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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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155. 対『破壊神』

 ジークニンドが全ての力を解放すると同時、破壊神を拘束していた檻が弾ける。


『忌まわしい。破壊、の……邪魔を……』


 真正面から迫った邪気の波動。アルスは後方の皆を守るべく、自らが最前線に立って邪気を防ぐ。

 やはり凄まじい重圧だ。


「ジークニンド! 君の力なら……破壊神を倒せるのか!?」


 アルスの問いにジークニンドは首肯しかねる。

 彼の手にしている紫色の神剣……『六花剣アクァーリ』ならば、たしかに破壊神の魂を裂くことができる。しかしジークニンドの足は前へと進まない。

 きっとこの先へ進んでも、まだ何かが足りない。何かが破壊神の破壊を拒んでいるのだ。


 足を踏み出せずにいるジークニンドの隣に立つAT。彼は破壊神ではなく、破壊神の周囲を見つめていた。


「さて、ジークニンド。君が踏み出せない理由はただ一つ。破壊神を縛る枷を斬る必要がある」


「枷?」


「【救済の接続】を僕に。僕の視界を君と共有しよう」


「俺の権能までぜんぶ知ってるとか、お前何者だよ……まあいいや。【救済の接続】」


 ジークニンドの接続の権能は、他者とあらゆる能力・感覚を共有すること。

 今回は一方的にATの視界を借り、改めて破壊神を見据えてみる。


 視界に映ったのは、無数の黒い……


「……茨?」


 空から伸びる黒い茨が、破壊神の全身を覆い、拘束していた。

 本能的に断言できる。(アレ)はこの世界の理にないもの。アレを断てば、破壊神を殺すことができるだろう。


「君の役目は茨を断ち、破壊神の魂を斬ること。……できるね?」


「おう、もちろん! イージア、サーラ! 俺の動きを補助してくれ!」


 阿吽の呼吸で六花の将たちは動き出す。

 目的はジークニンドの守護。事情があまり分かっていないサーラだが、今のジークニンドが常ならざる力を得ていて、破壊神を攻略する鍵になることは理解できた。


「任せて!」


 破壊神と真正面から相対して戦い続けるイージアへ、サーラは身体強化を付与して戦場を観察する。周囲は海。ならば彼女の水魔術は十分に威力を発揮できる。


『人間に呪いを』


 破壊神が呪詛を口ずさむと同時、周囲一帯の岩石が浮かび上がり、邪気に染まって射出される。

 一撃でも岩石を浴びれば魂は汚染され、体も動かせなくなってしまうだろう。


「青霧覆滅──!」

根源波濤(ナレムファゲリュン)!」


 暗黒と青が鬩ぎ合い、大規模な衝突を巻き起こす。

 とてつもない重圧を誇る破壊神の攻撃をすべて往なし、ジークニンドを前へ進ませなければならない。降り注ぐ砂礫、大水、青霧の中を疾走するジークニンド。彼は六花剣を茨へ勢いよく振り下ろす。


「はぁあああっ!」


 存外に硬い。

 神剣でも斬るのにそれなりの魔力を籠める必要がありそうだ。ようやく一本目の茨を断ったジークニンドは、即座に身体の向きを転換。次なる茨を斬りにかかる。


 しかし破壊神も一方的に攻撃を浴びているわけではない。自らを覆う茨が亡くなった時、即ち死。崩壊している理性の中でもそれだけは分かっていた。

 破壊神の周囲に浮かんだ黒き影。


『黒き、幸運が招く──』


「っ! ジークニンド、下がれ!」


 戦いを観察していたATが叫ぶ。

 破壊神を取り巻く気流が急変化し、ジークニンドの動きが乱れる。茨を斬ろうとしていた剣先が勝手に動き、本体の破壊神へと吸い寄せられる。


「チッ……【救済の放出】!」


 邪気がジークニンドを捻り潰そうとした刹那、白光が暗黒を貫く。

 身体から発せられた救済の力が、破壊神の邪悪なる重圧を退けた。同時にアルスは変化した気流を戦意によって捻じ曲げる。


「我が身に宿れ、『不敗の王──穿魔の鬼』!」


 邪気を穿ち強引に脱出口を生成。

 アルスはサーラとジークニンドを誘導し、一旦破壊神から距離を取る。


「急に破壊神の周りの気流が変わったね。アタシたちの攻撃も全部、強引に捻じ曲げられちゃう」


「黒天の神能、『幸招(さちまねき)』は依然として健在なようだ。僕が何とかしよう」


 ATは己の力を解放し、離島の周囲に拡散させる。

 オズの神能は厄介だ。周囲の事象を捻じ曲げ、全てを己に引き寄せたり、引き離したりする。これでは茨が断てない。


「創立せよ、『安息世界』。創世機構解放──」


 オズの神能を創世の力により否定する。

 さきほど天魔と戦った際と同じだ。このソレイユ離島を疑似的な安息世界へ変え、己が創世主として神能を否定してしまえば良い。


「『地真実灰・開闢』」


『──!』


 灰色に染まる。

 天空より灰が降り注ぎ、黒天の神能が消滅。同時に周囲の邪気が大幅に減衰した。


「おお、こりゃすごい! お前、最初からこれやってくれよ!」


「……悪いね。あまり見せたくはなかったもので」


 ジークニンドの称賛を受けてもATの表情は優れない。

 アルスも同じだった。どこか──ATの権能に違和感を感じていた。


「よし、もう一度茨を斬りにかかる! いくぞ!」


 目にも止まらぬ速さでジークニンドは駆け出す。アルスも悩みを振り切り、再び破壊神へ接近。

 神能を停止させられた衝撃ゆえか、破壊神には大きな隙があった。ジークニンドは隙を見逃さず、六花剣にて二本目の茨を断つ。


『……憎い!』


 力任せに振り抜かれた破壊神の波動。

 サーラの水盾が波動を減衰し、アルスが裂く。このまま上手く連携が取れれば、いずれ全ての茨を破壊できるはず。


「【救済の衝動】」


 仲間たちの補助を受け、ジークニンドは急加速。

 己が理性の枷を一時的に外し、本能のままに茨を斬り裂いた。残るは一本。


 彼の能力は既に神族を凌駕していた。

 六花剣アクァーリは戦えば戦うほど輝きを増していく。誰かを守りたいと願うたびに、父親を救いたいと願うたびに。

 破壊神との戦いの中で彼は成長していく。


『俺の……呪い……消えぬ……』


 己が生命を脅かす生命たちを前に、破壊神の力は弱まっていく。

 ジークニンドとは対照的に、戦いの中で衰退していたのだ。茨が断たれ、己が力が失われていく。憎悪が薄まっていく。

 このままジークニンドが最後の茨を断てば、戦いは終わるだろう。



 立ち尽くして戦場を眺めていたダイリードは、かつての主が死んでいく過程を瞳に焼き付ける。

 自分は主に手を出せない。仮にも五千年間、忠誠を誓ってきた者の肉体だ。たとえ中身が創造神ナドランスでなくとも、傷付けることはできない。

 しかし彼は異変に気が付く。破壊神の肉体の一部がひとりでに崩れていることに。


「あれは……神転の兆候? ……! 離れろ!」


 ダイリードが叫んだ直後、ATとジークニンドは異様な光景を見た。

 残り一本の茨が破壊神の身体から離れ……丸まって肉体に埋め込まれたのだ。


『グ……オオオオッ!? 嗚呼、憎い……! 呪ってやる、呪ってやる、呪って、呪って……! アアアアアアアアアアアッ!!』


 絶叫。悍ましき怨恨の叫びが木霊した。

 刹那、ジークニンドは危機を察知して退避行動を取る。


 【救済の干渉】によりアルスとサーラに干渉し、自分と共に破壊神から遠ざけるように転移させた。

 茨が破壊神に埋め込まれた光景を見たAT。彼は戦況の悪化を悟る。


「まさか……ここまで意地が悪いとはね。なんとしても己を解放させる気か……」


 人間体の破壊神が崩壊し、邪気が膨れ上がっていく。

 神転。神としての本来の姿を取り戻す。


 破壊神の肉体はどこまでも肥大化し、天を衝く。

 最終的に出来上がったのは大樹。創造神ナドランスの本体と形は同じくして、葉は赤黒く染まっている。漆黒の枝が手足のごとく伸び縮みし、全ての生命を破壊せんと唸る。


「うそ……どうやって倒せばいいの……?」


「……大丈夫だ、サーラ。私たちは負けない」


 根拠のないアルスの言葉。

 しかし彼の意見にはATもジークニンドも同意だ。たとえ相手がどれだけ強大であろうとも、困難は乗り越える。そうでなければ世界は護れないのだから。


「……クソ。親父の裏に居んのが黒天だろうが、何だろうが……これ以上! 創造神ナドランスを侮辱するんじゃねえ! 何としても俺がここでお前を終わらせる……!」


 物言わぬ大樹へ向けてジークニンドは怒号を飛ばす。

 この場に居る誰もが同じ気持ちだ。破壊神が生み出す悲劇には、ここで終止符を打つと。



 彼らの想いが一つになった時、白と黒の雪が降り出した。 

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