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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
18章 地獄死闘舞台バロメ
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54. 暗躍者の真意

「……ことの始まりは我、龍神が魔磁場の異変を感知したこと。それは真に微細な歪みであった。取るに足らぬ歪曲であった。はじめ、我は気にも留めることなく歪みを見逃していたのである」


 龍神は語り始める。彼がここへやって来た理由と、このコロシアムを中心にして何が巻き起こっているのかを。

 ルチカは黙して神の御言葉に聞き入る。


「歪みは小さかったがしかし、同時に深くもあったのだ。どこまでも、深淵を見通せぬ。いくら我が魔磁の歪みを正そうとしても消えぬ、部屋角の埃がどうやっても拭えぬようにな。深淵の原点は、この闘技場を中心として展開されておる。之はもはや人に為せる業ではなく、神域に至りし狂気。或いは妄執。間も無くこの闘技場は、一種の精神世界と成り果て、世界から切り離されるであろう」


「切り離される……とは? ディオネ解放の際のように、結界によって周囲から隔絶されるということでよろしいのでしょうか?」


「いや、些か異なる。いわば外界からの完全な断絶。出ることも、入ることも能わず……個としての世界が成立するのだ。恐らく今回の闘技大会を利用し、参加者から奪った魔力を利用しているのだろう。闘士たちに疲労が多く見られるのもその所為だ」


 耳を疑うような話であった。しかし神が言うのならば間違いはない。

 ルチカは存外にスケールの大きい話に動揺しつつも、感情を表に出さず記録した。


「では勿論のこと、その企てを防がねばなりませんね。歪みとやらが何なのか、浅学な私では見当がつきませんが、お力になれることであれば……」


「此度の怪異、人の手に余る。故に我が動いたのだ。汝の仁徳はもっとも、だが不要」


「承知しました。では、この度はありがとうございました」


 ここで食い下がるルチカではない。彼女の役割は主人に情報を伝えること。以後の指示は主人に従うのみ。

 彼女は早々に龍神に頭を下げて、龍神の下から離れて行った。


「この闘技場を覆う術式……いや、まさか奴のものではあるまい。クラヴニの紋様と言い、死した神々が何故……」


 死帝の腕には【罪神】クラヴニの紋様が。

 そしてコロシアムを覆う術式の断片には──


 ~・~・~


「……以上が報告になります」


 ルチカの話を聞き、アルスは思わず頭を抱えた。

 死帝との遭遇、龍神の真意。このコロシアムを中心に隔絶結界が展開されようとしている、逼迫した状況。


「普通に考えれば死帝が暗躍して、コロシアムを世界から切り離そうとしているわけだ。コロシアムの周辺にいた魔力体の狼とやらも、死帝のせい……なのか? ある程度の情報は集まったけど、依然として目的が不明だな。そんなことをして最終的に何を望むんだ?」


 アルスは思考しながら一枚の紙を広げる。

 ルチカから報告を聞く直前のこと。過去の闘技大会を視聴し終わった後、彼は外へ出て周囲一帯の魔力の波長を調べていた。

 龍神の言う通り、コロシアムを中心としてぽっかりと穴が空いたように見通せぬ魔力の流れがある。


「しかし、これである程度の合点はいった。龍神の話と辻褄を合わせても、コロシアムの地下に元凶があるのは間違いないな。具体的に言えば、シエラ山の頂と同じような魔力構造が創られつつある。あそこも晴天の試練を行うために、外部から干渉できない空間を創り出していて、それと酷似した魔力の展開が見られるんだ」


「如何なさいますか?」


「いかがなさいましょうか……まあ、放置はできないよね。龍神の言葉を信じて何もせず待機……でも良いんだけど、シャンバさんや参加者たちに被害が及ぶ前に食い止めたいのも事実」


「その件に関してなのですが。ご主人様はシャンバ様を疑っていらっしゃらないのですか?」


 ルチカから問われたアルスは気難しい表情を浮かべる。

 このように聞かれると言うことは、少なくとも彼女はシャンバを疑っている。無理もない、コロシアムの支配人が地下の異変に気が付かないというのも可笑しな話なのだから。


「僕も昨日までは全然疑ってなかったんだよね。あの人、まったく悪意が読み取れないし。ただ……この状況を見ると少し疑ってしまう。どちらにせよ元凶を確認すれば分かることだ。さて、その上でまだいくつか問題が残っている」


 アルスは指を三本立ててルチカに見せつけた。彼がこうして内密な相談をルチカに真っ先にするのも、使用人を信頼しているためだ。


「ひとつ。地下を調べる時間はいつにすべきか」


 可能であれば選手から魔力を奪っているという確証が欲しいので、明日の試合中に突入したい。恐らく龍神も同じ時間を狙って来るのではないだろうか。

 或いは、龍神と遭遇しそうな時間を敢えて避けて、怒られないようにするのもアリかもしれない。


「ふたつ。この件、誰を関わらせるべきか」


 アルスとルチカは既に巻き込まれてしまっている。

 たとえばマリー。彼女は死帝が関わっていると聞けば、どんな行動に出るか分からない。意地でも死帝を討とうとして、かえって命を落とす危険性がある。このまま観戦してもらった方が安全だろう。


 次にタナン。彼は強敵(死帝)が居ると知れば、突っ込んで行くかもしれない。いや、そこまでアホでもないかもしれない。ついでに龍神が来ている以上、どんな化学変化を起こすか分かったものではない。父親に負けじと地下に猪突猛進していくのも容易に想像できる。


 後はヤコウ……彼はやる気がないので何をしても動かない気がする。

 そしてエニマ。恐らく彼女はあまり魔力を奪われていないので、気力に溢れて勝ち上がっているのだろう。竜属性は体内で魔力を蓄積してから一気に放出するものであり、恒常的に魔力を放出する他の属性とは趣が異なる。放出期間が極めて短いので、その分吸われている魔力も少ないと見た。

 突入を明日の試合中とした場合、彼女は出場するので協力を仰ぐことができない。事実を伝えて、闘技中に異変がないかを確認してもらうことぐらいは可能かもしれないが。


「みっつ。暗躍者の目的は何か」


 相手の目的が分からないまま喧嘩を売るのはリスクが高い。世界からコロシアムを切り離して何がしたいのか。下手に動けば虎の尾を踏み、相手の行動を早めてしまう恐れも。


「さてさて、考えようか。ルチカの意見を聞かせてくれ」


 そして二人は不気味な計画を食い止めるべく、今後の対抗策を練り始めた。

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