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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
20章 因果消滅世界アテルトキア
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105. 侵入者

『ほ、報告します! 結界が……外部から破られましたっ!』


 火急の報告に一同は衝撃を受ける。

 通信によると、海側ではなく大森林側の結界の一部が侵入者により破られたらしい。同様の通信がウジンへ鬼のように押し寄せていることからも、兵士の見間違いと言うわけではなさそうだ。


「あり得ねえ……アレは対災厄防御術式だぜ? どうやっても壊せる代物じゃねえよ」


「ウジンさん、驚愕するのは後にしてくださいね。貴方は指揮官としてここで戦況を纏めてください。小生は件の戦場へ向かい結界の様子を確認し、可能であれば侵入者とやらを捕らえます。さて……イージアさんにユリーチさん。貴方がたも多少は戦力になるでしょう。嫌と言っても協力していただきますよ。さあ『竜騎士の駒』君、行きましょう」


 ロンドは口早に告げて黒き竜に跨る。ちらりと後方を確認し、勢いよく報告のあった地点まで飛翔して行った。


「私たちも向かいましょう。乗って下さい」


 再びノアが作り出した飛行機のようなものに乗り込むアルスとユリーチ。戦場へ辿り着いた矢先に危機的状況とは、相変らず悪運が強いものだとアルスは自嘲する。


「はあ……指令があれば俺の方から適宜送らせてもらう。エムティングとの交戦も考慮しておけよ」


「ああ。たぶん……大丈夫だ」


 エムティングには星属性・天属性以外の魔術は通らないそうだが、ユリーチやノアが居るので何とかなるだろう。それに戦場の兵士たちも対エムティング用の武器を装備しているようだ。


 呼吸を整え、一同は新たなる戦場へ向かう。


 ~・~・~


 結界を突き破った彗星は、大森林へ突入する。


「やった! やりましたよ師匠! 私のラムダと師匠のオーオーが作り出したミラクルで結界を破壊しました!」


「九割は私のオーオーの活躍だな。そしてクロイム、オーオーの機体の上で吐くなよ?」


「うげ……だ、大丈夫っす。まだ舞えます」


 侵入者……ナリア一行は凄まじい速度で木々の間を駆け、天空へ舞い上がる。かなりの機体の揺れに気分を害されるクロイムだったが、なんとか耐えつつ周囲の様子を眺めた。

 どこまでも広がる森と魔鋼の壁。……海より迫り来る怪物たち。


「なんだあれ!?」


「……混沌とした状況になっているな。シレーネ、周囲の状況を映像に記録しておけ」


「はいっ!」


 ナリアとしても、エムティングやメロアといった神々の眷属を目にするのは初めてのことだった。数多の怪物と交戦しているのはソレイユの兵士だろうか。彼らは結界を破って来たオーオーを唖然として眺めていた。


「てか大師匠、これ状況的に俺ら不法侵入ですよね? 捕まったりしません?」


「フッ……何を言っている馬鹿弟子。私はこれでも八重戦聖の一角。私を捕らえられる者など存在するはずが……急ブレーキ!!!」


 刹那、絶光が眼前を滑った。ナリアが急ブレーキをかけたことによりオーオーの機体は大きく回って雷を避ける。

 黒き雷が天より降り注ぎ、機体の軌道を断ったのだ。周囲一帯は焼け野原のようにただれ木々から発せられる煙の匂いが漂う。


「俺が張る地に無断で入り、ましてや魔導王の結界を破るなど……痴れ者が。飛んで火にいる夏の虫とは貴様らのような者を指すのだろうな。その命、貰い受ける」


 雷の主は凄まじい殺気を放って立ち塞がった。

 ただ其処に立つだけで肌が粟立ち、気を失するほどの冷酷な殺意。ナリアは尋常ならざる殺意を察知し、同時にオーオーをシールド型に変形させた。


「敵襲ー! 大師匠があんなフラグ立てるから……って? お前アリキソン……なのか?」


「……誰だ、お前。ああ、この世界の俺の知り合いか。残念ながら俺はお前の知るアリキソン・ミトロンではない。情けはなく、慈悲はなし。前に立つからにはただ一刀の下に斬り伏せるのみ」


 クロイムもシレーネも、眼前の剣士がアリキソンと似て非なるものだと感じ取った。

 彼はここまで友に殺気を飛ばすような人間ではない。ましてや問答無用で攻撃を仕掛けるような人間でもない。


「二人は下がっていろ。あの剣士は私が相手をしなければならない(・・・・・・・・・)


 一瞬でも目を離せば殺される。危機的な自覚がナリアにはあった。

 この剣士はともすれば、八重戦聖すらも凌駕するかもしれないと。本能が全力で警鐘を鳴らす。


「失せろ。黒嵐颶風之太刀(こくらんぐふうのたち)


「──『進真耐狂アブティト』」


 天が一瞬にして黒く染まり、周囲一帯の温度が爆発的に上昇。木々の燃ゆる炎が赫赫と延焼しアリキソンの身を包み込んだ。

 バチと白雷が駆け、一瞬のちに迸った黒雷。同時に渦巻いた灼熱の炎が暴風に乗って舞い上がる。


 ナリアは全力で防御に徹してアリキソンの猛攻を凌ぐ。周囲の魔力を分解した上で結界に再構築し、自身とシレーネ、クロイムを守る。

 だが次の行動に移ろうとした時には既にアリキソンの姿は消えていた。


「遅い、脆い、浅い。随分と温い世を生きてきたようだな」


「ほざけ、クソガキ。お前は猜疑心に基づいた行動を取り過ぎだ」


 アリキソンの剣とナリアのシールドが衝突。

 あまりに膨大なエネルギーの衝突に天地が震撼した。互いに実力が測り切れず、様子を見ながら戦っている現状。これ以上熾烈な戦いとなれば周囲の全てが崩壊しかねない。


「はーい、そこまで。ああ、アリキソンさん。侵入者の対処お疲れ様です。でもその人たちは殺さなくてもいいと思いますよ」


 戦場に舞い降りた黒竜。竜の操縦士ロンドは、はにかみながらアリキソンに接近する。


「貴様……俺に指図をするつもりか?」


「いやいや、指図なんてとんでもない。至急魔導王陛下に確認したところ、そちらの方々は敵ではないようで。敢えて結界を脆くして国内に招き入れたとのことです。つまりですねえ、彼らを殺すことは陛下のご意向に背くことになりますよ?」


「チッ……」


 アリキソンは露骨に機嫌を悪くして剣を納めた。

 一拍遅れてアルスたち三人も飛んでやって来る。機体を降りるや否や、ノアの視界に飛び込んだのは焼けただれた森林。


「これは……ずいぶんと暴走したようですね、アリキソンさん」


「俺は侵入者を排除しようとしただけだ。これ以上戦う役目がないのなら、俺はさっさと戦線に戻る」


 その場を早々に去ろうとするアリキソンの姿を見たアルスとユリーチ。

 彼らは眼前のアリキソンが尋常ならざる存在であり、彼らの知る友とは異なる存在であると気が付いていた。


「君は……一応アリキソン、なのかな。かなり僕の知る彼とは雰囲気が違うけど」


「お前もこの世界の俺の友人か。雰囲気が違うのは当たり前だ、俺は別の世界線のアリキソン・ミトロン。お前らの知る友とは同姓同名の別人と考えてもらえばいい。歩んできた歴史も、剣筋も、何もかもが違うのだから」


「そっか。僕はアルス・ホワイト。彼女はユリーチ・ナージェント。よろしく頼む」


「ユリーチは知っている。しかし……そうか。お前が……マリー・ホワイトの兄か」


 アルスにとって彼の言葉は腑に落ちないものだった。

 まるで彼の態度は、


「僕を、知らないのか?」


「知らん。俺の世界線では、マリー・ホワイトの兄など存在しなかった。魔導王から情報は聞いていたが、いかにも腑抜けと言った雰囲気だな。しかし……瞳の色は悪くない。温い生は送ってきていないようだな。俺と同じ世界線のマリーもこちらの世界に来ているが、せいぜい噛みつかれぬように気を付けろ」


「マリーが来ているのか。リリス殿が『僕の妹がソレイユ国内に居る』と言っていたけど、そういう意味だったか。でも会うのは緊張するな」


 曰く、兄の存在を知らぬマリー。彼女もまたアリキソンと同じように、アルスの知る妹とは似て非なる何かなのだろうか。


「とにかく俺は戦いに戻る。慣れ合うつもりはない」


 そう言い残して彼は森の中へ消えて行った。周囲には炭の匂いが残っている。


「さて……侵入者というのは、君たちか」


 ナリア、シレーネ、クロイム。

 ロンドが魔導王に確認したところ結界は破られたわけではなく、敢えて彼らが破ろうとした箇所を脆くしたという。アビスハイムはどこか予知めいた能力を持っている。異なる世界線のXugeを観測している点から見ても、未来を知る者であることは間違いない。そんな魔導王が、ナリアたち三人は必要な人材だと判断したのだ。

 シレーネは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして尻餅をついた。


「怒涛の展開ですね。私、何が起こったのかよく分からないですよ。とりあえず師匠が守ってくれたおかげで助かりました」


「はあ……あの剣士、手強かったな。私も慢心していたようだ。次はあの剣士にも対処できるよう、オーオーを調整しておくか」


「アルスとユリーチもソレイユに来てたんだな。俺らみたいに不法入国はしてないと思うけど……」


 数多の人物が入り混じり、状況はより混沌としたものに変化していく。

 ソレイユに集いし人々の誰もが、欠けてはならないピースのひとつ。厄滅に抗うべく集いし徒である。

 ロンドは騒動の収束を確認し、ウジンに通信を入れた。

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