表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
504/581

128. 遡る

 遡る。


「さて、英霊よ。お前は何を我に示す?」


 魔法陣に浮かび上がる私に、彼は問いかけた。曰く、魔導王アビスハイム。ソレイユの復活神話に語られる存在だ。私は英霊として彼に召喚されたらしい。

 この世界は私が住んでいた世界ではなく、別の可能性を辿った世界。アリキソンが闇に堕ちず、彼に何も滅ぼされず、そして私も健常な人生を送っている世界線。


 ──羨ましい?

 とうにそんな気持ちは抜け落ちた。ただ、平和な世界があるだけ。関係ない。


「私は怨念です。何ができましょうか」


「種族は問わぬ。我はお前にどんな特技があり、どんな魅力があるのかを問うている。お前は世界を守るために戦えるか?」


 彼の質問は(ずる)い。

 生前、アリキソンの魔剣から世界を守れなかった私に……意地の悪い問いをぶつけるものだ。そのように問われれば、私は答えざるを得ない。


「世界を守ることが私の執念。或いは、奴を殺すことが本懐。もしも世界が危機に瀕しているのならば、私はあなたの力となりましょう」


 ~・~・~


 遡る。


「……ああ、滅びゆく世界はこうも美しいか」


 忌まわしき男が呟く。

 世界が燃えていた。黒き風に吹き飛ばされ、黒き雷に焼き焦がされ、あらゆる人理は焦土と化した。


 私は無様に災厄……アリキソンの魔剣に破れ、地面に転がっている。

 あと少しで……倒せたのに。殺せたのに。ここで私が倒れれば……もう、世界は……


「滅べ。全て滅んでしまえばいい。マリー……お前が負けたということは、世界は滅ぶということ。因果は全ての破滅を定めたのだろう」


「…………」


 もはや口も開けない。血を垂れ流し、喉も潰れた私に何ができようか。


「俺は世界が嫌いだ。生まれた時から「人間兵器」になる運命から逃れられなかった。お前だって俺と同じなのに、どうしてこんな面倒な世界を守ろうと思うのか。理解できない。もう、嫌だ……」


 憎い。奴が憎い。

 全てが憎い。そうか……結局、私も奴と同じ。全てを憎んでいるのかもしれない。


 英雄の血筋に生まれたことで、苦悩してきた。だけど人の導になり、求められているという自覚も同時にあった。今までの人生が楽しかったか、辛かったかと問われれば……


「……」


 お前のせいで、辛くなった。

 お前が世界を滅茶苦茶にした時から、私の生は灰色に染まった。


 だから結局は、お前が一番憎い。


「終わりだよ。何もかも終わりだ。俺を殺せず、お前も世界も終わる」


 ……嗚呼。

 せめて。


 せめてこの身が、この憎悪が。

 奴を絞め殺せばいいのに。私が……怨霊であればいいのに。


 ~・~・~


 遡る。


「マリー? 少しは手伝いなさい?」


 母が家事の手伝いを催促してくる。

 でも嫌です。私は疲れているのです。


「明日、研修なんだよね……もう少し寝させて」


「はあ……仕方ない子ね」


 今は新人騎士として勤しんでいる。毎日が激務で退屈しないけど、大変な日々。

 霓天の家系を継ぐ者は私しか居ないから、必然的に私は騎士の将来を定められたようなものだった。本当はデザイナー系の職に就きたかったけど、騎士を辞退したら世間の目が痛いし。


 いわゆる「人間兵器」。英雄の家系は強力な神能を持つが故に、国家公務員にならなければならない……みたいな風潮があった。法律とかで定められているわけじゃないけど、みんな代々そうしてる。霓天の家系だけではなく碧天や輝天も。アリキソンやユリーチを見ていると、いつも弱音を吐かずに仕事をしていて凄いと思う。年上は偉大だ。


「ねえ、おかあさ……」


「はい、もしもし?」


 私が徐に起き上がると、母に電話が入ったようだ。

 最初は笑顔で話しを聞いていたが徐々に顔色が青くなっていく。何かあったのだろうか。


「え……」


 母の持っていた洗濯物が地面に落ちる。


 通信の内容は──訃報。


 ルフィアへ出張に向かっていた父が死んだ。ルフィアが崩壊した。

 首謀者の名は……アリキソン・ミトロン。


 ~・~・~


 遡る。遡る。遡る。

 全てを思い出して、忘れて。遡る。


「こんにちは」


 不躾に、寝転がる私を覗き込んだ……変な人。

 顔の半分に布をつけていて、白い髪の毛先をくるくると指で巻いている奇人。紫紺の瞳が私を見下ろしている。


「だれ?」


「拙は魔導王の配下、魔導星冠のリリス・アルマと申します。あなたに憎悪を思い出させに来ました」


「???」


 言っている意味が分からない。不審者だ。

 お父さんを呼ばないと。


 あれ、でも……お父さんって……どこに居るの?

 そもそも私は今、どこに居るの?


「魔導王陛下のご命令でなければ、拙もこんな残酷なことはしたくないのですが。あなたが辛い思いをすることと、国が亡ぶこと。秤にかければ前者を採ります」


「私はだれ」


「マリー・ホワイト。怨霊です」


「おんりょう」


「そう、怨霊」


 たぶん、怨霊(それ)は良くないものだ。

 良くないものは存在しない方がいい。


「私はこのまま寝ています。おやすみなさい」


「駄目です。起きてください」


 どうしてこの人は私を起こしたいのだろう。私は怨霊というよくない存在で、寝ていた方がいいと思う。自分のことが何も分からないけど、たぶん寝ているべき。


「さっさと起きろ。手遅れになる」


「うわ!」


 とつぜん女の人が私の腕を引っ張って起き上がらせた。

 気が付いたけど、自分の身体が異様に軽い。私、こんなに小さかったっけ……?


 周囲を見渡すと、真っ白な空間。


「これ以上遡ると、あなたは憎悪を完全に忘れて消滅します。強引に精神に干渉しましたが正解だったようですね。もう一度、辛い過去を未来へ繰り返します。耐えてください」


「耐えるって……? どうすればいいの?」


「拙の手を握って。大切な人を想って。大丈夫、未来にはあなたの味方がたくさん居ます。魔導王陛下も、霓天も、(ぼく)も。決してあなたを見捨てません。だから……」


 だから。

 その先の言葉を聴きたくなかった。


 本能が拒絶している。けど、聴かなければならない。


「『アリキソン・ミトロンを殺す』……あなたの目標を果たすまで、未来へ進み続けなさい」


「っ……!」


 取り戻す。取り戻す。取り戻す。

 再び未来へ進み、憎悪を取り戻す。


「ぁ……ぁ……」


「大丈夫」


 手にあたたかいものが触れている。

 お願い……離さないで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ