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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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151. 破壊神降臨

 猛烈な速さで、水平線の彼方より悪意が迫る。

 其はこの世の全ての怨恨を煮詰めた邪悪。果てしなき呪いの権化。


「これ、は……まさか」


 アルスは身震いする。

 あまりに純粋で、あまりに残酷な殺気。一瞬でソレイユ離島の空気が冷え切った。

 ダイリードからすれば、この百年間で慣れた気配だ。


「……我が主、破壊神。イージアにサーラよ、汝は主を救いたいと言うのか。あの悍ましい気を見てもなお、救うことができると思うのか」


 人型の矮躯、されど気配の大きさははかつての創造神をも凌駕する。

 赤錆を塗りたくったような髪が風になびき、其が通った海はどす黒く染め上げられる。瞳は胡乱、理性はない。

 かつて何度も笑い合い、慕った創造神と同じ姿だ。しかし全身が邪気に汚染され、かつての慈愛は見る影もない。


「……っ! あれが、主……そっか。もうあんなに……汚れちゃったんだね」


 サーラは破壊神の変わり果てた姿に目を逸らさなかった。

 アルスもまた彼を救うと決めたのだ。ダイリードはとうに主に従い続けることを決めた身だが、それでも破壊神となった主の容貌は痛ましかった。


 破壊神は生命体の気配を感知し、ソレイユ離島に着陸する。


『…………人間の、気配』


「……やあ、創造神。久しぶりだな。私のことは覚えているか?」


「アタシも! ねえ主、アタシのこと覚えてる? サーラだよ!」


 無駄だ。彼らの言葉は届かない……傍のダイリードは分かっていた。

 なぜなら、既に創造神はこの世に存在しないのだから。同じ姿をしていても、中身は全くの別物。


『人間を、呪う。憎悪、俺の……』


 闇の奔流が爆ぜた。

 同時、破壊神は眼前の生命体を滅ぼさんと動き出す。対話を試みるアルスへ、衝動のままに波動を放出。


「っ……!?」


 攻撃を仕掛けられることはアルスも警戒していた。

 故に青霧で波動を受け流すつもりだったが……重い(・・)。ひたすらに重い。時間を無効化する青霧すらも貫通する重圧。彼の魂が悲鳴を上げる。


「呪詛を払え、安息の風」


 重圧を受けるアルスを守るように、混沌の力に満ちた風が吹く。風は破壊神の邪気を払い、アルスを重圧から解放した。

 駆けつけたのはAT。天魔ソウムは彼の手によって討伐された。リリスは国内へ戻り、魔導王の援護へ向かったようだ。


「無事かい、アルス」


 アルス。ATからイージアではなく、その名前で呼ばれるのは些か不思議な心持だ。

 ダイリードもサーラも彼をイージアと呼ぶが故に、違和感は一際強かった。


「助かった。やはり創造神の裏にあるのは……オズ! 聞こえているか!」


『オズ……? 俺は、オズ・ナドランス……全てを破壊する者。俺は、誰……』


「死帝から真実は聞いた。君は祖国と友に裏切られ、無念の死を遂げたのだと。君の憎悪は理解できる。しかし、神を支配してまで殺戮を起こせば……君の味わった死の理不尽を、多くの人にそのまま強いてしまうことになる! 英雄オズとして、これ以上の暴虐は……」


 再び殺意が迸る。

 アルスの言葉はどこまでも正しく、どこまでもオズの憎悪を掻き立たせた。正道を外れた者に正義を説くほど愚かなことがあろうか。


『英雄、忌まわしい……嗚呼、苦しい! 何度、何度繰り返す!? 呪ってやる、呪って……!』


 力任せに破壊の権能が行使された。

 破壊神の周囲にあった木々や巨岩が捻じ曲がり粉砕される。同様に破壊の重圧を受けたアルスたちは、再びATの補助により死を免れる。


「アルス。言葉は逆効果だ。アレはもはや意志ある者ではなく、衝動的に破壊を撒く災い。力を以て沈めてやるしかないだろう。もっとも……」


 ATの表情は険しい。


「あの破壊神は僕らじゃ倒せない」


「倒せないってどういうこと!? せめて動きを封じることができれば……」


 サーラは未だ諦めていない。

 たとえ創造神の理性を戻す手段がないにせよ、相手は神族という個の生命体。討伐自体は可能なはずだが……


「守天の片割れ、君には見えないだろうけど……破壊神を操っているのは『黒天』だけではない。大いなる意志の糸繰りを断つ存在が必要だ。たとえ破壊神の魂を砕いたとしても、修復されるだけだろうね」


「……なるほど」


 アルスは納得した。彼には視えていないが、ATだけに視えているモノがある。

 冷静に考えればオズがいくら憎悪を抱こうが、神を操れるのは異常だ。他に何らかの力を借りて創造神を支配したと考えるのが妥当だ。


「うー! どういうことか分かんないけど、アタシは何をすればいいの!?」


『…………壊れよ。全て、破壊を』


 混乱する一同に対して、破壊の権化は手を緩めず。

 破壊神の肉体が暗黒に包まれ、黒き触手が伸びる。触手は島を覆い尽くし、生きとし生ける者を全て粉砕せんと叩き付けられる。


 アルスは青霧を、ATは混沌の結界を、サーラは水壁を展開。

 破壊神の触手の乱打は次々と彼らの守りを打ち破り、粉砕していく。アルスは強引に呆然と立ち尽くすダイリードを引き込み、敵味方を問わず生命を襲う触手から守る。


「イージア、我は捨て置け。主の手によって死するが本望というもの」


「断る。君は再び立ち上がらねばならない。死なせてなるものか」


「…………」


 ダイリードはもう何もする気がなかった。

 見よ、破壊神の凄まじい力を。創造の力を反転させ、大いなる存在の加護を受け、英雄の呪いを宿した力を。もはや誰にも止められぬ。

 ソレイユも世界も何もかも、やがて破壊されるのだ。


「AT! もう青霧が持たない! 何か打開策は!?」


「……大丈夫。もう一つの救済が来るよ」


 触手の大攻勢を防ぐアルスは限界に近い。

 サーラとダイリードを守りつつ、破壊神を倒すことも不可能だ。


 ならばATが信じる存在とは──


「──救済の領域」


 光が満ちた。

 あたたかで眩い白光だ。


 離島全体を包み込んだ輝きは触手を消し飛ばし、アルスたちの身を守る。


「この光は……!」


 知っている。

 混沌と秩序の力を織り交ぜた、この盤上世界(アテルトキア)において最も優れた力。全ての闇を払う白き救い。


「お、みなさんお揃いじゃねえか。さーて……ついに俺の役目が果たせるってもんだ。なあ、親父……苦しいだろ? 今、俺が解放してやるからな……」


 六花の根源、ジークニンド。

 破壊に終焉を齎す救いが訪れた。

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