せ!』


 黒化エムティングがひたすらに茨を白光へ叩きつける。

 王城を覆う救済の力を少しでも削ぐため、とめどなく攻撃を浴びせている。アビスハイムは神気と邪気を錬成しつつ、外縁部に蔓延る眷属を忌々し気に見た。


「おのれ……壊世の眷属供が。もはや王城内の人間の数よりも、外に溢れるエムティングの方が多い。勝算はないが……諦めるのも許されぬ」


 どうにかして状況を打開したい。

 しかし、傍には頼りにしていたATもノアもおらず。魔力を擦り減らしていく一方だ。


 兵士は青褪めた顔で外の眷属を注視し続けている。あんなに不気味な生命体を凝視していれば、そのうち気が狂ってしまうだろう。

 アビスハイムは傍の兵士に語り掛ける。


「ナジェン。お前も疲れたであろう。兵たちには城へ戻って休むように言っておけ」


「いえ……我々がここで心を折れば、国民の不安につながります。陛下だけに重荷を背負わせるわけにはいきません。……あのエムティング供も、次第に賢くなっているようです。いつ光が破られるか分かったものではありません」


「相変わらず生真面目だな、お前は。はてさて……」


 あと持って一時間といったところか。

 この間にアルスたちが帰還しなければ、ソレイユは滅ぶ。そして世界も闇へ落ちるだろう。


「ん……? 陛下、あれは何でしょう? 白い箱のようなものが……」


「む……? っ……フハハハハハッ! ゴホッ、ゴホッ……噂をすればなんとやらか! いやしかし、アレは……!」


 突然哄笑したアビスハイムに兵士は困惑する。

 遥かなる闇の中、輝く白い箱。それは真っ直ぐに王城へ向かって来る。


「暴走車ではないか! 見よ、黒化エムティングを轢き殺しているぞ! フハハッ!」


 目を疑うような光景だった。光に包まれたトラックのような物体が次々と黒化エムティングを吹っ飛ばし、粉々にしている。

 車と並走しているのはアルス。彼は尋常ならざる力でメロアを貫いていた。


『なんだあれ!?』

『救世者だ!』

『やめ、突っ込んで来るなー!』


 確実に人の力ではない。

 まるで世界観が急に変わったかのようだ。やがて車は蔓延るエムティングの群れを突き破り、王城の光を潜って壁へ衝突した。


「救世者様御一行到着でーす! 案内人のノアがお届けしましたー!」


 ~・~・~


 やっと到着したアルスたち。彼らの救済の力により、王城の寿命は延長。黒化眷属を軽々と打ち倒す勇士を見て、兵士らの士気も僅かに向上した。

 アビスハイムは急遽作戦会議を開き、主要人物を招集。今回の輪廻では存在しないはずのATの姿を見とがめた彼だが、今は何も言わずに王としての責務を果たす。


「よくぞ集まった、抗いし者らよ! ……知っての通り状況は絶望的だ。うむ、正直なところ我も打つ手がない。誰か意見のある者は?」


 ぐるりと周囲を見渡す。集った者たちの瞳から光はまだ消えていない。

 しかし、対抗策がないこともまた事実。


 静寂から一拍置いて、ノアが挙手した。


「こうなったら、もう私くらいしか対処できない問題だと思うので。犠牲を承知の上での策ならばありますが」


「……申してみよ」


「『ノアの塔』を建てます」


「ノアの塔? なんだそれは」


 彼女は徐に壁に張り付けられた世界地図を指さす。

 示した先はソレイユ王国外の遥か西方に位置する領域。ナバ高地と呼ばれるフロンティアだ。


「ここにある塔をご存知で?」


 彼女の隣に座るアルスが答える。常識的な問題だ。


「『大地壊尖塔』……ゼーレフロンティアの一つ」


「はい。それが『ノアの塔』です。今から三千年以上も前のことでしたか……実は今回の厄滅と安息世界の異変以外でも、壊世主が悪さをした時がありまして。怒った私は世界全体から邪気を吸い集める塔を立て、液状化して暗黒の波となった壊世主の本体を引きずり出しました。で、壊世主に禁固百年の懲罰を与えて塔に閉じ込めた……という歴史があります。まあ、反省してなかったみたいですが」


 大地壊尖塔に隠された衝撃の事実。

 壊世主から邪気を吸い取った塔ならば、極めて危険なゼーレフロンティアと化していることも頷ける。


「もう一度塔を建てて、ソレイユ全土の暗黒を塔に集めて……壊世主の本体を呼び寄せようかと。私は創世と壊世の相克を調停する者。ですので壊世主への制裁措置もある程度は行使可能です。しかるに問題がありまして、ルミナ……壊世主が私の力を上回っている可能性があることです。ええ、壊世主の本体を呼び寄せることができても、封印できるかは分かりません。三千年前と違って、壊世主は力をつけているみたいですから」


 この議事でノアの言葉を理解できた者がどれだけいようか。創世主・壊世主という存在よく知らないのだから仕方ない。

 アルス、AT、アビスハイム以外は話を理解できなかっただろう。王は簡潔に話をまとめようとノアに尋ねる。


「ふむ。そのノアの塔なるモノは簡単に建造できるのか?」


「いえ、できません。ですので今回は塔を呼びます(・・・・)。塔の設置陣地を設けるのにおよそ十五分。塔を降らせるのに五分。合計で二十分程度でしょうか。その間、私の作業を邪魔されないように皆さんには守ってもらう必要があります」


 ノアの話をぼんやりと聞いていて、ナリアは首を傾げる。


「……ん? 塔を降らせると言ったか?」


「はい。ナバ高地にあるノアの塔を引っこ抜いて、王城の傍の大地にずどんと」


 この場の全員がドン引きする策であった。

 とりあえず王城から出て、塔の陣地作成・召喚を行うノアを守護する。それが周囲の者たちの役目だった。

 馬鹿げた策に見えて難易度は高い。およそニ十分もの間、あの残虐な黒化エムティングと黒化メロアとの交戦を強いられるのだから。


「フハハハッ! ま、作戦がそれしかないのならば仕方あるまい。今は藁にも縋りたい気分だ。作戦の決行は明日。もう救済の力で城を守るのも限界が近いからな。事前に作戦を練るゆえ、ノアとリリス、ロンドはもう少し残れ。他の者は決戦に備えて身体を休めよ。……悔いのないようにな」


 アビスハイムはここでソレイユが終わると明言はしなかった。

 だが、『悔いがないように』と。彼なりの本心が飛び出たのだ。


 この聖戦の果て、どのような結末を迎えようとも。

 結末を受け入れられるように。

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