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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
19章 麗血不滅帝国メア
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81. 『黒舞台』対『人握』

 人気者になりたかった。

 何の特技も魅力もない私なんて、誰も興味を抱いてくれない。視線が欲しい。尊敬されたい。愛されたい。誰よりも、誰よりも注目されて、崇拝されたい。


 リーナ・アロベルは只人に過ぎず、到底アイドルになれる器ではなかった。

 だけど、自己顕示欲は常人の何倍も強い。他人が輝く瞬間を見れば見るほど、私の心の闇は深くなっていく。

 もっと私を見て。見て、見て、見て。


「私を──」


 日に日に膨れ上がっていく劣等感、乖離する自分の能力と願望。十五歳の私は、あと一年で高等学校を卒業して、進路が決まる。煩悶の中で、私は社会に埋もれて死んでいく将来に怯えていた。その日が、人生のターニングポイント。

 もっと私を認めてくれる未来が欲しい。そう思い続け、教室の隅で進路調査の紙に目を落としていた。


 人の願いは異能を発現させると言う。

 進路調査を前にして、私の常軌を逸する自己顕示欲と、未来への不安が爆発した。同時、私は正気を失い絶叫。

 ひたすらに、教室の中で叫びを上げた。


 ~・~・~


 気が付けば、クラスの人はみんな倒れていた。死んではいないものの、気絶してしまったと聞く。

 異能、【白歌・黒歌】の発現。私が絶叫して発動したのは【黒歌】の方だったらしい。


 白歌は私の声を聞いた者に身体強化を付与する。

 黒歌は……私の声を聞いた者に……恐怖を植え付ける。私を畏怖したあまり、クラスの皆は気絶してしまったと。

 ……違う。私が欲しかったのはこんなものじゃない、真逆のものだ。嫌われたくないのに、どうしてこんな異能が発現したのか。まったく分からない。分からないから、自分がますます嫌いになった。


 異能【黒歌】の危険性を重く見た自治体は、私を施設に収容した。ますます私に対する目は厳しいものになり、ますます孤独は進んで……狂奔に陥って。

 私は自分の命を、断とうとしたのだ。


「こんにちは、綺麗なお嬢さん? その命を捨てるくらいなら……私たちと一緒に来るかい? 我らはグッドラック。弱者の為に戦う、(せいぎ)の味方さ」


 月下、首元に刃を突きつけた私の下に現れた(ボス)

 彼はニヤニヤと笑って、私にそう告げた。ひどく馬鹿にした風体なのに、不思議と腹は立たなかった。

 手を掴み、闇へと駆け出す。男と共にひたすら逃げて、外国のディオネへ。その瞬間から、私……『白舞台』シトリーが生まれた。そして少し後に、表の顔──アイドルのリーナが生まれたのだ。


 今も昔も私の意志は変わらない。

 私を見て。認めて。愛して欲しい。だから……黒歌ブラック・オンステージは使わない。

 でも、もしも。私の歌で助けられる人が居るなら……私の居場所を作ってくれたグッドラックの力になれるのなら。

 私は……


 ~・~・~


「私は、歌う! 『黒歌ブラック・オンステージ!』」


 ステージに置いてあるマイクを手に取って、呪われし声帯を起動する。

 叫ぶのはナンセンス。歌って、綺麗な歌声で……私を恐れて。


『~♪』


 何度も何度も、アイドルとして使い潰した声を出す。でも、今の声は人を喜ばせるための歌じゃないよ。


「な、なんだこの声は……!?」

「あ、ああ……悍ましい! 化け物の声だ!」

「うわあああああああ! やめろ、やめてくれえええええ!」


 このドームに居る全ての人に歌声を届かせる。恐れて、畏怖して、壊れてしまえ。

 ネモの崇拝なんか興味なくなるくらいに、その心を壊してしまえ。だって、ここで私が歌わなきゃ……アルス君とイル君が死んでしまう。


『──!』


「あ、あなた……やめて! その……不愉快な歌声をやめなさい!」


 ネモは耳を塞ぎながら私の声を奪おうと呼びかける。

 でも歌は止まらない。


「これは……シトリーの異能か?」


「ああ。俺も見たことはなかったが、ボスに聞いたことはある。白歌の他にもう一つ、聞いた者の精神を汚染する黒歌があるそうだ」


 アルス君とイル君には不思議と効いていない。この二人も効果の対象のはずなんだけど。でも今は好都合だ。味方に効かないのなら、もっと全力で歌えるから。

 魂からの叫びで、私を見て。そして──倒れろ。



 歌い終わった頃には、全ての観客が失神していた。これでネモの崇拝はゼロになる。


「なに、これ……こんなの、卑怯だよ!」


「ごめんね、ネモ。あなたのカリスマは凄いよ。人を魅了できる才能も、人心を掌握する手段も、私よりもずっと上。本当ならこんな真似であなたの信仰を奪いたくはなかった。けど……」


 けど、仕方ない。

 私が歌えば、きっと戦争を防ぐことにつながるから。


「よくやった、シトリー。綺麗な歌声だったよ」


「……そんなこと、言わないで。今の黒歌は……綺麗な声なんかじゃないよ」


 アルス君は私を労ってそう言うけれど、どうせならアイドルとしての歌声を褒めてもらいたい。

 もう二度と、黒歌を歌うことはないと良いな。


「じゃ、コイツをボスのとこまで連行するぞ。少し寝てろ」


「ぐっ……!」


 イル君は素早くネモに手刀を入れ、彼女を気絶させる。これで任務達成だ。

 六傑のうち一人を捕縛したことによって、状況は一気に傾く。


「【支配者】の異能は、ネモタウンを出れば効果を失う。ここの住人が眠っている内に『人握』を外部へ搬送し、帝国に関する情報を吐かせるぞ。変態、ボスとエルムに通信を頼む」


「了解。あと、この街の支部にいる皇女殿下とセティアも回収して行こう」


 そして私たちはネモを連行して、再び帝国城付近の支部へ戻った。

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