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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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42. ヘクサム・ホワイト

 穏やかに流れる日々。

 神々により恵みを施され、人々の手によって編まれし安寧。


 そこに亀裂を走らせる者が一人。

 手にした剣は命を裂き、蹂躙する。

 その前に立つ命は等しく捌かれる。

 傍には、夥しい数の死体。

 ただその魂が望むまま、破滅を振りまく死兵。


 ──『狂刃』。


「ホワイトの血筋……スフィルの子孫。彼の者ならば、或いは……」


 死の行進は続く。

 其は確実に、ゆっくりと近づいていた。


              ----------


 俺はいつものように退屈な事務を片付けていた。


「まったく……俺の本業は戦う事なんだがな。いつからお役所仕事ばかりになったんだか」


「ま、しゃーねえ。聖騎士……特にお前みたいな貴重な人材は失えないからな。グラン帝国との緊張も高まってるし、非常時に備えてろ」


 俺が零した愚痴に同僚のヤコウが反応する。

 コイツは元来やる気の無い気質だから、聖騎士の待遇にも不満は無いのかもしれない。俺は実力のある者こそ戦うべきだと思っているのだが。


「身体が鈍るんだよ。俺の神能は人を守る為にあるんだが……」


「へーへー。お前の息子みたいに傭兵でもやったらどうだ?」


「ハッ……それも悪くないな」


 そういえば、アルスが帰ってきたら手合わせをする約束をしていたな。

 アルスは他の子と比べても、異様に成長が速い。それは戦闘技術においても例外ではなく……修行後のアルスを初めて見た時、俺は彼が強者になっている事を悟った。


 ……俺が勝てるだろうか?

 情け無い話だが、不安はある。しかし俺とてディオネ聖騎士……数々の武功を立ててきた。

 それに、親として壁になってやらないといけない。


 そんな事を考えながら書類に目を落とす。

 ──この書類を処理し続ける退屈な日々が、どれほど幸せなものだったのか。俺は知る事になる。


「ほ、報告ですっ!!」


 突然、緩んだ空間を怒号が切り裂いた。


「何だ……?」


「五大魔元帥『狂刃』と思わしき者が王城に接近中! 現在はロイン街を通過し進行中、被害は甚大なものになると予想されます! 聖騎士は至急、臨戦体制を整えて下さい!」


「──」


 ……何を、言っている?

 五大魔元帥はこの世界において最悪の災害として知られている。

 ある地域は魔王に、またある地域は壊霊に。


 そして今。

 このディオネに、狂刃によって破滅の手が伸ばされようとしていた。


「ヘクサム、何ボサッとしてんだ! 早くしろ!」


 ヤコウの声が聞こえてハッと我に帰る。


「……す、すまん。俺とした事が冷静さを欠いていた。……行くぞ」


 思考を取り戻して真っ先に思い浮かべたのは、家族のことだった。民衆を避難させようにも、『狂刃』の進行方向が不明瞭な以上、騎士も指示を出しかねる。

 王城に進攻しているという予測がある以上、ここを避難所にも出来ない。


「とにかく、俺が止めなくては……」


 俺は神能は、魔に対抗する為に神から授けられた『四葉(よつのは)』。

 そして、民を脅威から守る事が俺の役割だ。だから恐れはしない。


 ──けれど、大切な人を失うのは怖い。

 誰だってそうだ。

 ……だからこそ、


「絶対に、守ってみせる」


 この国を、家族を。


              ----------


「狂刃の出現により、被害は計り知れないものとなるだろう。セリダン、指示を」


 陛下が騎士を召集し、宰相のセリダンに指示を出す。


「はっ! 第一から第八部隊は緊急配置に。特殊部隊は後に詳細の指示を与えます。聖騎士で残っているのは……イベン様、ヘクサム様、ロベリア様、ヤコウ様ですね。狂刃は王都へ向かっている可能性が高いと思われます。ですのでイベン様、ヤコウ様は王城で待機を。ヘクサム様、ロベリア様は狂刃の討伐へ向かって下さい」


「……了解した。ロベリア、行くぞ」


 聖騎士第七位のロベリアを連れ、焦燥に駆られながらも支度をする。


「焦るのは分かりますが、冷静さを欠かないで下さい。まだ時間はありますから」


「あ、ああ……すまんな」


 彼女は歳若いというのに、かなりの実力者だ。

 その様子がどこか息子を彷彿とさせる。


 ……そういえば、アルスはリンヴァルス帝国へ向かっているのだったか。ならば危険に晒されるという事はない。

 その事実に安堵しつつ、続け様に浮かび上がってきたのは妻と娘の安全への危惧。


「……駄目だな、こんな調子では」


 俺は多くの国民の命を預かる身。常に大局を見据え、役割を意識しなくてはならない。

 自身に喝を入れ、脚を動かす。


「さあ、行くぞ!」


「はっ!」




 世界は百年前より、五大魔元帥によって幾度も危険に晒されてきた。

 ある時は国が滅び、ある時は天災を巻き起こす。悪の権化、死の体現。

 およそ十五年前にはグラン帝国のダイモン領がヤツらによって滅ぼされたと聞く。


 しかし、人もただ手を拱いている訳ではない。

 技術の進歩により、五大魔元帥の力を軍隊の力が上回り、追い返す国も出現しつつあった。

 現在、渦中にあるディオネも大方は人々の避難が完了していた。

 王城へ向かっているという報告から、狂刃と王城の間は厳戒態勢が敷かれている。


「……避難が早いな。ロディーが指示を出してくれたおかげか」


 心中で聖騎士の同僚に感謝しつつ、辺りを見渡す。

 敵の予測進路であるマイロ街道に戦線が敷かれている。俺を含めた三人の聖騎士、対魔の魔導士団、聖弾装填の魔銃に大砲、戦車。


「これだけの備えがあれば……いや、油断は出来んな」


 魔元帥は神能や異能と同様、人知を超えた能力を持つ。それこそが恐れられている所以であり、長らく人がヤツらを倒せない要因であるのだから。


「ヘクサムさん! ここに居ましたか」


「ロディーか。状況はどうだ?」


 駆けつけて来たのは聖騎士第九位のロディー・クオーツ。

 彼はいつも冷静かつ迅速な対処が可能だ。この僅かな時間でここまでの対策が出来たのも彼のおかげだろう。


「衛星によると、真っ直ぐこちらへ向かっているとの事です。援軍もこちらへ向かっていますから、更に戦力は見込めるでしょう」


「そうか。ロベリアと前衛部隊にも状況の確認を頼む。ここで何としても食い止めるぞ!」


「はっ!」


 この調子で事が運べば、被害は騎士だけに止めることが出来る。

 問題は、その被害をどれだけ軽減するか。

 それを考えるのがこの場の指揮を執っている俺の役目だ。人の命を預かる以上、責任は重大だ。


「戦術師はこちらへ。作戦を立てるぞ」


 全ての力と、知恵を集めて。


              ----------


「……妙だな」


 あれからどれ程時が経った?

 いや、実際時計ではそこまで時は経過していないのだが、緊張のせいで異様に長く感じる。

 そろそろ来ても良い頃合いだと思うが……


「来ませんね……」


 ロディーが不安そうに呟く。

 緊張で鎮まり返っていた戦線にも、次第にざわめきが現れ始める。


「不味いな、統率に支障が出る。ロディー、もう一度確認を……」


 その時、


「ほ、報告致します! 狂刃の進路が変更! 警戒体制を敷いていない、ゼロント方向に向かいました!」


「なっ……!?」


「避難は間に合いません! 近場の兵を送らせましたが、甚大な被害が予想されます……! 戦力をここに集中させたのが裏目に出ました!」


 ──待ってくれ。

 あそこには、ナニラとマリーが……


「ヘクサムさん、指示を!」


 ロディーの声が頭に響く。

 彼の声はやけに小さくて……


「……この場の指示はお前に任せる。俺は狂刃を止める」


 全力で、駆け出す。

 魔力を全開にして速度を強化する。


 速く、速く、速くしろ。

 もっと速く。

 間に合わなかったらどうするんだ?


 速く走れ!


「ま、待って下さい! ヘクサムさん!」


 考えている余裕など無い。


 間に合え。


 ただそれだけを祈り、走り続ける。


『行ってらっしゃい』


 妻ナニラのそんな言葉が、ひたすらに木霊していた。

 

 

 

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