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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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167. Abyss - γ

 観測世界線 : γ

 魔導王アビスハイムより、周回三度目を記す


 始点 : β継続、魔術式アビス起動前

 終点 : 神々激昂


 ~・~・~


 うむ、頭が痛くなってきたぞ。

 流石にこれは酷い。クソゲーにも程がある。一体でも苦戦する化物が三体だと?


「はあ……おい大臣。我は魔術式アビスとなって眠るが、一つ頼まれよ。闇属性に強い魔鋼を五千年後に大量に集めるように伝承しておけ」


「ヤミ属性、ですか? 聞き覚えのない属性ですが」


「五千年後には存在している属性だ。国中を覆えるほどの魔鋼の用意を頼んだぞ」


「は……ははっ!」


 さて寝るか。

 記憶が混濁し過ぎている。たった二人の自分を統合したに過ぎないが、一万年だからな。あと五千年……か。


 ~・~・~


 新たに王として即位し、今度は天魔の闇に耐え得る壁を建造させる。

 次いで心神を攻略する心を持たぬ兵器を造り、命神を封印する算段を立てる。


 だが、なんだろうなこの不気味さは。かなり周到な用意をしても、まだ勝てる気がしない。こちらも敗北が続いて気が滅入っているのかもしれぬ。

 そんな折、リリスから報告があった。


「陛下。謁見希望者が」


「どうせまた歴史オタだろう。お帰り願え」


 伝説上の人物である魔導王アビスハイムが即位したと知り、こうして見物に来る人間が後を絶たない。外国の外交官も大量に押し寄せてウザい。いっそ外交関係をすべて断絶してやりたいレベルだ。


「それがですね。二神と天魔の侵攻を防ぐべく、共闘を申し出たいとのことです。なんのことやら拙には分かりませんが……」


「……通せ」


 真実を知る者か。いったい何奴だ?

 まだ外敵の情報は誰にも話していない。黙々と侵攻へ備えているだけだ。


 玉座の間へ入ってきたのは……異様な男であった。

 外見上は特に不審な点はない。真っ白な髪と瞳を持つ……少年、か?

 しかし気配が感じられぬ。魔力も意思も、何もかもが希薄。まるで幽霊か蜃気楼でも見ているかのようだ。奴は深々と一礼し、美しい瞳で玉座を見上げた。


「こんにちは、魔導王アビスハイム。僕の名はT。世界の放浪人、救いを冀う者。共に戦おう」


 ~・~・~


 Tと名乗った男は、自らの経歴を隠しつつ我に目的を語った。

 二神と天魔による侵攻……奴が定義するところの『厄滅』を防ぐこと。つまり我と同じ目的だ。


 Tが如何なる手段を以てして我の企てを知ったのか、世界の敵を知ったのか……何も語らない。


「魔導王よ。共に『棄てられし神々』を倒し、ソレイユを救い、世界を救おうじゃないか。その為ならば僕は何度でもXugeを輪廻しよう。全てを犠牲にしよう」


「ふむ……Tと言ったか。お前の言葉は重い。志も立派なものだ。しかし、我はお前を信用していない」


「……なぜ?」


 この男は知識を持っている。力を持っている。

 だが、決定的に欠落しているものが一つ。


「お前は我に目的以外、何も語っていない。自分の身の上を、素性を、情報源を……語っていない。故に我はお前の言葉を信用できん。要するに好感度不足だ。敵のスパイであると疑われても仕方ない。もっと日常パートで俺との絆レベルを上げよ」


「なるほど。絆……か。ああ、長らく忘れていた言葉だ。しかし君が厄滅を乗り越えるために絆とやらを所望するのならば、僕は努力しよう。実現できるかはともかくね」


「いちいち癪に障る物言いをするな、お前は。まあよい。我は獅子身中の虫すらも受け入れる。まずは我が配下として過ごし、信頼を勝ち取って見せよ」


 本格的な侵攻を前に、絆などと言っている暇があるのか。

 自分でツッコミそうになったが信頼関係は大切だ。臣民なくして王は成り立たぬ。


 ~・~・~


 約二週間後。


「T、例のアニメは見たか? なかなか良作であっただろう」


「一応見たが、何も感じなかったよ。こんな話をしている場合じゃないだろう? 早く厄滅に備えないと……」


「相変わらずノリが悪いな……お前は。あの感動シーンを見て何も感じないとは……お前の心は大森林に築いた魔鋼よりも硬いな!?」


「さて。まもなく神々の侵攻が始まる。僕の考えによると、今回はまだ勝利できないと考えていい。君はたしか二回しか厄滅に挑んでいないのだったね。僕は十回以上は挑んでいるが、この程度の準備では不十分だ」


 華麗に話題を受け流し、Tは常に真剣に問題に向き合っている。

 曰く、奴は我よりも遥かに多く厄滅を迎えているらしい。今回の問題の対処に限っては大先輩にあたる。Tの一周分のXugeが何年分なのか分からないが、一周あたり五千年の我よりはマシだろう。


「では打開策を聞こうか。我が臣下よ」


「それは僕と信頼関係が構築できたと捉えてもいいのかな?」


「完全に信用はしていないが、生真面目な働きと姿勢を評価し……お前を信頼に足る臣下と認めよう。さあ、進言せよ。はよはよ」


 Tは呆れつつも新たなる策を進言する。


「結界を構築する必要がある。このソレイユ全土を覆う結界をね。僕のXugeの観測によれば、神を追い詰めても国外に逃亡されてしまう時があった。まずは敵の隔離を優先すべきだろう」


「国中を覆う結界だと? 流石に我の魔力でも厳しいが……」


「だろうね。君が五千年眠っている間に魔力を充填してもらうしかない。今回は諦めて、次の周回に生かそう」


 簡単に言ってくれる。

 ソレイユ全土を覆いつつ、神すらも破れぬ結界を維持し続けるなど……不可能に近い奇跡だ。しかし民を守るためならば仕方あるまい。我は奇跡でもなんでも起こして見せよう。


「まったく……五千年の輪廻をもう一度繰り返せと言うのか?」


「僕の輪廻は一周、二千八百年だ。総合的な年数で言えば君よりもずっと苦労しているとも」


「なにっ!? そ、そんなに長い時を……別の世界線の自分と記憶を連結させ続けて……気が狂わんのか?」


 思ったよりもずっとTは長い時を生きていた。

 二千八百年生きた自分の記憶を十回以上も継ぎ接ぎしているという。なんという精神力か。我ならばとっくに廃人になっていよう。


「もう狂っているよ。もはや本当の自分がどんな存在だったのか、どんな人間だったのか、そもそも人間だったのか。それすらも分からない」


 よく理性を維持できているな。いや、維持しているように見えているだけなのか?

 自分の魂を犠牲にしてでもTは世界を守ろうとしている。畏敬すべき精神だ。これまで我はこの臣下を軽視しすぎていたのかもしれない。


「……さあ、次だ。もちろん今回も全力で応戦するが……何かしらの形で敗北してしまうだろう。僕は二千八百年後に、君は五千年後に。再びここで会おう。魔力を貯めて結界の準備を忘れないようにね。僕も神に破られない術式を考えておこう」


 かくして此度の世界線は終わる。

 敗因は、命神が本気を出したことだった。これまでは命神が使役できるメロアは一匹だけだと勘違いしていたが、奴が本気を出すと無数のメロアが飛来してきた。手加減されているだけだった……ということだ。次回の改善点の一つだな。




「──Xugeを起動。δ世界線へ託す。『不敵の複合(アゾルヤ・クージ)』」


 ……次こそは。

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