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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
19章 麗血不滅帝国メア
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93. 終点:破滅

「貴様は……『鳴帝』ではないか?」


 真実を言い当てたルカの言葉にアルスは動揺する。思わず言葉が詰まり、思考が空白に染まる。彼は自らの正体を看破されたことはない。ただ一人、イージア=アルスであると看破したのはレアのみである。


「どうして……」


「我が弟子の気配など手に取るように分かる。どうして十七年前に生まれた人間のお前が、大昔に存在して鳴帝として振舞っていたのか……などという野暮なことは聞かぬ。だが知っておきたいのだ。お前の師としてな」


「──はい。僕はかつて鳴帝イージアとして存在していました。またリンヴァルスとしても。ですが少なくとも……今はこうしてアルス・ホワイトとして存在しており、貴方を師匠と仰いだのもアルスとして。僕が何者であろうと、貴方が偉大なる師であることに変わりはありません」


 彼の告解を聞いたルカはどこか安堵したかのように笑う。普段浮かべる不敵な笑みとは異なり、何かを悟ったような柔らかな笑み。アルスは師の表情から言い知れぬ違和を覚えた。


「ふっ……そうか。よい。後顧の憂いは断たれたということか。お前がきっと……『誰か』になるのだろう。さて、行くぞ!」


「あっ……はい!」


 弟子の戸惑いを他所にルカは歩みを再開する。

 帝国城の東西をつなぐ橋に、二つの影。彼らは災禍が眼前にあるとは思えぬほど穏やかに歩む。明け方の西日が二人のシルエットを静かに映し出していた。


 ~・~・~


 帝国城に落下した怪物、【血姫】シロナ。

 変わり果てた皇后の姿に兵士たちは戦慄し、ひたすらに逃げ惑う。


「ァ……ァ……!」


「ぎゃあああっ! クソ、死ね、死ね!」


 追い込まれた兵士の一人が対不死砲を放つ。不死魔族や天竜すらも滅ぼす戦略兵器の一種である。しかし砲撃によって破壊されたのはシロナの周囲の空間のみ。彼女は一瞬で再生を終え、兵士の肉体を斬り裂いた。

 もはや彼女は止められない。目に映るモノを全て壊し尽くす破壊の化身である。


「……魂を破壊されても死なぬのか。恐らく因果が捻じ曲がっているのだろうな。倒す手段は……」


 ルカはシロナの姿を見て思案する。

 アルスもまた眼下で暴れる怪物の姿を捉えていた。


(青霧でも倒せないだろうな。変質した混沌の因果によって、死と言う概念が消去されている。共鳴を解放すれば強引に因果を漂白して倒すことはできるが……相手は災厄ではないので行使不可能。セティアでも倒すのは難しいだろうな……)


 変質した混沌の力は、混沌の力では容易に倒せない。生半可な秩序の力すらも呑み込んでしまうだろう。

 それこそ災厄のような途轍もない秩序の力によって、シロナの混沌を滅する必要がある。命神が施した加護は相当に強いもののようだ。


「アルス。安息世界での出来事を覚えているか」


「……はい。あの世界での出来事を覚えているのは僕、セティア、ノア。そして師匠だけです」


「では。俺が龍神を回帰させた際の戦いを、僅かでも覗き見たか?」


 アルスにはルカの言わんとしていることが分かった。分かってしまった。

 ATとの戦いの際、『破滅のサーガ』に刻まれた記憶。ルカの正体が今世紀に現れる第三災厄ルハジャルカであることを彼は知っている。

 己の師はきっと、災厄の力を以てシロナを沈めようとしているのだと。


「僕は貴方の正体を知っています。災厄セェノムクァルを継ぐ、災厄ルハジャルカ。でも、今は……きっと災厄の力を解放するべきではない。僕はそう思います」


 率直にアルスは胸中を打ち明けた。まだ師を喪いたくないと。

 だが、


「きっとお前は、俺との別れが怖いのだろう」


「……っ」


「分かっている。一度災厄の力を完全解放すれば、俺の理性は元に戻らぬ。だが正直な……もう魂が持たんのだよ。まもなく俺の終わりは来る。ならば、彼の化生を討つために俺の力は振るわれるべきではないか。せめて俺が愛した世界のために死ねるように」


 彼の決意はどこかアルスの本質と重なるものがある。

 共鳴者として第四災厄『邪剣の魔人』を倒した時、アルスは対消滅する。世界のために力を掲げる英雄。師弟は本質的に、同じ死生観を抱いているのかもしれない。


「……なあ、アルスよ。お前が鳴帝だと知って、俺は安心したんだよ。鳴帝は俺をフィリとオハーツの呪縛から解放してくれた。名も知らぬ男が破滅の型と、エプキスの青霧を携えて現れた。おまけに正体は俺の弟子ときた。これほど喜ばしいことがあろうか」


「僕は……まだ師匠に追いついていない。追いつく日まで、待ってはくれないのですか」


「ふっ……あの化生が出て来なければ、或いは待ってやれたかもしれんが。だが……なんだろうな。俺は最初からお前と巡り合い、そしてお前に終わらされる結末を知っていた気がする。故に──」


 共鳴者としてアルスが災厄を排除するのは当然のこと。

 しかし彼の心がまだ事実を受け入れられない。大切な人を自らの意志で殺すことは、かつての惨劇の記憶を呼び起こしてしまう。


「──故に。俺は災厄ルハジャルカを解放し、あの【血姫】を倒す。不滅の因果は破滅の因果が叩き斬る。その後は……お前の役目だ。俺の弟子として、鳴帝として、そして人を守るリンヴァルス神として。災厄となった俺を討て」


 師の最後の指令だ。無碍にはできぬ。だが、首肯することもできぬ。

 いずれ来たる別れが多少早くなるだけなのに。ほんの少しの時間が、アルスにはどうしようもなく重いもので。


「異論は認めん。お前なら成し得ると確信しているからな。無理難題を押し付けたつもりはない」


「…………分かり、ました。僕には役目があります。災厄を討つ共鳴者としての役目が。命を受けたからには必ず」


「いい返事だ。これより【血姫】を西部の大海洋へ誘導する。目に映る生命を全て破壊する奴の誘導は容易。共に奴を海まで誘導し、海上で戦いを起こすぞ。災厄の力はいとも容易く人理を消し飛ばすからな」


「はい。最後まで……お供します」


 師に破滅が訪れる、最後の瞬間まで。

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