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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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166. Abyss - β

 観測世界線 : β

 魔導王アビスハイムより、周回二度目を記す


 始点 : α継続、魔術式アビス起動前

 終点 : 天魔接敵


 ~・~・~


「……む」


 覚醒する。どうやら玉座に座っているようだ。

 ……頭が重い。なんという情報過多か。


 およそ五千年にもわたる別世界の我の記憶が流れ込んできた。おのれ、別世界線の我め。こんなに情報を注ぎ込まれても処理しきれんわ。


「陛下、いかがなさいました?」


 顔を顰めた我に傍の大臣が語り掛ける。まだこの身が魔術式アビスとなって眠る前……我が初代国王として在位していた頃か。

 いや、よい。好都合だ。


「しばし人を払え。考えたいことがある」


「承知しました」


 まずは情報整理を。遥かなる未来で見た惨状。

 あれなる惨劇を防ぐべく、我は奔走せねばならない。敵の名は……心神・命神と言ったか。あらゆる情報を探らねばならない。

 探せ、探せ、探し続けろ。幸いあの日までは五千年もの時がある。


 魔導王の本気、見せてやろうではないか。


 ~・~・~


 あらゆる策を講じた。

 まず第一に、我が復活する具体的な日時を指定。その日に我を出迎えるよう伝承させておく。

 次に、天廊の建築を禁ずる。神々の侵攻があった日のほとんどの被害は、建築物の倒壊によるものだった。基準点に達する高さの建築を禁ず。


 そして眠りにつく。魔術式アビスとなって世界を凝視し続けるのだ。

 主に観測すべきは二神。結論から言うと、心神・命神は共に善良な神であった。少なくとも生前は。



 まずは心神クニコスラについて。

 奴は心を司る神。しかしながら心の本質が分からず、人の感情を均等に配分しようとした。それ故に人に苦悶を強制し、謎の存在によって裁かれた。

 眷属の名はエムティング。災厄との争いでエムティングは奔走し、世界を守る守護者となったようだ。特筆すべきは耐久力。星・天属性の攻撃を食らわなければ無限に再生する。災厄戦では優秀な壁役であった。

 神定法則は【情意の鍵】。心持つ者からの抵抗を無効化する。


 次に命神メアについて。

 奴は命を司る神。愛する人を無限に生かそうと企み、謎の存在によって貫かれた。

 眷属の名はメロア。彼の蛇竜も同じく強靭な耐久性を持っていた。肉体・魂どころか根源を破壊しても死なぬ。巨体によって災厄を妨害した働きは見事であった。

 神定法則は【無限命】。詳細は分からぬが、とにかく根源を滅ぼしても死なないらしい。


 二神の言動を窺う限り、奴らは正しき心を持ち、人々を守るべく戦っていたと思われる。

 では、何が奴らを邪へ染めた?

 何が奴らを蘇らせた?

 こればかりは未来で直接明らかにせねばなるまい。


 ~・~・~


 五千年の眠りは長かった。

 二度目の目覚めだ。計一万年の生……年寄りどころではないぞ。前回の目覚めと寸分たがわぬ時刻。


「おお……その高貴なる魔導の紋様、深き海のごとき髪色! 魔導王アビスハイム様!」


 前回と違う点は一つ。

 我を出迎えた大勢の人間がある。


「ふむ、お前は当代国王アズテールだな。我は地上の全てを見ていたぞ。出迎えご苦労であった」


「ははっ! わが国の危機に際し、よくぞおいでくださいました! ……とは言いましても、何の危機が迫っているのか私は認知していないのですが……」


「危機は我が予見眼が見ておる。お前が憂うことはない。さて、王位を一時的に我へ預けることはできるか?」


「はっ! 私は無能ゆえ、王冠を戴くはアビスハイム様が相応しいかと」


 当代国王アズテールは無能だ。しかし正直者でもある。

 此度の危機において玉座に座らせることはできぬが、我が役目を果たした後は元通り奴に王位を返還するとしよう。



 即位してからは急ピッチで準備を進めた。

 まずはエムティングに対抗するための兵器の製造。星属性と天属性を刻印した魔道具を開発。わが国の高度な魔導を以てすれば容易いこと。

 次に壁の建築だ。エムティングの群れは海洋から迫っていたように思われる。メロアは防げないが、大森林あたりに壁を建造しておけば侵攻はそれなりに防げるだろう。


「陛下。命神の文献を集めました。しかし碌な情報がありませんが……」


 リリスなる魔導星冠から報告を受ける。

 エムティングの対処法は確立されたが、メロアの対処法は……封印だろうか。


 或いは命神本体を滅すれば……


 ~・~・~


 ──あの日が再びやってきた。

 瞬間的に神気が満ち、海洋の方面から凄まじい気配が迫ってくる。


 しかし今回はソレイユを守り抜く。見よ、大森林に築き上げた壁を。

 メロアの攻撃にも耐え得る強固な壁上に立ち、海洋より迫る軍勢を見据えていた。


「兵よ! 我が後に続け……臆するな!」


 士気は低い。

 突如として即位した新国王に戸惑いを隠せない者や、軍を抜けた者も多い。無理もないことだ。わがカリスマを以てしても数多の人間をすべてまとめ切れるわけではないのだから。


 しかしリリス星冠導師が魔道具を用いてエムティングを屠った光景を見て、士気は僅かに高揚した。やはり希望を見出せたのは大きい。

 徹底抗戦だ。確実にエムティングを屠り、二神を殺す。



『……なぜ』


 心神を追い詰めている。

 我はとある人材をソレイユへ招き、奴への対抗策を講じていた。自律型戦闘アーティファクトの作成。八重戦聖の一角、『錬象』と連携を取って心神との対戦機能を搭載したのだ。アーティファクトは心を持たない。故に攻撃が通る。


「フハハッ! 浅ましき神よ、わが国へ手を出したことを悔やみながら死ぬがよい!」


 脅威度は命神よりも心神の方が上。単純に眷属のエムティングの数がメロアよりも多いからだ。

 このまま超高性能のアーティファクトを駆動し、奴を……


「──干渉空谷、『黒闇』」


 心神を、倒すはずだった。

 しかし目論見通りにはいかず。


 周囲を闇が呑んだ。兵士もエムティングもアーティファクトも、全てが闇へと沈んでいく。

 はては高く築き上げた壁も闇に吸い込まれ……


「ああ、油断してはいけないよ。人の力を侮ってはいけない。心神、君はいつも死にかけの獣の力を甘く見すぎなのだよ」


『あら、天魔さん。手助けなんて要らなかったのに』


 新手の登場。

 ……なんということだ。まだ脅威が潜んでいたとは。


「何者だ、お前は」


 神ではないな。邪気を操る人間か。


「六花の魔将が一……『天魔』。偉大なる魔導王、まさか復活神話通りに蘇るとはね。だが悲しいかな、我らの前には魔導王さえも無力だ」


 ──これより先は書き記す意味もあるまい。

 闇属性の魔術に耐え得る壁の建造を行っておくべきだった。ただそれだけ。


「──Xugeを起動。γ世界線へ託す。『不敵の複合(アゾルヤ・クージ)』」


 またしても民を守り切れなかった。

 たとえ我ひとり生き抜いたとしても意味があるまい。


 さあ、次なる五千年を歩もう。

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