表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
547/581

171. 暗黒を穿ち、救いを願って

 ノアのウォーワゴンが王都へ到着するまで、予測によると一時間。

 一行は束の間の休息を車内で取ることにした。サーラとジークニンドはすぐに眠ってしまい、アルスとダイリードは黙して外の状況を観察している。


 沈黙の中ATはフロントを抜け出し、操縦席に座るノアの下へ歩いて行った。


「…………久しぶりだね」


「T。いえ、AT。私に何かご用ですか?」


 安息世界での一件から、二人の間には大きな軋轢が生じていた。

 何度も厄滅を繰り返して、解決法が安息世界の顕現しかないと悟ったT。彼はいずれ障害となるであろうノアの下へ赴き、決別の意を籠めてATと名乗りを上げたのだ。


 しかし鳴帝とノアたちの手によって安息は破られ、彼はこうして無様に抗い続けている。


「礼は言っておかなければならないと思って。僕やアルスたちを助けてくれてありがとう」


「このままでは世界が危ないので、当然のことをしたまでです。礼の必要はありません」


「…………」


 手短に話が終わり、再び両者の間に沈黙が横たわる。沈黙では軋轢を埋めることはできない。


「僕は……このどうしようもない状況を打破するために安息世界を創った。だから自分の行為を間違いだとは思っていない。ルミナの手は借りるべきではなかったと後悔しているけれど」


「あなたは昔から語らなすぎです。魔導王だけではなく、私にも相談してくれれば良かったのに」


「……すまない」


「……」


 また会話が途切れる。車の駆動音だけが鳴り響く。

 空の彼方では黒化エムティングの影がちらと見えた。


「ルミナは壊世主だ。主を殺せば世界は崩壊する。どうやって始末をつけるつもりだ?」


「それはもちろん……調停者の権能を使い、彼を再度封印します。問題はルミナが私の力を上回っている可能性が高い点ですが……どうにかします。もうラウアさんも居ませんから、私が封印しなければ」


「ラウア……彼はもういないのだね」


「……残念ながら。愚者の空で観測できるデータから、ラウアさんの生命符号が消滅しました。おそらく封印の中でルミナに食い破られたのでしょう。そもそもあなたがラウンアクロードを利用しようとしなければ、ラウアという存在が生まれることもありませんでしたが」


 ATにとってノアの言葉は、自分を糾弾しているように聞こえた。ノアとしては悪気なく事実を述べたまでだが。


「僕はラウアと出会えてよかった。だからラウンアクロードの力を利用したことも、安息世界を創ったことも……後悔は絶対にしない。後悔は彼との思い出を否定してしまうから」


「……そうですか」


 誰にも否定できない過去はある。

 どんな悪人にだって大切な人がいる。或いは大切な人を守るために世界を敵に回す者も。


 ノアにだって、どうしても消せない遠い記憶があって。


「T。前から聞いてみたいことがあったのですが」


「何かな」


「あなたは……何者なのですか? 結局最後まで分からなかった。最初に出会った時も、この世界には存在しないはずの魂として照会されました。私はあなたのことが分からない」


 ATは明確に答えることはできなかった。

 自分は数多のXugeと結合し、既に本来の自分を失っているのだから。


 だが……一つだけ答えるとすれば。

 覚えていることは。


「……ビオラの花が好きだった」


「…………」


 最後に訪れた沈黙を前に、ATはノアの傍を離れた。


 ~・~・~


 ガタリ、と。

 唐突な衝撃にジークニンドとサーラは目を覚ます。どうやら車が急停止したようだ。


『みなさん、突然とまって申し訳ありません。前方をご覧ください』


 アルスたちはノアのアナウンスに従って車窓から身を乗り出して前方を確認した。

 山が動いている……と形容しても過言ではない。黒く長い物体が彼らの行く手を阻むように地を滑っているのだ。

 蠢く巨体の気配を探ったアルスは自信なく推測する。


「あれは……メロアか?」


「黒化メロアだね。あれほどの巨体を迂回するのはかなり時間がかかる」


 ATはアルスの疑問に答えて黒化メロアを見据えた。

 やはり物理的な移動は不便だ。このソレイユは既にルミナの掌中。転移も封じられ、飛行すれば黒化エムティングの波が押し寄せる。そして大地には巨大なメロアが跋扈する魔境。


「どうすんの? このまま進む?」


 サーラの問いには誰もが答えかねる。どの道筋を辿って王都へ向かおうとも、困難は避けられない。

 アルスは徐に車体から外へと飛び出した。


共鳴(アンチスフィス)解放。僕が先陣を切ろう。あのメロアの中腹に風穴を空け、強引に突破する。車に追い縋る全ての脅威は払って見せるとも。ノア、発進を」

 

「了解しました。車体周囲に対壊世防御術式を展開。位相固定、因果を王都まで接続完了。発信準備、できました」


 他の面々が止める間もなく作戦は実行されようとしていた。

 アルスの共鳴の力を知るノアは、迷いなく彼に続いて車を発進させる。急展開に戸惑ったジークニンドとサーラだが、異論を挟む余地などない。ただ仲間を信じて進むのみ。


「行くぞ!」


 暗黒のソレイユに一縷の光が駆ける。

 救世者アルスは止まらない。世界を救うその瞬間まで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ