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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
544/581

168. Abyss - δεζηΘικλμνξΠρστʊΦψΩ

 観測世界線 : δ

 魔導王アビスハイムより、周回四度目を記す


 Tに言われていた通り、魔術式アビスに魔力を蓄積させ続けて五千年。魔力の抱えすぎで溺死するかと思ったぞ。

 再び即位し、Tと再会。奴が用意してきた『対災厄防御術式』なるものを構築してみる。


 前回は命神を本気にさせてしまったことが敗因だ。奴は心神と違い、人間に手心を加えている。人間を愛しつつも世界を憎む歪な神だ。本気を出さないうちに倒すのが賢明だろう。


 試みは半分成功。命神を封印することはできた。

 しかし如何なる手段を以てか、封印は破られてしまった。


 ~・~・~


 観測世界線 : ε

 魔導王アビスハイムより、周回五度目を記す


 Tから敵についての背景を聞く。

 曰く、『棄てられし神々』は創世主なる存在を恨んでいると。二神を殺した存在が創世主であるという。超常存在の話をされても困るが、一応頭には入れておこう。


 心神を倒すことに成功した。

 しかし人手が足りん。心神の相手をしている間に、天魔と命神に王都を攻められてしまう。


 ~・~・~


 観測世界線 : ζ

 魔導王アビスハイムより、周回六度目を記す


 有望な人材を探しているうち、かつての六花の将である『聖王』ウジンと知り合った。虚神であったという奴を登用すれば、多少は戦況もマシにはなるか。

 リリスの提案により英霊召喚を試してみることに。たしかに戦力が足りないのならば、英霊を呼べばいい。魔力など無尽蔵にあるのだからな。


 今度は心神・天魔の討伐に成功した。しかし……ああ、なんということか。

 天魔は二体いた。いや、正しく言えば真の天魔が偽物の天魔を擁立していた。天魔スターチならぬ、天魔ソウムを討たねばなるまい。

 生半可な英霊では駄目だ。最強格の英霊を召喚する必要がある。


 ~・~・~


 観測世界線 : η

 魔導王アビスハイムより、周回七度目を記す


 Tのはからいにより、ノアという少女と知り合った。曰く、世界の全てを知悉する存在。我を差し置いて全知全能などと腹が立つが、今は猫の手も借りたい状況だ。

 ノアは我やTと同じように、全ての世界線を観測可能な存在らしい。一般的な事象には干渉できないので直接的に手は貸せないが、特別に情報だけは与えてやるとのこと。


 ノアによると、命神には通常の封印は効かないらしい。

 そこで見当をつけたのが、サーラライト国の姫。彼女は罪神なる神族を身に宿し、如何なる神をも裁くことができるらしい。

 錬象と関わりのある人間だったので誘致しておく。


 命神を罪神の権能により封じ、心神を心なき兵器で屠り、天魔スターチをTの手によって討伐。

 ノアの叡智により戦況は大きく有利に傾いた。


 後は天魔ソウムを屠るのみ……だったのだが。

 二神が復活し、一瞬にして眷属が王都に溢れ返った。


 ~・~・~


 観測世界線 : Θ

 魔導王アビスハイムより、周回八度目を記す


 真なる天魔ソウムの権能は、世界の事象を書き換えること……らしい。

 チートではないか阿保野郎。またしてもノア先生の知恵をお借りし、弱点を把握する。書き換え可能な事象は三つまでとのこと。また、異界の存在はソウムの干渉を受けない。


 そこで試みたのが、異界からの英霊召喚だ。

 悪魔や神を異界から召喚するように、英霊も召喚自体は可能。成功率は低いが、成功すれば或いは。

 召喚できたのは二名。異界と言うよりは別の世界線の英霊を呼ぶことができた。しかしこの二名……アリキソンとマリーは並々ならぬ確執があるようで、連携は取れそうにない。

 困ったものだ。そして我らを新たに妨害した思わぬ刺客……『守天』ゼロ。かつての英雄までもが人類に刃を向けるか。だが問題ない、我が直々に屠ってくれよう。


 さて今回も三大外敵を屠り、異界の英霊をソウムの対処に向かわせる。

 しかしイレギュラーだ。結界が外部より破られた。侵入者の正体は『邪神』ダイリード。続いて、破壊神。


 ~・~・~


 観測世界線 : ψ

 魔導王アビスハイムより、周回n度目を記す


「……くっ」


 ひどい頭痛だ。不要な記憶を切除してはいるものの、もはやXugeとの結合に耐えられそうにない。

 何度繰り返しても、何度繰り返しても……厄滅を超えられぬ。


「大丈夫かい、アビスハイム」


「T……我はあと、何回繰り返せばいい? あと何回で勝てる?」


 返答はない。

 我もやがてTのように、本来の自分をすべて忘れてしまうのかもしれない。しかし民を守る為ならば……ああ、そうか。これがTの見ていた守護者の境地か。


「提案があるんだ。僕も理解しかけているが、厄滅を超えることは不可能に近い。不可能とは言わないけどね。それなら……厄滅を起こさないというのはどうだろう?」


「やれるものならやっているさ。我が眠る前に心神と命神、創造神を殺したこともあった。偽天魔のスターチを事前に殺したこともあった。しかしどうだ? なぜか必ず敵は現れる」


「──因果。この盤上世界(アテルトキア)を取り巻く絶対性。因果を繰る者が存在する限り、戦いからは逃れられない。だから僕は……」


 呼吸。

 Tのたった一つの動作に、万感の思いが籠められていた。


「僕は新たなる創世主(アテルトキア)となる。盤上ではなく安息に支配された世界を構築し、全ての悲劇を断つ。今回の周回ではもう時間が足りないけれど……次だ。次回、僕は厄滅を起こさない。安息の世界を築き、全てを終わらせる。君も……協力してくれるかな」


 覚悟は結構。望みは崇高。

 しかし我はTの性質を知っている。奴は犠牲を容認してしまうことを。


「その計画は……犠牲を生むのだろう。お前のことだ、分かっているぞ」


「十を切り捨て、百を救う。合理的な判断だと思わないかい?」


「ならん。ならば十も百も救う。それが我の在り方だ。安息の世界とやらもどうせ碌な計画ではあるまい」


 奴は我の言葉を肯定も否定もしなかった。

 ただ困ったように笑うだけだ。


「君を巻き込みはしないさ。僕の独りよがりだ。可能な限り犠牲も少なくする。僕が全てを受け止める器になるから」


「……なぜ。なぜお前は、そこまでして世界を守ろうとする? 原動力が分からない。自分を崩壊させてまで……」


 奴は狂人だ。我もまた狂人だ。

 しかし二つの狂気の間に明確な隔たりがある気がした。言語化はできないが、決定的に異なる信念が。世界を守りたいという意志は同じなのに、根幹にある心が異なる。


「君と同じく、世界を護りたいから……なんてのは方便かな。僕は実際、一瞬を取り戻したいだけだ。本来の自分など何も覚えてはいないが、ただ一つ覚えている瞬間がある。あの人ともう一度会うために……僕は、この世界を崩すわけにはいかないんだ」


 分からん。

 我には奴の信念を解せぬ。しかし……遠き日に思いを馳せて彼方を見るTの瞳は、とても慈愛に満ちていた。

 はじめて見た。奴があそこまで感情を表出させた瞬間は。


「……ええい、仕方あるまい! あいわかった! 今回ばかりは我が一歩退いてやろう。お前の野望に力を貸してやろうではないか」


「……犠牲を生む計画だとしても?」


「犠牲は最小限に留めよ。命令だ」


「混沌を集めつつ犠牲を出さないのは不可能だが。……善処しよう。今回の計画ではノアと対立する可能性もあるし、僕と君は可能な限り関わらないように動く」


 一度だけだ。奴の計画を一度試し、駄目であれば……我はもう一度立ち上がれるだろうか。


「それはともかく、今回の輪廻は全力で抗うぞ。厄滅まであと一か月。お前の計画云々は今回の戦いが駄目だった時に考えよ」


「……心得たよ、陛下」



 心神──撃破。

 命神──撃破。

 天魔スターチ──撃破。


 天魔ソウム──撃破。

 再誕心神──撃破。

 再誕命神──撃破。

 邪神──撃破。

 破壊神──撃破。


 ああ、ようやっと。世界は救われた。

 厄滅は退けた。泣きの一回のつもりだったが……ここに至って勝利するとは。Tの安息世界の計画とやらも実行せずに済む。

 これでようやく、終わりだ。


 

 

 ……いや。終わりではない。

 世界を暗黒が呑み込んだ。エムティングが転生し、メロアが変質し、ソレイユ全土を暗黒が呑み込み、対災厄防御術式が紙のように破られた。


 あの日──我は地獄を見た。

 厄滅への勝利は、さらなる地獄を開く因果に過ぎなかったのだ。



 敵の名は──壊世主ゼーレルミナスクスフィス。


 ~・~・~


 観測世界線 : Ω

 魔導王アビスハイムより、周回n度目を記す



 もはや勝利は望めぬ。Tの計画に託すほかあるまい。

 ……しかし奴の安息は破られた。救世者アルスによって。安息は顕現不可能。

 故に、決断を下す。世界はどう足掻いても滅びるのだと。

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