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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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156. 六花終焉

 破壊神の真の姿が露になると共に、ソレイユ離島に振り出した白黒の雪。

 冷たい六花はATが降らせていた灰と溶け合い、柔らかな光を発する。アルスの手の平に落ちた光は、すぐに溶けて消えた。


「これは……?」


「親父は元々、雪の精霊と融合した神族だったらしい。この六花剣アクァーリも親父の力を籠めて作られた物だ」


 ジークニンドは剣の切っ先を大樹へ向けて答える。


「白い雪が本来の創造神の神聖を、黒い雪が破壊神の邪悪を示す。破壊神が本性を現したことで、魂の力が雪になって降り出したんだろう。この二つが混ざり合った時……混沌と秩序は相克し、救済の力へと変化する。救済の力は言い換えれば、『因果が存在しない状況』。つまり、どんな強大な存在も因果に囚われた盤上世界(アテルトキア)において、救済の力は何者をも終わらせる効力を持つ」


 サーラは理解していないようだったが、アルスとATには理解できた。つまり、島全体が救済の光に包まれたこの状況ならば、破壊神を倒すことができると。


「……俺の六花剣で破壊神の魂を斬る」


「ならば私たちが道を切り拓こう。サーラ、行こう」


「うん……! 大丈夫、いけるよ!」


 ジークニンドに全幅の信頼を置き、鳴帝と守天は駆け出した。

 ATは依然として安息世界を維持し、破壊神の権能の一部を封じている。しかしもしもの場合……ジークニンドたちが破壊神を倒し損ねた場合。

 彼は動かなければならない。


「そこのお前……そういや名前、聞いてなかったな」


「ATだ。行って来るといい、ジークニンド。これは君の戦いだろう」


「おう! AT……不思議なやつだな。でも、悪い奴じゃないのは分かる。そう心配しなくても……俺は失敗しないから大丈夫だ。じゃ、頼んだぜ!」


 守りたい。

 ただ一つの願いが、ジークニンドを最後の戦いへ駆り出した。


 まだ雪は降っている。


 ~・~・~


 アルスは迷わずに巨大な大樹へ飛び込んでいく。

 雪と灰の間を縫って、破壊神の枝が勢いよく伸びた。


「不敗の王──『彗嵐の全構え』」


 槍を巧みに捌き、凄まじい威力を持つ枝の刺突を受け流す。

 人間体の時は多少の判断能力があったようだが、今の破壊神には完全に理性がない。攻撃を流すのは先程よりも容易になっている。


 しかし問題は肉体の肥大化。魂が何処にあるのか判別がつかず、また一撃で幹や枝を断つことは不可能に近い。ジークニンドの火力を信じるのみだ。


 次第に接近するアルスを退けようと、破壊神は邪気を発動。本能的な権能の行使だった。海中に沈んだ根に邪気が収斂し、地殻へ伝播──大規模な振動が起こる。

 直後、地中から溢れんばかりの溶岩が噴き出した。降り頻る雪を焼き尽くし、天へと舞い上がった超高温の液体。まともに喰らえば肉体の破壊は免れない。

 しかしここで回避行動を取れば、アルスは前へ進めなくなる。ジークニンドの進路を切り拓くことも難しくなるだろう。


 やむを得ず彼が回避しようとした時、その時。


「迷わないで。傍には(アタシ)がいるから」


 声が聞こえた。仲間の声が。

 迷うな、前へ進めと。


「フェルンネ師匠から教わった通りに……魔眼解放──α因子『絶対空域(ルアルトルケ)』、β因子『根源波濤(ナレムファゲリュン)』」


 アルスの後方で魔力が渦巻き、何かが破けるような音が聞こえた。

 サーラの瞳が視ているのは眼前のアルスでもなく、破壊神でもない。この戦場に渦巻く全ての気。白い雪と黒い雪が混ざって、救済の力へ変わるように。

 自分の魔力もまた混成させ、一つの結論へ昇華させる。


 アルスは彼女を信じ、前へ。

 一拍置いて……世界で初めて観測される術式が行使された。即ち、理外魔術。


「未来を拓いて──観測、『守天時空海(ゼロ・ルアゲリュン)』!」


 天より降り注ぐ溶岩を防ぐように、ドーム状の()が展開。

 空間を捻じ曲げてサーラの意志のままに広がった青。絶対に破られることのない、天空を制する無間の蒼海。


「ありがとう、サーラ……!」


 溶岩だけではなく、破壊神の枝と根の刺突すらも跳ね除けた理外魔術。アルスは仲間の力を信じて進み続けた。


 やがて海が消える。眼前には破壊神の巨大な幹。

 背後にはジークニンドが続いている。ここで一切合切の破壊を引き受けるのが彼の役目だ。


「破壊神オズ・ナドランス! 鳴帝の名にかけて君を救う!」


 敢えて破壊神の気を惹き、全ての殺意を我が下へ。

 ジークニンドは未来そのものだ。彼を守ることが世界の未来を拓く。たとえこの身にどれだけの苦痛が降り注ごうとも……必ず創造神と世界を救う。

 立ち向かう。


 悍ましい邪気と、懐かしい魔力が折り重なり……真っ直ぐに木の枝がアルスへ伸びた。これまでの中で最も重く、恐ろしい呪いの一撃。

 逃げはしない、真正面から迎え撃つ。神槍ティアハートを仕舞い、神剣ライルハウトを呼び出す。


 精神統一。魔力収斂。戦意増幅。

 遍く己を神剣に宿し、魂を奮い立たせ。

 蒼き輝きが剣身に宿された。


「破滅の型、最終奥義──『払暁』」


 身体は勝手に動いていた。

 滅びぬ者など存在しない。たとえ神であろうとも。


 終わりの時が来たのだ、創造神。

 闇は払われ、暁が来たる。


「我が剣筋、即ち世界の歩む道。さあ……往け、ジークニンドッ!」


 眩い蒼の輝きが明滅。破壊神の枝は断たれた。

 後は進むべき者を進ませるだけ。


 まだ雪は降り頻る。


 ~・~・~


 まぶしい。

 アルスの剣閃の輝き、雪と灰が溶け合って生じる光。邪悪に囚われた神との戦いとは思えぬほど、戦場は明るかった。

 思わずジークニンドは目を細めるが、視界は前を向いたまま。


 彼を進ませるのは『絆』。

 記憶を失い、取り戻し。色々な人と出会った。ここで自分が負ければ、彼らの笑顔が奪われる。父親も永遠に闇の中で苦しむことになる。


「させるかよ……」


 いったいどれほどの人が、この厄滅の裏で死んでいるのか。泣いているのか。

 傍にいる仲間を想うほど、ソレイユで戦っている友たちを想うほど、人々のことを想うほど……六花剣の輝きは増していく。

 自分が役割を課せられたから破壊神を屠るのではない。守りたい人がいるから破壊神を屠るのだ。


 アルスが切り拓いた道へ、ジークニンドは迷いなく踏み込んだ。

 視界が晴れる。眼前には破壊神の──


「っ!」


 枝。まだ残っていた細い枝が、ジークニンドという脅威を排除しようと動いていた。

 魂の位置は六花剣の加護により視えている。幹の中心だ。ここで枝を躱して退けば、きっと剣は届かない。再びアルスが斬った枝を再生し、防御されてしまうだろう。


 覚悟を決める。踏み出せ。

 枝が己の肉体を串刺しにしようが、剣先が届けば戦いは終わる。

 だから……


「ぬ……おおおおおおぉっ!」


 巨大な人影が、眼前より迫る破壊神の刺突を受け止めた。

 腕を交差させ、重い呪いの一撃を全霊で受け止めた漢があった。


 どうして彼が動くなどと想像できようか。彼は彼自身の意志で動いたのだ。彼がもはや神の操り人形ではないと、証明した瞬間だった。


「……ありがとな、ダイリード」


 友の横を通り過ぎ、ジークニンドは進む。

 全てを終わらせるために。


 届く。幹の至近距離まで迫ったジークニンドは、破壊神の最後の抵抗と言わんばかりの邪気を薙ぐ。

 あと──零歩。もう六花剣アクァーリは破壊神の魂に届く。


「終わりだ、破壊神!」


 救済の剣、破壊を斬る。

 破壊神の自壊機構は役目を終え、同時に六花剣アクァーリは塵となって消滅していく。


 天を衝く威容が邪気となって消えていく。

 呻きと、叫びと、慟哭と。英雄の悲鳴、そして神の嗚咽が混じり合い。



 いつしか雪は降り止んでいた。

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