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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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144. 世界の分岐点

 城内は厳粛な雰囲気に包まれていた。

 玉座にて瞑目するは魔導王アビスハイム。周囲にはソレイユの重鎮、および戦線の指揮官たちが集っている。竜騎士の駒に乗って駆けつけたロンドの報告。通信によって齎された、アルスが離島で邪神と交戦を始めた報告。二つの悲劇を聞いた魔導王は緊急集会を開いた。


 これよりソレイユ全国民へ向けての演説が行われる。緊急事態下にも拘わらず、ざわめきは一つとして聞こえない。静寂だけが支配する玉座の間にて、王の口が開かれる瞬間を誰もが待望していた。

 彼の一声で世界の未来は変わる。彼が言葉に信念を宿せば希望の未来が、諦観を宿せば絶望の未来が訪れる。


 命神、心神の復活。ソレイユ大森林の崩壊──飛翔して迫り来る外敵を前に王は如何なる決断を下すのか。


「──曙の国、ソレイユの全国民に告ぐ。我が名は魔導王アビスハイム。民も知っての通り、五千年前よりソレイユを見届ける始原の王である。急遽の国王交代、離島への避難指示……数多くの迷惑を民にかけた。この場を借りて謝罪しよう」


 開口一番、アビスハイムから出たのは謝罪の言葉。

 ああ……終わりか。そう人々は悟った。あの強情で神にすら不遜を抱く王が、人間に首を垂れた。つまるところ諦観を示すのではないだろうか。


「今。ソレイユは創始以来、初めての滅亡の危機にある。いや……ソレイユだけではない。我らが此処で滅びの徒を抑えぬ限り、世界もまた滅ぶであろう。我らは世界を背負っている……人類最後の希望である」


 多くの民は外敵がどのような容姿であり、どのような存在なのかということすら知らない。だがしかし、王への信頼だけはあった。

 古来よりソレイユに伝わる魔導王の復活神話が現実となり、国を滅びから救いに来たのだと。

 しかし終わりだろうか。ここでソレイユは世界と共に滅びるのだろうか。


「さて、民よ。我が福音を聴く者らよ。お前らはこう思ってはいないか? 『魔導王は諦め、ソレイユは滅ぶのだ』……と。──否。我が名は魔導王アビスハイム! 全知全能の魔導の王にして、全てを護る大いなる頂点! 故に我が玉座に座る限り、ソレイユは健在なり!」


 希望が灯る。信念は未だ消えていない。

 彼の言葉を聴く誰もが顔を上げた、ただの一言で光を瞳に宿した。


 では、彼は何を民に見せるのか。

 大きく踏み込んで玉座から立ち上がったアビスハイムは、空を飛んで窓から王城の外へ。暗黒の天下、ただ一つの希望が魔力を宿す。


 ユリーチが、マリーが、ロンドが、デルフィが、全ての民が……天へ浮かぶ王を見上げていた。


「見よ、彼方より白き滅びの徒……エムティングが波のように押し寄せている。このままではソレイユは蹂躙されよう。故に……少し揺れるぞ。構えておけ」


 魔力が満ちる。

 魔術──魔法──魔導の原点にして頂点。魔導王アビスハイムによる究極魔導。ソレイユ全土を覆い尽くす、世界で初めて発動される完全術式。

 大きな地響きと共に、結界に覆われたソレイユに極光が広がって……


「な、なんだ……これは……!?」

「空が、遠のいてゆく……!?」


 民の視線では、たしかに空が遠のいていた(・・・・・・)


「これぞ五千年もの間、我が構築し続けた魔術式ッ! 全魔術を統合し、全魔法を活用し、全魔導によって可能性を導き出す滅びを防ぐ砦……」


 沈んでいる。

 ソレイユの全国土が地下へと沈んでいた。ただ一箇所、外敵が迫り来るソレイユ大森林を除いて……棚田のように段差を作って地下へ。


 地下へ沈んだソレイユと地上を隔てるように、光の壁が張り巡らされる。これまでソレイユの周囲を囲っていた結界が、今度は空へと張り巡らされたのだ。

 大森林より迫った外敵の軍勢は、結界に阻まれて地下のソレイユへ侵攻することができない。


「──『極楽開闢式アビス』。術神よ、お前の遺した意志……確かに成し得た。我が民草、一人たりとて死なせはせん。……これより、ソレイユは反撃の狼煙を上げる! 敵は命神メア、心神クニコスラ、そして天魔ソウム! 進め、魔導の下に……!」


 ~・~・~


 ユリーチは空を見上げる。

 アビスハイムが『極楽開闢式アビス』を展開してから一時間後。上空の結界外部では、エムティングが結界を突破しようと茨を打ち付けていた。しかし展開されたのは『対災厄防御術式』。神の眷属に過ぎないエムティングでは破壊できないだろう。


「さて、集いし勇士たちよ」


 アビスハイムの下に集った一行。アルスとリリスは離島に赴いているため戻ってきていないが、二人を除けば前回の面子が全員揃っていた。

 いや……アリキソンの姿も此処にはない。


「こうして術式を展開し、民を守ることは一旦できた。しかし、こちら側から外敵を攻撃するには結界の外に出なければならない。あのエムティングとメロアの波濤に突入し、神々と天魔を討つ。容易なことではない。志願する者は前へ出よ」


 上空へ昇り、決戦の地であるソレイユ大森林へ。

 生半可な実力では一瞬で死んでしまう過酷な戦場だ。


 まず一歩を踏み出したのは『輝ける黄蛇』……デルフィ・ヒュエン。召喚者のアルスとは離れているが、彼の実力は健在。


「俺は戦う。戦うことが英霊の役目だからな」


 次いでロンド・デウム。


「では小生も。主人がウジンさんから陛下に代わった今でも、為すべき役目は変わらない。僕は世界を守るために戦います。ええ……きっと、今の俺にしかできないことだから」


 最期に怨霊マリー・ホワイト。


「……無論、この怨霊もお供します。陛下の命に従い、英霊として戦い抜くまで」


 三体の英霊は全て覚悟が定まっていた。

 やはり人類の歴史に偉業を刻む者は一線を画している。覚悟は折れず、決して信念は絶えず。滅びの未来を変えるべく立ち上がる。


「あー……私もいいですかね」


 次に進み出たのは意外な人物だった。

 これまで裏方で魔道具作成に徹していた少女、シレーネ。傍のナリアは思わぬ展開に疑念を抱く。


「シレーネ。お前も行くのか?」


「はい。ここで進まないと……駄目ですから。罪過を払う時が来たみたいです」


「そうか。では弟子が行くのならば私も行かねばな。ただし師匠命令だ、死ぬなよ」


「はいっ!」


 シレーネは元気よく飛び出して、ナリアも怠そうに後に続く。八重戦聖の錬象が戦線に参加してくれるのは心強い。

 一連の流れを眺めていたユリーチ。彼女はしばしの逡巡の末、右足を前へ。まだ煩悶として気持ちに区切りはつかない彼女だが、己の役目は分かっている。『英雄であること』──それが輝天の役目ならば。左足を前へ。


「私も参ります。我が光によって世界に希望を灯しましょう」


 彼女に続くように、兵士たちが前へ、魔導士たちが前へ。

 次々とソレイユの守護者たちが戦意を露にしていく。アビスハイムは未だに抗う臣下に視線を送り、宣告。


「よろしい! では、これより──最後の戦いを開始するッ!」

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