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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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40. リンヴァルス帝国、到着!

 リーブ大陸の西端、すなわちディオネ神聖王国の西国ワルド王国の更に西、リンヴァルス帝国。

 その地に僕は訪れていた。


 街路脇に枝垂桜が花びらを散らし、晴れやかな日の下を人々が歩く。

 伝統的な自然光景に入り混じるのは、世界屈指の近代技術。魔導と科学を織り交ぜた青光りのテクノロジーが、桜並木の妖麗な道を侵食している。


「思っていたよりも活気があるな」


 この国は他の国と比べても特異な歴史を持つ。


 リンヴァルス帝国の成り立ちは五千年以上前と言われている。多くの国々が世界(アテルトキア)で興亡する中で、この国だけが残り続けたのだ。

 『始祖』と呼ばれる者が、『リンヴァルス神』と呼ばれる神に力を授かり建国したらしい。

 もっとも、リンヴァルス神などアテルも知らないと言っていたので架空の存在である。


 では、始祖も架空の存在なのか?

 始祖の存在は確認されている。この国の実質的な最高権力者でありながら、国政には殆ど干渉せずに皇帝に統治を任せているのが始祖だ。

 彼の姿を見た者は四百年前にしか居らず、他国からは存在が疑われているのだが。

 それでも、歴史上で始祖の脅威を背景にずっと存続してきたのだから凄いものだ。


 ……というのが、特異な歴史だ。

 民は皆、架空のリンヴァルス神を信奉しており、得体の知れない国である。

 言論統制などは特に行われていない為、ネットでは帝国在住でありながら始祖等を崇拝していない者も見られるらしい。


「えぇっと……? こっちで良いのかな?」


 地図を見ながら目的地を目指す。迷いながらも風景は目に焼きつけて。

 

 帝国は入国審査が厳しく、中々内部を訪れる機会は無い。今のうちに色々見て見識を広めておきたい。


 

「リンヴァルス宮殿……ここかな?」


 かなり巨大で荘厳な建物の前に立つ。

 更にその奥には、空中に浮いた宮殿がある。あれが始祖の宮殿らしく、何人たりとも立ち入る事は許されないらしい。


 見張りをしている兵士に尋ねてみよう。


「あの、アルス・ホワイトという者ですが……こちらが皇帝陛下のいらっしゃる場所でしょうか?」


「……少々お待ちください」


 兵士は確認の為に奥へ向かって行く。



 待つこと数分。


「お待たせしました、こちらへどうぞ」


 案内人に導かれ、僕は宮殿へと足を踏み入れる。


              ----------


 皇宮の回廊を進み、客室へと通される。


「お待たせ致しました、アルスさん」


 やって来たのは想像とかけ離れた人物だった。

 皇帝は中年から老年の威厳のある人物像を描いていたのだが……実際には物腰柔らかで年若い男性だった。

 思わず側の従者を皇帝だと勘違いしてしまいそうだ。


「お……お初目にかかります、陛下。アルス・ホワイトと申します」


 立ち上がり、深々と礼をする。


「ははは……そこまで畏まらないで下さい。私はサイラジア・ミッド・フェン・リンヴァルス。一応この国を統治している者です。無駄に長々しい名ですが、以後お見知り置きを」


 ……本当に彼は皇帝なのだろうか。

 この温厚な態度といい、地味な服装といい……皇帝の様な威圧感が全く無い。


「意外と、お若いのですね」


 どう切り出せば良いのか分からず、率直に第一印象を口に出してしまう。


「ええ……よく言われますよ。覇気が無いと父上にもよく咎められました。四年前に即位してから、苦労の連続ですよ」


 はぁ、と嘆息して俯く皇帝。

 先代皇帝は病死したと聞くので、そこら辺にはあまり立ち入らないでおこう。


「それで……僕は何故招かれたのでしょう?」


 本題だ。


「そうでしたね。あなたも気になるでしょう」


 皇帝はパン、と手を叩いて人払いする。

 いくら僕が子供とはいえ、一対一で王族が話すのは危険だと思うが……ここは信頼されていると考えよう。

 彼は念入りに部屋の外にも人が居ない事を確認し、再び席に着く。


「実のところ……私にも分からないのです」


「……え?」


 何を言っているのだろう、この人は。

 なぜ自分が招いたのか、それが分からないと言っているのか? 混乱してきた。


「この国の政治は始祖様ではなく、皇帝が執り行っていることはご存知でしょうか?」


「はい、最高権力者の始祖様は政治に干渉しない上に、姿も見せないとか」


「……最高権力者はリンヴァルス神様です。それだけは気をつけて発言なされた方がよろしいかと」


「あ、申し訳ありません。気をつけます」


 この国ではそういう文化なのだ。

 リンヴァルス神、始祖、皇帝の順に権威が大きく、実質的には始祖が最高権力者なのだが……この国の人々はリンヴァルス神の存在を信じている。無論、アテルはそんな神は存在しないと言っていたが。

 この国に滞在する以上は他国からの視点ではなく、当国の視点に立つ必要がある。郷に入っては郷に従えの精神、大事。


「その偉大なる始祖様なのですが……あのお方がアルスさんを招けと勅命なされたのです。記念日に贈品されるように申しつけるのも、あのお方なのです。私はただそれに従ったのみですよ」


「……始祖様と面識は無い筈ですが」


 ……という事は、僕は始祖に会えば良いのか?

 始祖は何者とも顔を合わせないという噂だったが。


「私も始祖様にあなたをお目にかけようとしたのですが……会う必要は無い、とだけ仰られてしまい……それきりです」


「それは……困りましたね」


 正直言って、訳が分からない。

 やはり何らかの策略ではないかと、疑念も湧き上がってくる。

 もう少し詳しく聞いてみようか。


「陛下は、始祖様と面会したことは?」


「いえ、一度もありませんね。数百年前……戦争があった時代には会った皇帝も居るみたいですが。他国で囁かれている様に、架空の存在でない事は事実です」


 実際、四百年前に『リンヴァルスの天罰』という事件が起こったので始祖の存在自体は認められている。

 具体的な内容は覚えていないが……他国がリンヴァルスを侵略してきた際に、始祖の魔術が敵国の軍隊を滅ぼしたらしい。それ以降、帝国に対して挑発行為を行う国は少なくなった。


 始祖が公の場に姿を現したのはこれが初めてであり、それまでは帝国軍が武力紛争に対処してきた。何故その事件にだけ姿を現したのかは明らかになっていないが、世界を震撼させた出来事なのは事実だ。


「やはり、分かりませんね。僕はこの国で何をすれば良いのでしょう?」


「そうですね……我が国を観て回ってくださると光栄です。何はともあれ、治安には自信がありますから、ゆっくりしていって下さい。私も政治に関しては頑張っているつもりですよ」


「はい、ではそうさせていただきます。色々と教えていただき、ありがとうございました」


 腑に落ちない事は幾らでもあるものの、流れに身を任せて納得するほかない。

 単純に霓天の血筋と交友関係を結びたかっただけかもしれない。リーブ大陸において、四英雄の血筋はホワイト家だけなのだから。


「お忙しいところ、お越し頂いて申し訳ない。宿の方はこちらで手配しますので、何か困ったことがあればいつでも」


「ありがとうございます。では、また」


 こうして若き皇帝と縁を結ぶ事ができたのは大きな収穫だ。


 宮殿を後にし、街中へ踏み出す。

 天に浮かぶ始祖の宮殿を見上げながら。


 


 

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