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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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145. 徹底抗戦

 巨獣が彼方より迫り来る。

 波を掻き分け、天を裂き。白き獣がやって来る。


 かつて『光神』と尊ばれし六花の将。

 今や『邪神』と蔑まれし六花の魔将。

 名をダイリード。


「これより先、破壊は非ず。ダイリード……君が殺意を以て進むのならば、私が止めねばならない」


 立ちはだかるはリンヴァルス神。

 今もなお『鳴帝』と尊ばれし六花の将。


『……イージア。百年の時を超え、我が主は眠りからお目覚めになった。主は破壊をお望みだ。創造神が右腕……いや、破壊神が右腕ダイリード。道を阻む者を駆逐する』


「約束したはずだ。百年後に必ず君と創造神を救うと。どうしても君は創造神……ナドランスから離れることができないのだな。今の創造神が正気でないと分かっていても……」


『分かっている。我が何千年、主と共に過ごしてきたと思っている。正気も狂気も些事、全ては我が主の為に』


 両者の道は交わらない。

 救いを冠する正義と、忠義を冠する正義が相克する。


「独りよがりの正義もここに居ますが。魔導星冠リリス・アルマ、加勢いたします」


 天に立つアルスの傍にリリスが舞い降りる。

 彼女は国民を全て結界内に避難させ、加勢に参上したようだ。


「極楽開闢式アビスが発動し、国民の命も保護されました。後顧の憂いはなし。拙も邪神を早々に排除し、陛下の加勢に──」


「それは不可能です。邪神ダイリードは排除不可能。何故なら、私がここに居るためです」


 前方の爆発的なダイリードの殺気とは裏腹に、背後より静謐で薄弱な気が生じた。

 仮面を被った謎の人物。しかしリリスは彼の情報を既にアビスハイムより聞き届けていた。アリキソンを殺した真の天魔。


「天魔ソウム、ですか。厄介なものですね」


「ここで異分子たる鳴帝は排除し、魔導王の側近も排除。ダイリード、しばし鳴帝を頼みます」


『……任された』


 アルスとダイリード、リリスとソウム。

 それぞれが敵を確定させる。特にリリスは天魔の異能が桁違いに強力であることを知って、なお挑んだ。彼女に打開策があるわけではない。しかし、伝承に語られる六花の将同志の戦いに割り込むわけにはいかないと……そう悟ったまでだ。


「君を救う。いくぞ」

『既に我が忠義の衝動は止められぬ……! 退け、イージアッ!』


「参ります」

「干渉を指定。『天魔ソウムは敗北しない』。排除を開始します」


 ~・~・~


 地下へと沈んだソレイユを見下ろし、心神は溜息をついた。

 結界を足先で叩き、困り顔を浮かべる。


『どうしましょうね、これ。私では破壊できませんよ? 天魔ならば破壊できるかもしれませんが……そこの天魔の使いさん。天魔を呼ぶことはできますか?』


 心神の傍に控えるゼロは瞳を閉じ、ソウムとの通信を試みる。

 しかし通信は届かない。


「……おそらくソウム様は結界の外に居る。今は呼ぶことができない」


『うーん……困りましたねえ。どうにかして結界を壊す方法を考えますか?』


 周囲のエムティングとメロアはひたすら結界に攻撃を続けている。いくら大量の眷属を呼び寄せても、こうして籠られては意味がない。

 しかも魔導王の極楽開闢式は、単に国を地下へ沈めて結界の蓋をしただけではない。世界から存在を切り離し、干渉すら受け付けないようにしている。天魔でも破壊できるかどうか怪しい。


 困惑する心神とゼロの近くに立っていた命神は、ふと何かに気が付いて顔を上げる。瞳を細めて捉えた光景の先、そこには──


「……どうやら向こうから来てくれたみたいだな。油断はするなよ」


 結界の一部に空間を作り、次々とソレイユ軍が進撃してくる。

 中には魔導王の姿や、先の戦いで神々を討った者らの姿もあった。


『あら、好都合。馬鹿で助かりますね。こんな大群に突っ込んで来るなんて』


 エムティングの数はおよそ六千。メロアの数はおよそ二百。

 常識的に考えれば、負ける道理はなかった。しかし心神とは対照的に、命神とゼロは油断を露にしない。相手も何らかの策があって出て来ているのだろう。実際、前哨戦では二神は倒されてしまったのだから。


『私たちの目的を忘れてはなりません。別に勝利することが目的ではないのですよ?』


「それはそれとして……だよ。俺は一柱の神として、人間には敗北したくない」


 神々は終焉を導くべく、滅びの進撃を開始する。


 ~・~・~


 先陣を切って結界から飛び出したのは、魔導王アビスハイム。


「失せよ、神々の眷属供。『赫星烈火(ラノマーズ)』!」


 巨大な星々が中空を駆け巡り、空を飛ぶエムティングを叩き落す。流星群による数多の爆発。広大な領域を襲った星々は無数のエムティングを殺し、メロアを堕落させた。まさに戦略兵器である。

 しかし流星は地下に沈むソレイユに被害を齎さない。魔導王自身が展開した結界によって流星が阻まれているのだ。


「ちょ、陛下。小生たち出れないんですけど」


「フハハハッ! ロンド、お前らは結界の中から蹂躙を見ておれ! ……いや、やはり無理だな。あまりに敵の数が多すぎる。流星が止み次第、全戦力を出すぞ」


 アビスハイムは術式の発動を中断。流星が収まると共に大号令を発した。


「往け、進路は拓いた! 全ての魔導と武を以て敵を滅せよ!」


 結界に大きな空間が生じる。

 魔導王に続き、次々と魔道具を装備したソレイユ兵が地上へ。人類の存亡を賭けた戦い、誰もが士気は最高潮にあった。

 地が割れんばかりの怒号が響き渡り、終末の戦場へ。


「起動せよ、アーティファクト──ラムダ」


 疾走する彗星。刃に星属性を刻印した機械が戦場を駆ける。

 続いて飛び出したのはアーティファクトに搭乗したシレーネ。戦場に現れたアーティファクトは、次々とエムティングを屠っていく。


 問題はメロアだ。命神の眷属は基本的に倒せない。巨大な蛇竜が機体に絡みつき、動きを阻害する。


「うえ……ま、まさかそのまま私をぺしゃんこにするつもりですか!? そうはさせません、こうなったら自爆機能付きロマン砲で……」


遡源対狂(ルアーティト)、反重力展開」


 シレーネのアーティファクトに食らいつこうとしたメロアの顎が割れる。同時に巨大な身体が機体を離れ、中空を浮遊。


「あー師匠の音! 助かりましたです!」


「お前は早々に死ぬ気か? 少しは理性でモノを考えろ」


「あっはい。別に私も無策で突っ込んでたわけじゃないですし? 大元の命神をどうにかすれば良いんじゃないかって爆走してただけですし」


「その意見だけは正しい。命神を倒すことが、メロア撲滅への最短経路だ。さて……奴を探すぞ」


 ナリアは自分の弟子にしか成し得ない成果を把握していた。故に彼女は命神の気を探り、シレーネを向かわせる腹積もりでいる。

 その間、無数の外敵は自分が引き付ける必要があることも理解しながら……戦場を把握する。




 一方でユリーチは結界の入り口付近の主戦場とは別の場所へ向かっていた。


「魔眼解放、『蓬天(ルーシトン)』」


 天魔術がエムティングを破壊し、波上に広がってゆく。メロアも本能的に危機を察知したのか、ユリーチから距離を取って飛翔。

 彼女の天魔術や星魔術はあまりに規模が大きい。兵士がいる地帯で使うと味方にまで被害が及んでしまうのだ。


 周囲に人の気配が感じ取れなくなったが、まだまだ神々の眷属は溢れている。大森林の方角から押し寄せ続けている。彼女は大森林の方角を向いて、己の身体を秩序の力で抱擁。理外の魔女の肉体を呼び出す。


「……さて、理外の魔女フェルンネ。やはりこちらの方が魔術は出力できるわね。一気に殲滅しましょう」


 正直なところ……ユリーチとして存在するよりも、フェルンネとして存在する方が魔術は効率よく発動できる。魂が長年過ごした肉体の方に馴染んでいるのだろう。


 もはや彼女にとってどちらの姿が真実かなど……どうでもいい。記憶は同じ、心は同じ。

 ならば二つの姿はどちらも真実である。


 忘れてしまった記憶、新たに得る記憶。

 全てを抱いて魔女は戦う。

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