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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
19章 麗血不滅帝国メア
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82. エムティング

 帝国城にて。


「ええい……『羅貌』の殺害に続き、『人握』まで拘束されるとは! 六傑ともあろうものが、これ以上帝国の威信を落とす気か!?」


 第三皇子、『獄剣』エアギースは怒鳴り散らして円卓に拳を叩き付ける。

 周囲の席に座るは『畜謀』メイウ、『天滅』ルカ。メイウはエアギースを諭すように、ゆっくりと語り掛ける。


「皇子、落ち着いてください。まだ六傑は四名残っております。迅速に手を打ち、欠員は補充すれば良いだけのこと。私めには策があります。ご心配なさらぬよう」


「……クソ。貴様の策など要らん、英霊風情が。私は私の手柄を立てる、邪魔をしてくれるなよ」


 エアギースは軍師である彼女に悪態を吐き、苛立たし気に席を立つ。

 その時、会議室の扉が開いた。着物の裾を地面へ流し、悠々と歩く壮年の男。エアギースの父であり、グラン帝国の支配者……皇帝クレメオンである。


「こ、これは父上……! 宮殿よりこのような場所までよくぞ……」


「エアギース。昨今、わが国を騒乱に陥れる逆賊がおると聞く。対処は、できるか」


「はっ! 六傑のうち二名は叛徒の凶刃にかかり死してしまいましたが、私が直々に手を打ちますゆえ! 父上は憂うことなく、母上とお過ごしくださいませ!」


「うむ、そうか……そうだ。そう、余は妻の下へゆかねばならぬ……」


 エアギースの言葉を受け、皇帝の目は突如として胡乱に染まる。

 今まで黙して状況を静観していたルカ。彼は皇帝の様子を見て口を開いた。


「さて、皇帝よ。我はどう動くべきだと考える?」


「『天滅』か。そなたは逆賊を……討て。余と、妻の楽園を壊す者を討て。戦を、起こさねばならぬ……それがシロナの望み……」


「……そうか。貴様は既に、そちら(・・・)側なのだな」


 ルカは諦めたように席を立ち、部屋の外へ出て行った。彼が六傑として招致されたのはアルスの師としての務めを終え、ベロニカに剣術を教えていた時のこと。当時は皇帝もまともな精神を保っていたのだが、今ではこの有様だ。


 無人の廊下を歩くルカの背後に、一人の少女が突如として現れた。


「──どこへ往かれる、『天滅』どの」


「『鬼凶』か。なに、少し外の景色を眺めるだけだ。離反はせぬ」


「それは重畳。貴殿に見放されると、帝国は斜陽へ向かおう。或いは、既に向かっているのやもしれぬが」


「ああ、だろうな。『鬼凶』は帝国を見限らぬのか? 皇帝はもはやまともではなく、人間ですらないだろう」


 既に二人は皇帝の正体に気が付いている。宰相の『畜謀』メイウも気が付いているかもしれない。いずれ正体が暴かれるか、影に潜むグッドラックに殺されるのかもしれないのだ。だが、それでも……六傑は帝国から離れない。


「私は殺し屋。死を与るシルバミネ家として、一度受けた任は遂行しまする。どちらにせよ表の世界では生きられぬ人間、首切りの道具ゆえ」


「ほう。では、一つ助言を授けてやろう。あくまでこの愚国と添い遂げるのであれば……グットラックの首領と、黒髪の男には注意せよ。貴様も先日の戦いで奴らの強さは知ったであろう」


「はい。しかし、ご心配には及びませぬ。私は必ず標的を殺します」


「…………うむ」


 ルカは複雑な心境で頷き、その場を去った。


 ~・~・~


 エキシアとエルムが滞在しているグッドラック支部へ戻ったアルスたちは、これまでの経緯を説明する。

 鉄道に『羅貌』が乱入し、皇女を国外へ搬送できなかったこと。引き返した先でイルと合流し、『人握』を捕縛したこと。


 話を聞いたエルムは想定外の事態に頭を抱える。


「はあ……皇女殿下を逃がせなかったのは厄介な展開だな。……あと、無限龍は捕まってたのか? そんな報告は聞いてなかったが」


「ああ。情報を探るために敢えて捕まっていた。『人握』攻略のためにも情報は欠かせないと思ってな」


「そう言うことなら、ボクかボスに連絡してくれよ。さて……で、そこに転がってるのが『人握』ネモか。どうすんだ、ボス」


「もちろん話すべきことは話してもらうとも。ネモ君、君の処遇をどうするかは完全にグッドラックの自由だからね。なんたって私たちは一般的には悪の組織として認知されているのだから」


 ネモは恨めしそうにエキシアを睨んでいる。捕縛された今でも、彼女の敵愾心は衰えていない。

 口を割るかどうか不安な点もあったが……


「別に話すことなんてそこまでないけど。ネモが話せることなら話すよ」


 グッドラックを敵視しているものの、要求にはあっさりと答えるようだ。


「へえ……意外と簡単に口を割るんだね。私たちからすればありがたいことだが」


「別に六傑は帝国に忠誠心とかないしね。ネモは異能を有効活用できる職を探した結果、六傑になっただけだし」


「そっかあ。じゃ、私は何を聞けば良いのか分からないから……『神算鬼謀』、よろしく!」


 投げやりなエキシアの態度。任務を全て押し付けられたエルムは呆れつつも自らの使命を果たす。

 まず知りたいのは、皇帝の正体について。


「じゃ、一つ目。皇帝クレメオンの『種族』は?」


「……ネモもよく知らないけど、羅貌と同じ……『えむてぃんぐ』って言ってた。でも、そのえむてぃんぐって言うのが何なのかは分からない」


「エムティングか。僕は『羅貌』ギーツと交戦したが、一応特徴を書き記しておこう。基本的にはエムティターと似通った再生法だったが、エムティターの弱点である水属性は効かなかった」


 アルスの報告を受け、エルムは思案する。たしかにエムティターと名前も似ており、関連性が高いと思われる。しかし、そもそもエムティターに対する研究すら進んでいないのに、別種の情報など分析できる訳がない。

 皇帝の種族名が分かっても、倒す手段が分からなけば無意味。手詰まりかと思われたその時、セティアが徐に口を開いた。


「ああ、エムティングかあ。あのギーツって言う六傑は、ぼくがぶち抜いたから倒せたんだね。じゃあ皇帝もぼくがぶち抜けば倒せそうだね」


「知っているのかセティア!?」


 アルスは彼女の肩を激しく揺さぶり、エムティングに関する情報を吐かせようとする。たしかに創世より世界を知るセティアであれば、不可解な単語も知っているかもしれない。


「エムティングは……クニコスラの眷属だよ。エムティターとやらは水属性が弱点だったらしいけど、エムティングの弱点は星属性、および天属性。この二属性は使える人がすごく少ないから厄介だ。……あ、ぼくは使えるけどね?」


 どや顔を浮かべるセティアに対し、エルムは更に質問を重ねる。


「えーと、セティア女史。クニコスラってのは何だ? ──どこかで聞き覚えがあるような……ボクの前の(・・)記憶か?」


「心神クニコスラ。創世から三千年くらい存在し続けた神だね。彼女の死因は……アテルがちょっとこう、べしっと。災厄に対抗するために心神が生み出した眷属がエムティング。ぼくがみんなの武器に星属性の加護を刻んであげれば、エムティングも倒せるようになると思うよ」


 アルスは会話を聞く最中、疑問に思う。なぜ死したはずの心神の眷属が存在しているのだろうか。古代よりの生き残りか、或いは……術神の件のように何者かが暗躍しているのか。他のグッドラックの団員は気にしていないようだが、アルスはそこが一番気掛かりだった。


「本当かよ、助かるぜ。セティア女史は博学な上に魔術の腕もあるんだな」


「ふ……へへっ、もっと褒めたまえ」


 エルムはセティアの性格を即座に把握した上で、彼女をひたすらにおだてる。彼女のような人間は扱いやすいので、エルムにとってはありがたい。


「よしよし、順調に情報と対策法が集まってるぞ。じゃあ『人握』、次に皇帝クレメオンが戦争準備を進めているのは、新たな妃の影響か?」


「そうだよ。シロナ王妃ね……ネモもあの人のことはよく知らない。すごく美しいけど、近くにいるだけで身震いしそうになる。なんだか不気味なお妃さま」


「そうか、次だ。六傑の情報について……」


 その後もエルムの尋問は続き、グッドラックは打倒皇帝の策を練っていく。

 ネモはひとまず拘束し、皇帝の暗殺成功次第、解放するという運びになった。彼らはセティアに星属性の加護を武器に刻んでもらい、対エムティングの手筈を整える。

 そして、帝国城へ突入する準備を進めるのだった。

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