表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
19章 麗血不滅帝国メア
454/581

78. 進路なし

 『羅貌』ギーツを貫いた創世主の片割れ。

 まさかの遭遇にアルスは動揺しつつも、セティアを排除するべく動き出す。


「君、すまないが少し話がある。ベロニカ殿とシトリーはここで待っていてくれ」


 当惑する背後の二人を他所に、アルスは無理やり崩壊した鉄道の陰にセティアを連行する。周囲はダイナマイトの爆発によって惨憺たる有様だったが、彼の働きにより乗客は無事だ。


「なんだい、ぼくをこんな場所に連れ出して。ああ、もしかして連絡先の交換かな? やっぱり美少女はつら……」


「少し黙ってくれ。説明する」


 ~・~・~


 アルスは自らが鳴帝であること、今はアルスと名乗っていること、そして帝国を取り巻く現在の状況についてセティアに説明した。セティアの頭で十分に説明を理解できたのか定かではないが、自分がイージアであると明かした方が彼女とは連携が取りやすいはずだと彼は考えたのだ。


 どうやらセティアは本当に偶然、この鉄道に居合わせたらしい。『愚者の空』を出てから彼女はずっと旅を続けている。


「ふーん、イージア君がアルス君?」


「ああ、そうだ。人前ではそう呼んでくれると助かる」


「へー……アルス君? アルス……君? アルス!」


「……」


「あるす。アルスゥーーッ……。アルス♡」


 どこが気に入ったのか、彼女はアルスの名前を連呼する。馬鹿にされているようだ。


「……まあ良い。今回の件、助かった。君も帝国に留まるのなら気を付けろ。それでは」


 簡潔に現状を伝え、アルスは踵を返した。列車が爆破されてフロンティアへ投げ出されたが、セティアならば単身でも問題はない。喫緊の問題は、リンヴァルスへ向かうか、引き返して帝国領へ戻るかどうかだが……


「二人ともお待たせ。さて、列車が爆破されたことにより僕らはフロンティアの真っただ中にある。他の乗客たちは帝国へ徒歩で戻るようだけど、僕らはどうしようか」


 ここから徒歩で戻る場合、グラン帝国へ戻った方がリンヴァルスへ向かうよりも遥かに早い。ただし戻った場合、更なる六傑の追撃が待っている可能性もある。

 考え込む三人の中で、シトリーが沈黙を破った。


「私は……正直に言って、拘束された無限龍君が心配かな。無限龍君が捕まるくらい苦戦してるとなると、ボスや神算鬼謀君も危ないかもしれない。でも皇女殿下を連れて行くのは……」


 シトリーも躊躇っている。一旦皇女をリンヴァルスへ送還してから、再びグラン帝国へ戻るのが最も安全だ。しかし時間の余裕がない。一刻でも早く無限龍の救護に向かわなければ、処刑されてしまう可能性もある。

 アルスも同意見だった。二人の意思を汲み取ったのか、ベロニカは決意する。


「本当に私はお荷物になっていますね……ご遠慮なさらず、無限龍様の救出に向かってください。大丈夫、私とて剣士です。二度と先日のような恥は晒しません。お父様にも我が身は無事であると伝えておきましょう」


「……ですが」


 なおもアルスは迷う。六傑はそこまで強くはない……強くはないが、ギーツのように未知の厄介さを兼ね備えている。万が一のことがあれば、皇女を守ることができない。


「いいえ、アルス様。私の身を守れぬのは、偏に私自身の責任です。こうして国の外へ出て危険を冒したのも、私の責任。もう重荷にはなりません。一方的に助けられるのは御免なのです、どうか力にならせてください」


 彼女が何と言おうとも、アルスは彼女の安全について責任を感じてしまう。それでも彼女の意志を肯定せざるを得ない。皇女であろうが只人であろうが、前へ進むための意志を阻害してはならないのだから。


「……ええ、立派なご意志です。シトリーもそれで良いかな?」


「うん、皇女殿下……ベロニカちゃんが良いならそれで。……ていうか変態君、あの人ずっとこっち見てない?」


 薄々アルスも勘付いていたが、セティアがずっとこちらを見ている。何を考えているのかが分からず、不気味なことこの上ない。

 彼女を味方につけて無限龍の救出へ向かう……という策は危険だ。以前アルスがセティアと行動を共にした際は、彼女のせいで危機的状況に陥ることもあった。


「……恐らくついて来るが、まあ放置で良いんじゃないか」


「そ、それは……アルス様のご友人なのでは?」


「まあ、そうなんですけど。はあ……」


 仕方がないので、セティアもついて来れば戦力として計上する。ボスやエルムからの通信は来ていないが、恐らく窮地に陥っているのだろう。戦力は少しでも必要だ。

 列車が爆破され、帝国のグットラックも危機にある今、アルスたちの働きが要となる。三人……セティアを含めれば四人は、再びグラン帝国へ舵を取るのであった。


 ~・~・~


 秘匿されたグッドラックの支部にて、エキシアとエルムは策を練り合っていた。


「ボクが調べたところによると、皇帝クレメオンは新たな妻の虜になっているらしい。戦争の準備も妃が唆したことで進んでいるとか。黒幕は妃と見て間違いなさそうだぜ」


「うーん、何が目的なんだろうねえ。あと、アレだろう? 先日斥候が内部へ入り込んだが、皇帝は……なんだ、アレだよ」


「ボス、そう言葉を濁さずともいい。皇帝は『化け物』だ、人間じゃない。首を撥ねても死なないし、体を細切れにしても死なない。暗殺はもっと皇帝の正体に関する情報を掴まない限り難しいな」


 斥候が持ち帰った情報は信じがたいものだったが、信じる他ない。皇帝はたしかに暗殺者によって殺されたが、瞬時に再生したと言う。彼の生まれは通常の人間と同じで、不死の魔族ではないはずだ。


「六傑のうち、一人でも捕縛できれば情報を吐かせることができるんだけど。そこは無限龍を信じるしかないか」


 エキシアは無限龍イルを東の都市に派遣した。東部都市は六傑の一人、『人握』のネモが支配している区画だ。イルには六傑の捕縛を頼んで派遣したので、その策が成功すれば上々。


「……正面切って皇帝を粉砕しに行くのは、あまりにリスクが高い。特に『天滅』と『鬼凶』が私と同じくらい強いからねー。おまけに皇帝自身もあの二人より傑物の可能性があるときた」


 既に都市近郊はグッドラックへの警戒体制が敷かれている。容易に動くことはできない。

 ここは神算鬼謀の策が光るところ。どうにかして窮状を打破する策を打つ必要があった。


「今はとりあえず、情報を集めながら無限龍の帰還を待つ。もしもアイツが失敗したら……次の一手だ」


「……うーん。無限龍は私と同じくらい強いからねえ。彼が失敗すると君は考えている?」


「──全てにおいて絶対はない。アイツは……つかみどころがない。だからボクも正直、どう転ぶか分からないんだ。たしかに実力はあるが、どうにも……」


 歯切れ悪く、エルムは俯いた。

 エルムが俯く時は、いつも深く考え込んでいる時。不穏な気配を感じ取り、エキシアは席を立った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ