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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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117. 螺子は必要だから

 ソレイユ王城の地下室では、相変わらずシレーネが淡々と魔道具を作り続けていた。

 作成しているのは、ナリアたちが作っている放出砲の部品。


「要するに下請けです。私は下請け、ネジを締める係。でもそんな人だって世の中に欠かせない一員なんです。だってアーティファクトの部品なんて私くらいしか作れませんし。私にしかできない仕事ですし。決して厄介払いされているわけではないのです」


 独り言をぶつぶつ呟きながら、彼女はひたすら手を動かす。身体の疲労と眠気は間も無く限界を迎える。……と共に、彼女のテンションはおかしくなっていた。いつもおかしいと言われればそれまでだ。


「おはようございます、進捗どうですか?」


「リリスさん、こんばんは。進捗だめです」


「今は朝ですよ。それに進捗かなり良いじゃないですか。こんなに……山のように部品を作られても。本当にこんな量が必要なんですか?」


「アーティファクトってめちゃくちゃ部品が多いんですよ。手のひらサイズのひよこ無能アーティファクトでも、部品が多いせいで砲丸投げに使う玉のように重いのです。これでも全然足りないくらい」


 彼女の目の下には大きなクマができている。見かねたリリスは手伝いを申し出た。


「私でよければ交代しますが」


「駄目です。アーティファクトは一つの動作ミスで動かなくなります。専門知識を持つ人が作らないと、不良品になるです。向こうで本体を作られている師匠やクロイム君、研究員の皆さんの努力が水の泡になりますよ」


「シレーネ殿に過労死されても困るのです」


「……」


 しばしの沈黙が続いた後、唐突にシレーネは話題を切り替える。


「……ソレイユ王国が管理しているPOSデータを参照しましたが、この国は掃除機のアーティファクトがよく売れるんですね。共起グループ化してみたところ、洗濯アーティファクトも売れそうです。この戦いが終わったら私の店と提携しませんか?」


「勝手にわが国のデータを見ないでください。ハッカーの才能でもあるんですか? 商魂逞しいのは結構なのですが、商談は一切お断りしておりますので」


 強引に話題を逸らしたことを見ても、どうやら彼女はよほど部品の生産を他人に任せたくないらしい。師匠であるナリアのアーティファクトを台無しにしてはいけないと思い込んでいるのだろうか。

 リリスはどうしたものかと立ち尽くす。本来であれば彼女も戦線の指揮へ向かうべきなのだが、ユリーチの登場により向こうの戦力は十分だと判断してアーティファクト生産の補助に回った。


 彼女は手持ち無沙汰に視線を巡らせ、やがてシレーネの右手の甲に目を止めた。


「その紋は……罪神の?」


「ほえ。この紋章を知っている人、はじめて見たですよ。これは罪神の加護……というよりも嫌がらせを受けている者の証です。なぜか私の故郷サーラライト国では奇跡の子の証として扱われていますけど」


「何故です? 罪神の権能は知りませんが、人に救いを齎すものなのですか? そもそもサーラライト族の誕生以前に罪神は死んでいたような……?」


 リリスは厄滅に抗う者として、あらゆる神族の知識を修めている。アビスハイム復活前も厄滅の予言に備え、世界中から神学者が集められたほどだ。しかし罪神に関する情報は殆ど掴めていない。


「サーラライト国の予言者が「救いの紋章を持つ奇跡の子がまもなく生まれるであろう」……って予言して。直後に私が生まれたんです。周囲は私を奇跡の子だと思い込んで大切に扱ったんですよ。これはどちらかと言えば、穢れた紋なんですけどね」


 予言者というのはギリーマのことだ。もっとも、彼もサーラライト族に潜んでいた裏切り者だということが明るみになった過去があるので、シレーネが本当に「奇跡の子」なのかは分からない。全ての真相は闇の中だ。


「興味がありますね。ソレイユの記録に罪神の情報を追加させていただいても?」


「ああ……いえ。罪神の加護を受けるのは後にも先にも、私だけしか居ませんから。後世にあの神の情報を残す必要はないでしょう。深く話はしたくないのです」


 シレーネは自嘲ぎみに笑って仕事に戻る。

 彼女は罪神の加護と形容したが、実際は憑依に近い。身に罪神の魂そのものを宿している。だからこそ分かるのだ。

 自分への加護を最後に、罪神は二度と世界(アテルトキア)には現れないだろうと。


 ~・~・~


 ソレイユ大森林へ到着したユリーチ。

 彼女はまず指揮官のウジンの下へ向かった。


「こんにちは」


「おう、輝天のお嬢さん。ユリーチだっけか。お前さんは戦場に参加してくれるのか?」


「はい。頑張ります」


 ユリーチの目線からすると、ウジンと初対面のように話すのは違和感がある。しかしウジンは彼女がフェルンネだと知る由もなく、いつもの調子で話し続ける。


「そりゃ助かる。ロンドの報告によると、ユリーチは天属性の魔術が使えるそうだな? エムティングの掃討戦力は少しでも欲しいからな。……わりい、ちょっと待て」


 彼は話を中断し、駆け寄って来た兵士の報告を聞く。


「指揮官。次第にエムティングの活動が活発化しているようです。メロアはまだ動き出す様子はありませんが、全体的な体制の見直しが必要になるかと。また、兵士たちの疲労にも限界が見られます」


「疲労ねえ……極力休憩は取らせてるつもりなんだが……」


「いえ……軍医の診断によると、精神的な疲労によるものが大きいようです。際限なく現れ続けるエムティング、いつ動き出すか分からないメロア。先に現れた二神と天魔の存在。そして国外退去によって家族が遠のく精神的負荷も大きいかと」


 兵士の言葉の断片にユリーチは顔を上げる。

 事態が深刻なのは把握できたが、一つ気掛かりな点が。


「国外退去? 結界を開けるの?」


「おう。一度だけ国外退去を望む者は結界の外に搬出される。たしか今日だったかな……数はおよそ百万を超えるって話だ。国外と言っても他国じゃなく、ソレイユ離島な。あそこは結界外かつ同国民が居る場所だからな」


 もちろん、百万以上の難民を受け入れる国など存在しない。結界外の離島に退避させる選択は正しいのだろうが、物資は足りるのか。家は足りるのか。

 結界に一時的に穴を作って厳重な警備の下に国民の搬出を行うというが、敵に奇襲されたりしないのだろうか。

 作戦を聞いたユリーチの不安は尽きなかった。アビスハイムの計画なので、そうそう失敗はしない……と信じたい。


「まあ、避難先の離島の物資は一月と持たずに枯渇する目算だ。王はそれも民に説明してる。その上で退避を望む者、望まない者に分かれたってだけだ。ここで戦っている兵士たちの家族にも離島に出て行く奴らは居る。家族に置いて行かれるのはそりゃ、つれえよなあ……」


 ウジンはやるせなく呟く。しかし対処法はない。励ますしか術はないのだ。

 国外に逃げるか否か、どちらが正しい選択かは現状では分からない。責めることもできない。


「私にできることは、結果を出すこと。一匹でも多くエムティングを倒して……そしてお兄様を救う。指揮官、私に早速任務を与えて」


 ユリーチは戦うのみ。政策を考えるのは王の仕事だ。今の自分は駒であればいいと自分に言い聞かせる。


「おうよ。それじゃ、こっちの戦線に向かってくれ。少し被害が出ている」


「了解。行ってきます」


「あと、あまり空は飛ぶなよ。魔導王が転移してきて撃墜してくるからな」


「……りょ、りょうかい」

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